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二章
21.モヤモヤと朝帰り
しおりを挟む卒論を教授に送ったが、またダメ出しされた。
「ちょっと外出します」
「誰か付けますか?」
「一人で大丈夫」
ちょっとだけ煮詰まっていて、一人になりたかった。店の開業に向けての準備に本腰を入れたくて、卒論をとっとと終わらせてしまいたいと思ったのが、教授には透けて見えていたのかもしれない。
商店街を抜けて一人で歩いてるいると、見たことのある黒塗りの高級車をみつけた。
政宗さんか組の誰かだろうと見ていたら、政宗さんだった。店から出てきた兄貴モードのオールバックにスーツを着ている政宗さんの腕には美女の腕が絡んでいる。
もしかして、ここは高級風俗? 政宗さんが普段お世話になってるところか?
嫌なところを見てしまった。
受け入れるだけじゃなく、たまには攻めというか、女性を抱きたいんだろうか?
番になったから俺以外を受け入れることは無理でも攻めるのはいけるのか?
この女性が、いつも気絶するまで政宗さんが抱いている人なのか?
胸の奥でプスプスと燻っていた嫌な感情が、他の感情を飲み込んで真っ黒に染まっていく。
なんか帰りたくなくなってきた。
俺の部屋は政宗さんの部屋で、ベッドは俺が引っ越した時にダブルベッドに買い替えて、毎日一緒に寝ている。
毎日抱いているわけではないが、毎日キスはしていて、あの女性とキスしたりしたのかと思うと今日はキスもしたくないし、抱きたくもないと思ってしまった。
それくらい許してやれよ。可愛く乱れる政宗さんは俺だけのものだ、と思う気持ちもあるけど、どうやら俺は独占欲が強いらしい。自分の中にこんな嫉妬の感情があるなんて知らなかった。
モヤモヤと黒く塗られた気持ちのまま商店街を歩いて、時間を潰すためにネットカフェに入った。
なんとなく、帰りたくなかった。好きだからそばにいたい気持ちはあるけど、今はまだ気持ちが整理できない。
適当に漫画を持ってきて読んでいたが、全然頭に入ってこない。
腰に俺の名前を彫るほど……発情期に俺の服で巣作りするほど……政宗さんは俺のことが好きだ。
別に風俗に行くくらいいいだろ。政宗さんの気持ちは俺のものなんだから。
そう思っていても、どこか納得できない気持ちがあって、何杯か酒を煽ったらいつの間にか寝てしまっていた。
何時だ? あれ? スマホが無い。
時間を確認しようと思って、まだ完全に開いていない目のまま手を伸ばしてスマホを探したけど、スマホは無かった。
だんだん目が覚めてきて、よく思い出してみると、充電が残り少なくて充電ケーブルに繋いで、ちょっと散歩して帰るつもりで家を出たんだった。ということはスマホは家にある。
パソコンの端に小さく表示された時計を見ると、AM 4:17と表示されていた。
ああ、やってしまった。
心配してるかな? いや、もう子どもじゃないんだから朝帰りなんて別に心配されるほどのことでもないか。
それにしてもよく寝たものだ。帰る前に気分を切り替えるために洗面所へ行って水で顔を洗った。
しっかり寝たから意外にも頭はスッキリしている。
あとは政宗さんと顔を合わせた時に普通にしていられるかどうかだ。
精算してネットカフェを出ると開店前のシャッターが閉まった商店街を歩いていく。
誰もいなくて静かだ。こんな時間に商店街を歩いたことなどなかった。始発が出るくらいの時間になると人も少しは出てくるんだろうが、こんな時間は人もいない。枯れ葉が風に吹かれてカラカラと音を立てて転がっていった。
商店街を抜ける頃になると犬の散歩をしている人がちらほらと現れ始める。みんな朝早いんだな。
門が近くなると緊張が高まる。いや、まだみんな寝ている時間だ。そっと入って、知らん顔でベッドに潜り込もう。
そんなことを考えながら門の前まで来ると、こんなに朝早くなのに人がいてザワザワとしていた。何かあったんだろうか?
「みんなこんな朝早くからどうしたんですか?」
「兄さん!」
「無事だったんすね!」
「遥希さんが帰ってきたぞ!!」
その辺にいた組の男、確かモトと言ったか? に声をかけると驚いた声で叫ばれて、みんなが駆け寄ってきた。
「え?」
「遥希さんが帰ってこないから、攫われたんじゃないかって心配して探してたんですよ」
予想外に俺の朝帰りは大事になっていた。みんなもしかして、そのためにこんな朝早くから起きているのか? 大変なことをしてしまったかもしれないと、嫌な汗がツーっと背中を流れていった。
「そうなんだ。政宗さんは?」
「今、誰かが電話してるんじゃないっすか?」
「ってことは出掛けてるってこと?」
「もしかしたら夜襲仕掛けてんじゃないっすかね?」
夜襲? 夜襲と言ったか? 今って戦国時代じゃないよな?
現代に夜襲なんかあるのか?
ここにいるみんなには、スマホを忘れたこと、ネットカフェで眠ってしまったことを話して謝った。
スマホを忘れて連絡も取れなかったし、黙って朝帰りはよくなかった。反省しながら待っていると、政宗さんが帰ってきた。
車から降りると凄い形相で走ってきて、殴られるのかと覚悟したら、ギュッと抱きしめられた。
「遥希……無事でよかった」
「政宗さん、連絡もせず朝帰りしてごめんなさい」
「いい。遥希が無事ならいいんだ」
政宗さんはそう言ったけど、絶対に逃さないという気合が入った感じで、俺の手を潰れそうなほど強く握って部屋へ向かった。
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