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第二章 Ⅳ ホームパーティーのはじまり、はじまり
26.ありのまま? そんなの嘘に決まっている
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アルビーがいったんこの場を外れたことで、話題はまたセクシーな色の話に戻っている。マリーたちは、よほど「心理学的効果」というものを知りたいらしい。心理学を誰かの心を意のままに操る魔法のように思っているみたいだ。
ドラコまでがすいっとこの場を離れようとしている。呼び止めると「ちょっとその辺を見てくる。指示通りにできてるか確認をだな、しときたいからな」と真顔で言われた。
「改装のこと、知ってたの?」
「当然だろ。好きにしていいとは言ったけどな、ここは俺のものだぞ。まぁ、お前が欲しいって言うのなら、いつでも譲ってやるがな」
慌てて首を横に振った。厄介なことになるのが目にみえてる契約なんて、冗談じゃない。精霊の贈り物の代償は、人間には計り知れないのだ。
ドラコはしつこく誘うこともなく、そのままテラスへ出て行った。ふと視線を感じて振り返ると、バーナードさんが僕を通り越してドラコの背を目で追っていた。その視線が僕の上に戻ってくる。
「コウ」と僕を呼んだのと、マリーが「バーナード」と彼を呼んだのが同時だった。彼の眼差しは自然にマリーに向かい「何?」と軽く首を傾げている。
「あなたの番よ。何色?」マリーではなくミラが尋ねた。
「ああ、僕は緑だな。エメラルドのような透き通る緑だ」
アルの瞳の色――。
セクシーな色の話はまだ続いていたのだ。僕の前で、臆面もなくそんなことを言ってのけるなんて。
なんだか、胃がズンと重くなった。
「アル、遅いね。ちょっと見てくる」と僕は、ソファーにいる彼らに顔を向けることなく、この場を離れた。
「アル」寝室の扉をノックして開けた。
呆れた。アルビーはタキシードの上だけ脱いで、だらしなくベッドに寝転がっている。寝てるのかな。
「アル」と近寄ってもう一度呼びかけた。ぐいっと腕を掴まれて引き倒された。
「待ちくたびれたよ」
抱きしめられて、耳許で囁かれた。
「待ってるって思わなかった」
「どうして?」
どうしてって……。言われてないのに。
絶句して、頭を起こして彼を見つめると、「言わなくても分かると思った」と拗ねたように言われた。
夏以来、アルビーは、よくこんなことを言うようになった。心が重なっているのだから分かるんじゃないのかって。
そんなの無理に決まっている。ここは現実で、心の中じゃない。彼と僕は同じ人間じゃないし、心を共有してるわけでもない。むしろ僕は、この現実の中では、アルビーであっても僕の心に入ってきてほしくない。好きだからこそ知られたくない自分ってあるだろ、誰にだって。
僕は絶対に、ありのままの自分を愛して、なんて思わない。むしろ、決して見つけないで欲しい。本当のありのままの僕、なんてものは。
でもアルビーはそうじゃない。
信じられないくらい無防備で、裸でいても全然平気。
ありのままで、取り繕う必要も飾る必要もない。
完璧な美しい人。外見も、その魂も――。
「何を考えてるの、コウ?」
しなやかな指先が、優しく髪を梳いてくれる。耳にかかる息がくすぐったい。薔薇の香りのする自分の息に、アルビーは気づいているだろうか。
「きみのこと。綺麗だなって」
赤色が誰かを欲情させるように、アルは僕の感覚を、感情を、身体を変える。だから僕の頭で知る彼と、僕の身体が知る彼は少しズレていて、理知的で優しいアルビーを、僕の手は駄々っ子を扱うようにあしらうんだ。
こんなふうに、首筋にキスしようとする彼の口を手のひらで押し返して。
「だめだよ、皆、待ってるんだから」
「少しくらい待たせたっていいじゃないか」
「少しじゃすまないだろ」
くくっと笑われた。「よく分かってるね、コウ」と言って、もう一度僕をきゅっと抱きしめてから、アルビーは寝返りを打って仰向けに転がった。
「バニーは大丈夫だった?」
