エインテ デュール

はついち

文字の大きさ
6 / 6

夢の終わり

しおりを挟む

 光の中に足を踏み入れる。足に響く木の音が懐かしいとまで感じていた。
 目の前におじいさんとおばあさんが立つ。リリアンは、夜に出かけてしまったこと、森へ入ってしまったことを謝り、いままでの出来事を話す。二人ともうん、うん、と頷き受け入れてくれた。
 それが嬉しくて嬉しくて、ボロボロと涙が溢れ出る。不安が消え、安堵が生まれる。頭を撫でてくれるおじいさん、抱きしめてくれるおばあさん。あぁ、あぁ、幸せだ。こんな幸せいままで感じられなかった…大切にしよう、これから…そう、決心した



した、瞬間だった




後ろからザクッと何かが振り下ろされて当たった。
一瞬何が起こったのかわからないまま立ち尽くした。
通常なら死ぬであろう感覚、人間なら死ぬであろう感覚。
冷たい重い鋼の感触。
ドロドロと目の前が赤く染まる。
体温が下がっていく。
ふらふらした頭で近くにいたおじいさんとおばあさんを探す。
触ろうとしてもそこには空気しかなく、空振りするばかりだった。

うまく声も出ず、力が抜けるかのようにそのまま倒れた。
朦朧とする意識の中かすかに見えるのは怯える家族と罵る声と歓喜の声が入り混じる。
そこには家族以外にも村の人々たちが集まって声を出しているのもわかった。

さっきまでの幸せと一転して深い闇が襲ってくる。それがとても怖くて、怖くて必死に手を伸ばした。
いるであろう家族の方に。
触れたのは柔らかな体温のある家族の手ではなく、木材、鋼、硬い感触。
かすかに聞こえるのは穏やかな優しい声ではなく、罵倒、暴力、悲鳴。
ぐちゃぐちゃの頭で回る声。
理解はできない。
理解はしたくない。
考えたらいけない。

あぁ、あぁ…
ダメだと、理解してはいけないと、強く思うほど頭は冴えて把握してしまう。
考えてはいけないほどに、気持ちは理解していく。

スッと、体温が下がる。
理解していく。
森の時よりも、ずっと鮮明に。
あの時、あの場所が人生最低ではなかったんだ。もっと、もっとそれ以下も落とし穴のように隠れて埋もれているんだ。
這いつくばって生きろ、そう言った彼の姿が過る。黄金色の目が焼き付いて離れない。


苦しい。辛い。
わかってくれるとは、思わなかった。
けどわかってほしかった。
迎えてくれるとは、思わなかった。
迎えてほしかった。
願った幸せは叶わずに。
ありふれた日常は、壊れていく。


あのまま夢心地で終われたなら
そもそも森に行かなければ…


後悔、後悔、後悔…




憎悪

ゾクリとした。
誰かに囁かれたような。
でもその気持ちが確かにあった。

憎悪、嫌悪、遺恨、害敵

頭を埋め尽くす。


どろどろ、どろどろ、何かが溢れ出ていく。
綺麗な花瓶の底を割った時の様に。
止めどなく『なにか』が、ゴボゴボと溢れ出す。
底なし沼に足を絡め捕られたように。身を任せその何かに飲み込まれていく。
静かに覆っていく。じっくり包んでいく。


あぁ

もう、声も聞こえない

もう、何も見えない


ここで、終わりだ。
自分という、リリアンという人生はここで終わるのだ。


ーーーーーーーーーー


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...