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第二章 Ⅳ ホームパーティーのはじまり、はじまり
25.カオスなサプライズ!
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いつの間にか、この場は完全にバーナードさんに制圧されていた。それまで返す言葉を持たずに黙るしかなかった二人が、ようやく息吹き返した。それはまるで人命救助――、人工呼吸だといえる、彼女たちに息をさせる質問となった。
これでまた、ピーチクと甲高い声での鳥のようなおしゃべりが始まった。
「どんな面白い話をしているのかと思ったら――。きみの説をウィルソン教授が耳にされたら、卒倒されてしまうよ」
「人が悪いな、いつから聴いていたんだい。そうならないように、こうしてここにいるじゃないか。きみこそ、ずいぶん早く抜けて来たんだね」
僕の背後から聞こえてきたその声に、身も心も跳ね上がった。考えるよりも早く駆け寄っていた。ふわりと抱きしめてくれる優しい腕。こめかみに落ちるキス。一気に体温が上がり、頬が上気するのが判る。
「コウ、ただいま。顔を見せて。倒れたって聴いたけど、もう平気なの?」
「大丈夫だよ。それより、お帰り、アルビー。どうしたの、戻って来るなんて聞いてなかったのに」
「コウが今日は来られないって言ったじゃないか。それで、義理のある教授の出版記念パーティにかこつけて出てきたんだ。バニーにコウの具合が良くないって聞いたよ。来て正解だったな。コウが辛い時に傍にいてあげられないなんて、堪らないもの」
パーティに、というだけあって、アルビーはタキシード姿だ。艶やかな濡羽色。セクシーな……。
あんな話をしていたせいか、変に意識してしまう。アルビーはどんな服で、どんな色を纏っていたって、きっと誰でも惹きつけて、――欲情させる。それはアルビーのせいなのか、そんなふうに反応してしまう僕のような普通なやつに組み込まれた本能のせいなのか。それともタキシードの濡羽色のせいなのか――。僕にはよく判らない。
アルビーが来ることをマリーは知っていたのだろう。僕みたいに驚いていない。いつもの続きのように、頬にキスして挨拶を交わしている。でも、やっぱり格段嬉しそうだ。いつもツンと澄ましている顔がにやけて、白い頬がピンク色になっている。
「なんだお前、俺のことは目に入らないのか」
拗ねたような、とげとげした声――
「ドラコ!」
アルビーのすぐ横に、なんだかひどく懐かしく感じられるドラコがいた。毎週逢っているし、サラだっているのだから、懐かしいという感覚はおかしい。だけど、いつもと変わらないティーシャツ、ジーンズ、ツンツン跳ね飛んでいる赤い髪もそのままの、そんな彼にほっとする。ここにいる皆がセレブのパーティにでも出席しているような服装だから、自分だけが場違いな気分だったのかも。
え、でも、ドラコがここにいるってことは――
「例のヤツはどこにいる?」
「例のヤツって? あ、ショーンのこと? 今、ゲールを迎えに行ってもらってる」
「ゲールっていうのか、そいつ」
「それよりドラコ、シルフィは? 今日は一人でそっちへ向かったはずなんだけど」
「ああ、その辺にいるだろ」
その辺って――
ドラコはさっきから落着きなく辺りを見回しているけれど、シルフィを探しているってわけでもなさそうだ。部屋が改装で様変わりしているからだろうか。
アルビーが心配そうにちらちら僕を見ている。だけど、当たり前にバーナードさんの横に座って、なんだか親し気な話を始めている。
つまり、彼が僕との面談を早めに切り上げて向かった先は、アルビーと同じだったんだ。だから今日の彼はセミフォーマルのきちんとした服装をしている。パーティじゃないって言ったくせに。
アルが立ちあがって僕の肩をとんと叩いた。
「着替えてくる。どこに行けばいい?」
「えっと、着替えは?」確か、手ぶらだったと思ったのだが。
「知らない。ドラコがここに何でも揃ってるって言ってたから持ってきてない」
それ、いつの話だよ。
怪訝な顔をした僕の目の前につむじ風が吹き抜けた。
シルフィ、かと思ったのに、違う。
マークスがぜぇぜぇと肩で息をしながら立っていた。
「ご、案内いたしますとも、アルバート様! こちら、でございますとも!」
返事も聞かずに、大仰にお辞儀しながら手のひらで示した方向に、もう跳ねていっている。
アルビーはくすりと苦笑して、僕に軽く頷いてみせた。ここで待ってる、と僕も頷き返した。
なんだか判らないけれど大丈夫なのだろう。手つかずのままだったあの主寝室に、アルビーが泊まるために必要なあれこれを揃えているのかもしれない。彼らなら、そのくらいのことはしていそうだ。
アルの姿が見えなくなると、このサプライズで跳ね上がった心臓のドキドキも収まり、ほっとした息がついてでた。
明日にならないと逢えないと思っていたから、やはり嬉しい。
だから、自分自身に言い聞かせた。
これは好機だと思うことにしよう、と。
