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解放
しおりを挟む目が覚めると、ヴァールに抱きしめられて寝ていた。悪夢を見ずに眠れたのなんていつぶりだろう。
ヴァール、本気? それとも僕を騙そうとしてるの? 分からない。嘘でもいい。この腕の中にいたい。叶わない願いを、僕は持ってしまった。
夢なら冷めないで。
もう少しだけ。ちゃんと現実にもどるから。もう少しだけ……。
「ファルシュおはよう。はぁ、愛しい。この腕で愛しい人を抱きしめられるだけで幸せだ」
「ヴァール……」
「さぁ行こう!」
「え?」
僕がよく分からずモタモタしてると、ヴァールは僕を抱えて寮まで走っていった。
寮にこんな風に戻るのは初めてだよ。
ヴァールが僕の主に何か話しているのを、僕はなぜかヴァールの膝に座ってボーッと聞いていた。
そして、ヴァールはお金が入ってるであろう布袋を主に渡して、そのまま3人で教会に行くことになった。
それは、僕に付けられてる隷属の首輪が主の持っている鍵では解除できなかったから。
月の定めなら、神に祈れば外れるかもしれないという理由だと説明されたけど、よく分からない。
僕はボーッとしたまま、ただヴァールに抱えられているだけだった。
教会なんて初めて来た。綺麗な場所。
綺麗な色のガラスが絵みたいになってて、そこから差し込む光がすごく綺麗で、夢の中みたいだった。こんな素敵な夢なら起きたくないな。
教会の中に進んで2人で神様に祈りを捧げるんだと言われた。
祈り?
僕の祈り、ヴァールと一緒にいたい。それだけ叶えば、あとは辛くでも我慢する。大丈夫。感覚と感情を閉ざすことは得意だから。
パリンッ
拐われた時からずっと付けている隷属の首輪が砕けた。
本当? 夢じゃないの? 悲しく苦しいのとは違う涙が出た。これはなんだろう?
「ファルシュ、お前は解放されたんだ。この人と幸せになりな。もうこんな世界に戻ってくるなよ」
「……うん」
僕の最後の主は僕に微笑んでくれた。
「ファルシュ、行こう」
「うん。どこに行くの?」
「どこへでも。とりあえずこの街は出よう。ファルシュが辛い思いをした場所に置いておけない」
「うん。でもいいの?」
「いいよ。俺は元々、この街に長く居る気はなかったんだ」
「そっか。
あ! 僕、昨日ヴァールにお仕事してない。抱きしめてそのまま寝ちゃったから。先に宿に行く?」
「ファルシュが嫌ならそんなことしなくていい。今はまだ辛いだろ? 俺は一緒にいるだけで幸せだから。ファルシュが辛くなくなったらな」
「大丈夫だよ。僕は辛くない」
「俺は嬉しいが、無理してるんじゃないか?」
「そんなことない。ヴァールに抱いてほしい」
少しドキドキする。
でも僕を買ってくれたんだから、僕はちゃんと仕事をしたい。もし辛くなったら、また感情と感覚を遮断すれば、大丈夫。慣れてるし。
「ファルシュ、怖かったらやめるからすぐに言うんだぞ」
「大丈夫。怖くなったことなんて無いから」
「そうか。分かった」
ヴァールの前で服を脱ぐ。ヴァールの服も脱がせて、僕は浄化をかけた。
ヴァールはいきなり触ってきたりキスして来るんじゃなくて、最初に抱きしめてくれた。
裸で抱きしめられただけで、僕はドキドキしてボーッと熱くなった。
「ファルシュ、好きだよ」
「ふぁ、あぁ、、」
耳元でヴァールが囁いただけで、背中がゾクゾクして体の中を快感が駆け抜けて思わず声が漏れた。そんな自分に驚いて、僕は慌てて手で口を塞いだ。
「聞かせて。ファルシュの声」
「う、うん」
僕は口から手を離してヴァールの頬に触れてキスをした。
初めてヴァールを抱きしめた時みたいに、雷が僕の体を通り抜けた。
ヴァールは僕の薄く開いた唇の隙間から舌を滑り込ませてきた。
「ん、んん、ぁ、ふぁ、、ヴァール、きもちいぃ、もっとして、、」
キスは慣れてるはずなのに、ヴァールの唇も舌も全部が気持ちよくて、甘い吐息が漏れた。
これは何? こんなキスは初めてで、キスだけで僕はクッタリしてしまった。
「可愛い。ファルシュ可愛い」
「はぁ、んふ、ぁ、、、あぁぁ」
何で? ヴァールの指が僕の肌を滑り、首から胸まで唇を這わせていくと、全部が気持ちよくて、甘い声が喉から漏れ出てしまう。
「ぁ、ゃぁ、、、あぁぁぁああ」
僕の胸のピンク色の小さな先っぽを口に含んで舌で弾いていたヴァールがそれを甘噛みすると、気持ち良すぎて叫んでしまった。
こんなに気持ちいいのは怖い。感覚を遮断しないとどうなってしまうのかが分からない。
でも、どんなに感覚を遮断しようとしても、上手く作用しなくて全然気持ちよさはなくなってくれなかった。
「ファルシュはこんなに感度がいいんだな。可愛いな」
「こんなの、初めて、、、」
僕の目から涙が溢れた。でも、これはいつものこと。いつもは無表情でただただ涙が出て溢れてるだけだった。でも、なんか今日は違う感じがする。気のせいかな?
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