「え?」
「内輪でちょっといろいろあってさ」
「どうだろう、判らないよ。いつもと変わらないように思うけど」
どういうことなんだろう。
何か問題があったのか、尋ねてみた。
今日、アルビーが突然こっちに来てくれた理由は、そのせいなんじゃないかって、電気が走るみたいに直感したんだ。
ドラコまでがすいっとこの場を離れようとしている。呼び止めると「ちょっとその辺を見てくる。指示通りにできてるか確認をだな、しときたいからな」と真顔で言われた。
「改装のこと、知ってたの?」
「当然だろ。好きにしていいとは言ったけどな、ここは俺のものだぞ。まぁ、お前が欲しいって言うのなら、いつでも譲ってやるがな」
慌てて首を横に振った。厄介なことになるのが目にみえてる契約なんて、冗談じゃない。精霊の贈り物の代償は、人間には計り知れないのだ。
ドラコはしつこく誘うこともなく、そのままテラスへ出て行った。ふと視線を感じて振り返ると、バーナードさんが僕を通り越してドラコの背を目で追っていた。その視線が僕の上に戻ってくる。
「コウ」と僕を呼んだのと、マリーが「バーナード」と彼を呼んだのが同時だった。彼の眼差しは自然にマリーに向かい「何?」と軽く首を傾げている。
「あなたの番よ。何色?」マリーではなくミラが尋ねた。
「ああ、僕は緑だな。エメラルドのような透き通る緑だ」
アルの瞳の色――。
セクシーな色の話はまだ続いていたのだ。僕の前で、臆面もなくそんなことを言ってのけるなんて。
なんだか、胃がズンと重くなった。
「アル、遅いね。ちょっと見てくる」と僕は、ソファーにいる彼らに顔を向けることなく、この場を離れた。
「アル」寝室の扉をノックして開けた。
呆れた。アルビーはタキシードの上だけ脱いで、だらしなくベッドに寝転がっている。寝てるのかな。
「アル」と近寄ってもう一度呼びかけた。ぐいっと腕を掴まれて引き倒された。
「待ちくたびれたよ」
抱きしめられて、耳許で囁かれた。
「待ってるって思わなかった」
「どうして?」
どうしてって……。言われてないのに。
絶句して、頭を起こして彼を見つめると、「言わなくても分かると思った」と拗ねたように言われた。
夏以来、アルビーは、よくこんなことを言うようになった。心が重なっているのだから分かるんじゃないのかって。
そんなの無理に決まっている。ここは現実で、心の中じゃない。彼と僕は同じ人間じゃないし、心を共有してるわけでもない。むしろ僕は、この現実の中では、アルビーであっても僕の心に入ってきてほしくない。好きだからこそ知られたくない自分ってあるだろ、誰にだって。
僕は絶対に、ありのままの自分を愛して、なんて思わない。むしろ、決して見つけないで欲しい。本当のありのままの僕、なんてものは。
でもアルビーはそうじゃない。
信じられないくらい無防備で、裸でいても全然平気。
ありのままで、取り繕う必要も飾る必要もない。
完璧な美しい人。外見も、その魂も――。
「何を考えてるの、コウ?」
しなやかな指先が、優しく髪を梳いてくれる。耳にかかる息がくすぐったい。薔薇の香りのする自分の息に、アルビーは気づいているだろうか。
「きみのこと。綺麗だなって」
赤色が誰かを欲情させるように、アルは僕の感覚を、感情を、身体を変える。だから僕の頭で知る彼と、僕の身体が知る彼は少しズレていて、理知的で優しいアルビーを、僕の手は駄々っ子を扱うようにあしらうんだ。
こんなふうに、首筋にキスしようとする彼の口を手のひらで押し返して。
「だめだよ、皆、待ってるんだから」
「少しくらい待たせたっていいじゃないか」
「少しじゃすまないだろ」
くくっと笑われた。「よく分かってるね、コウ」と言って、もう一度僕をきゅっと抱きしめてから、アルビーは寝返りを打って仰向けに転がった。
「バニーは大丈夫だった?」
「え?」
「内輪でちょっといろいろあってさ」
「どうだろう、判らないよ。いつもと変わらないように思うけど」
どういうことなんだろう。
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