バーナードさんとアルビーは本当にもういい友人で、僕の不安は醜い嫉妬心が生んだ疑心暗鬼にすぎない、ってちゃんと納得するための――
そうとでも考えないと、このカオスなパーティを乗り切れる気がしないじゃないか。
これでまた、ピーチクと甲高い声での鳥のようなおしゃべりが始まった。
「どんな面白い話をしているのかと思ったら――。きみの説をウィルソン教授が耳にされたら、卒倒されてしまうよ」
「人が悪いな、いつから聴いていたんだい。そうならないように、こうしてここにいるじゃないか。きみこそ、ずいぶん早く抜けて来たんだね」
僕の背後から聞こえてきたその声に、身も心も跳ね上がった。考えるよりも早く駆け寄っていた。ふわりと抱きしめてくれる優しい腕。こめかみに落ちるキス。一気に体温が上がり、頬が上気するのが判る。
「コウ、ただいま。顔を見せて。倒れたって聴いたけど、もう平気なの?」
「大丈夫だよ。それより、お帰り、アルビー。どうしたの、戻って来るなんて聞いてなかったのに」
「コウが今日は来られないって言ったじゃないか。それで、義理のある教授の出版記念パーティにかこつけて出てきたんだ。バニーにコウの具合が良くないって聞いたよ。来て正解だったな。コウが辛い時に傍にいてあげられないなんて、堪らないもの」
パーティに、というだけあって、アルビーはタキシード姿だ。艶やかな濡羽色。セクシーな……。
あんな話をしていたせいか、変に意識してしまう。アルビーはどんな服で、どんな色を纏っていたって、きっと誰でも惹きつけて、――欲情させる。それはアルビーのせいなのか、そんなふうに反応してしまう僕のような普通なやつに組み込まれた本能のせいなのか。それともタキシードの濡羽色のせいなのか――。僕にはよく判らない。
アルビーが来ることをマリーは知っていたのだろう。僕みたいに驚いていない。いつもの続きのように、頬にキスして挨拶を交わしている。でも、やっぱり格段嬉しそうだ。いつもツンと澄ましている顔がにやけて、白い頬がピンク色になっている。
「なんだお前、俺のことは目に入らないのか」
拗ねたような、とげとげした声――
「ドラコ!」
アルビーのすぐ横に、なんだかひどく懐かしく感じられるドラコがいた。毎週逢っているし、サラだっているのだから、懐かしいという感覚はおかしい。だけど、いつもと変わらないティーシャツ、ジーンズ、ツンツン跳ね飛んでいる赤い髪もそのままの、そんな彼にほっとする。ここにいる皆がセレブのパーティにでも出席しているような服装だから、自分だけが場違いな気分だったのかも。
え、でも、ドラコがここにいるってことは――
「例のヤツはどこにいる?」
「例のヤツって? あ、ショーンのこと? 今、ゲールを迎えに行ってもらってる」
「ゲールっていうのか、そいつ」
「それよりドラコ、シルフィは? 今日は一人でそっちへ向かったはずなんだけど」
「ああ、その辺にいるだろ」
その辺って――
ドラコはさっきから落着きなく辺りを見回しているけれど、シルフィを探しているってわけでもなさそうだ。部屋が改装で様変わりしているからだろうか。
アルビーが心配そうにちらちら僕を見ている。だけど、当たり前にバーナードさんの横に座って、なんだか親し気な話を始めている。
つまり、彼が僕との面談を早めに切り上げて向かった先は、アルビーと同じだったんだ。だから今日の彼はセミフォーマルのきちんとした服装をしている。パーティじゃないって言ったくせに。
アルが立ちあがって僕の肩をとんと叩いた。
「着替えてくる。どこに行けばいい?」
「えっと、着替えは?」確か、手ぶらだったと思ったのだが。
「知らない。ドラコがここに何でも揃ってるって言ってたから持ってきてない」
それ、いつの話だよ。
怪訝な顔をした僕の目の前につむじ風が吹き抜けた。
シルフィ、かと思ったのに、違う。
マークスがぜぇぜぇと肩で息をしながら立っていた。
「ご、案内いたしますとも、アルバート様! こちら、でございますとも!」
返事も聞かずに、大仰にお辞儀しながら手のひらで示した方向に、もう跳ねていっている。
アルビーはくすりと苦笑して、僕に軽く頷いてみせた。ここで待ってる、と僕も頷き返した。
なんだか判らないけれど大丈夫なのだろう。手つかずのままだったあの主寝室に、アルビーが泊まるために必要なあれこれを揃えているのかもしれない。彼らなら、そのくらいのことはしていそうだ。
アルの姿が見えなくなると、このサプライズで跳ね上がった心臓のドキドキも収まり、ほっとした息がついてでた。
明日にならないと逢えないと思っていたから、やはり嬉しい。
だから、自分自身に言い聞かせた。
これは好機だと思うことにしよう、と。
バーナードさんとアルビーは本当にもういい友人で、僕の不安は醜い嫉妬心が生んだ疑心暗鬼にすぎない、ってちゃんと納得するための――
そうとでも考えないと、このカオスなパーティを乗り切れる気がしないじゃないか。
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