【完結】露出狂が追いかけてきたら逃げるに決まってる

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2.露出狂の男

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 ことの発端は魔物のスタンピードだった。
 しかし『火炎王子』が出たことで、それは大規模火災という災害へと変わった。
 氷属性特化の僕はこの火の海を消火しなければならない。あの全裸の露出狂の男を凍らさないよう気をつけながらだ。
 とりあえず邪魔だから退いてほしいし、とにかく服を着てほしい。

「氷で消火するので避けてください!」
 僕は露出狂に向かって叫んだ。

「大丈夫だ」
 露出狂の男からの返事は「はい」でも「いいえ」でもなかった。
 はあ? 僕は彼に大丈夫かなんて聞いてない。退けと言ったんだ。邪魔だから。

 露出狂の変態に会話が通じると思った僕がおかしいんだろうか?
 常識人なら、全裸で堂々と人前に立ったりはしない。なぜそんなところにいるかは知らないが、ちゃんと服を着て立っているはずだ。

 僕はため息と同時に男との対話はすぐに諦め、その姿は見ないように、そして避けながら遠い位置から氷を広げていった。

「キミすごいな!」
 そう遠くから叫ぶ声が聞こえたが、無視だ無視。感心する暇があるなら早く服を着てくれ。

『火炎王子』とやらはきっと燃やすだけ燃やしてすぐに去ったんだろう。あまり彼の姿を見た者はいない。
 彼は人が近付けないらしい。火属性特化の人であっても無理だとか。本当なのかは知らない。ただの噂なのかも。
 彼は不幸なことに魔力が増える体質だったようで、最近また魔力が増加して、今まで一緒に活動して消火してくれていた水属性特化の人では消火できなくなった。それどころか、一気に水が水蒸気となって水蒸気爆発を起こし、二次災害が発生した。それ以降、水属性特化は近づけるな危険となったらしい。
 だから僕は今回の消火が上手くいけば、彼とペアで行動することになるだろう。
 魔物討伐の場合は火が有効だ。なぜなら後処理が楽だから。火で燃やし尽くせば、アンデッド化しないからだ。
 世界各地に対して、火属性特化や炎属性特化は活躍の場が多い。大抵が水属性特化とペアを組まされる。

 僕も火属性特化とペアを組んだことはあるんだけど、当時は子どもで魔力操作も下手だった。それは言い訳だけど、結果、消火以上に凍らせて、火属性特化の人も凍ってしまった。そのせいで彼女は数ヶ月の療養生活を余儀なくされた。
 だから僕は単独で現地に向かい、人がいないことを確認してから魔術を使う。
 今はこの大惨事とも思える火の海を前に、一刻も早く消火することが優先された。

 考え事をしながら消火を進めていたら、全裸のままの露出狂が僕のすぐ側まで来ていた。

「水ではなく氷か。珍しい」
 後ろから話しかけられて飛び上がるほどにビックリした。『火炎王子』も人に近づけないと言われているが、僕も人に近づけないんだ。

「うわっ、ちょっと、近づかないで下さい! あなたも凍りますよ?」
「大丈夫だ。火照りが収まって、気持ちいい」
 恍惚とした表情を浮かべている全裸の男は、切長の瞳まで真っ赤で、鼻筋はスッと通っていて、背も高いし誰がどう見てもイケメンだ。しかし自分が全裸だということを自覚してほしい。いや、自覚してなお全裸でいるから露出狂なんだ。

 僕は男から少しずつ距離を取りながら、男を凍らさないよう注意して消火を続けた。この男さえいなければこんなに時間は掛からなかった。
 早くどっかに行ってくれよ。

「なあ、すまないが何かしらの服を持っていたら貸してくれないか?」
 は?
 少しずつ距離を取っていたはずなのに、すぐそこまで男が迫っていた。その上、服を貸してくれなんて言われ、僕の魔術は霧散した。

 仕方なく、僕はアイテムバッグからローブを出して男に渡した。僕は小柄で、男は背も高いし筋肉質で、とても僕の服が着れるとは思えなかったから、それくらいしか渡せるものがなかったんだ。

「ありがとう」
 僕は男の輝くような眩しい笑顔に釘付けになった。
 いつも氷のように冷めていた感情の温度が上昇し、顔が熱くなるのを感じた。こんなことは初めてだ。

 僕は人に近づくと寒いとか氷のように冷たいと言われる。それは僕の心にも影響を与えているんだと思うくらいに、感情も凍っていた。冷静と言えば聞こえはいいんだけど、もっと根本から何か違った。
 いつも遠巻きにされて、諦めていたのかもしれない。

 ボーッと彼の顔を眺めていると、不意に抱きしめられた。
 いけない。僕はあわてて離れようともがいたのに、彼はその腕にさらに力を込めて解いてはくれなかった。筋肉量が違うんだから力で敵わないのは仕方ないとは思うけど、それは危険な行為だ。
 ほんの少し、一瞬触れる程度ならいいんだけど、近くにいても凍えてしまうのに、こんなに接触したら相手が凍ってしまう。魔術を使った直後だからその効果は高まっている。まさか抱きついたせいで凍って、そのまま解けなくなった?

「冷たくて気持ちいい。もう少しだけ」
 上から優しい声が降りてきた。
「え? 寒くないのか? 体、大丈夫? 凍ってない?」
 身長差が悔しいけど、僕は見上げて彼に問いかけた。
 んっ……不意に重なる唇。
 は? ちょっと待てよ。なんでキスなんか……。
 凍ってないか心配した僕が馬鹿だった。こいつは露出狂の変態で普通の人間ではなかった。おまけに勝手にキスなんかして痴漢だ。

 凍るとか燃えるとか関係なく、迂闊に近付いたりしてはいけない変態だった。
 それなのに温かくて、ガチガチに固まった体が溶けていくように力が抜けていく……気持ちいい……。
 ってダメだ! 相手は変態なんだ。流されてはいけない。

「やっ……や、やめろ!」
 必死に抵抗して、ようやく離れることができると一気に距離をとって、更に走って逃げて、火の海の消火活動を再開した。
 火炎王子、本当に半端ない魔術を使うんだな。これほどの威力の火なら、水魔術が水蒸気爆発を起こしたのも分からなくはない。

 ふぅ。
 あの後、ちょっと動揺して上手く魔術が起動できず、しかも人がいると思うと最大出力ができないから、想像以上に時間がかかった。おかげでもう辺りは暗くなり始めている。
 疲れた……。

 
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