【完結】甘えたな子犬系Ωが実は狂犬なんて聞いてない

cyan

文字の大きさ
22 / 34
二章

22.勘違い

しおりを挟む
 
 
 これはやっぱり怒ってるんだよな?
 引き摺られるように早朝の廊下を進んで政宗さんの部屋に入ると、政宗さんは部屋に鍵をかけた。
 まさか朝帰りしたくらいで半殺しにでもされるのか? しかし大事になってしまった実感はある。申し訳ない気持ちもある。

「遥希、やっぱりここで暮らすのが嫌なのか? 俺がヤクザだから、嫌になったのか?」
 政宗さんは泣きそうな顔でそんなことを言ってきた。

「え?」
「やっぱり負担が大きいよな……」
 肩を落としながら、その目にはどんどん涙が溜まっていく。
「違います。そんなこと思ってない」
「じゃあ、誰も付けずに朝まで帰ってこなかったのはなんでだ?」
 俺はちょっと時間を潰すためにネットカフェに入って、そしたら寝てしまったのだと話した。

「遥希、それで?」
「え?」
「経緯は分かった。時間を潰さなきゃいけない理由があったんだろ? 俺か?」

 俺は思わず政宗さんから目を逸らしてしまった。後ろめたいわけじゃないけど、風俗に行ったくらいで文句を言うような、そんな心の狭い男だと思われるのも嫌だと思ったからだ。

「俺か……店をタダで渡そうとしたことか? でもそれは頭金はもらったし、それでもまだ怒ってたのか? もうタダで店を渡したりしないと約束する」
「いえ、別に怒ってませんから」
「じゃあ、なんだ? 俺自身が嫌とか? 俺が甘えるのが嫌なのか?」
「違います」
 そんなことではないんだ。政宗さんを嫌う要素などどこにもない。店のことだって話をすれば理解してもらえたし、怒っているわけではない。

「じゃあ何だ? 遥希、言えよ」
 胸ぐらを掴まれたわけではないけど、やはりこういう時には兄貴の政宗さんが少し顔を出す。仕方ない、こんなことで嫉妬するような情けない俺だが番になってしまったんだ。諦めてもらおう。独占欲が強い俺も受け入れてくれ。そんな祈りも込めて俺は口を開いた。

「昨日、見たんですよ。政宗さんが風俗店から出てくるところを」
「ああ、行ったな。それで?」
 そんな軽い感じ? 「だからなんだ?」という目で俺を見てくる。やっぱり政宗さんにとってはそんなこと大したことじゃないんだ。

「相手が気絶するまで抱いたんですか? あの人が政宗さんがよく気絶するまで抱いている人ですか?」
「は?」
「別の店にも通ってるんですか? 何人いるんですか?」
「ちょっと待て、遥希、何を言ってる?」
「やっぱり俺だけでは足りず、女性を抱きたいんですか?」

 情けないことだが、スッキリしていたはずの頭の中がぐちゃぐちゃになって、昨日の美女と政宗さんの顔がぐるぐると頭の中を駆け巡る。頭がおかしくなりそうだ。
 責めたくなんかないのに、政宗さんを責めるように言葉が止まらなくなった。

「落ち着け、遥希。もしかして、ヤキモチか?」
「そうですよ。俺は独占欲が強いんです!」
「なんか嬉しい。そっか。
 遥希、落ち着いてよく聞け。風俗店に行ったのは女を買いに行ったんじゃない。けつもちとして営業の状況を確認しに行っただけだ」

 え? あの美女を抱いたわけじゃない?
 いや、でも気絶するまで抱いている疑惑は?

「いつもは相手が気絶するまで抱いてるんですよね? 過去の話ですか?」
「その気絶するまで抱くってのは何なんだ? 俺は誰も気絶するまで抱いたことなどないんだが」
「そんなわけないです。政宗さん言ってたじゃないですか。気絶させられたのは初めてで、いつもは気絶させる側だって」
「そんなこと言ったか? 気絶ねえ……」

 何だか政宗さんは渋い顔をして腕を組んでいる。これは兄貴の時の顔だな。

「引くなよ、って言っても無理か……人を気絶させたことはある。だが抱いたわけじゃなくて、喧嘩で、その、殴ったり蹴ったりで……」
 喧嘩? 喧嘩で相手を気絶させた? もしかして、全部俺の勘違い? 勝手にそう思って勝手に嫉妬したということか? 恥ずかしい。

「ごめんなさい」
 穴があったら入りたい。
 俺は小さい声で謝罪を口にすると、逃げるようにベッドに向かって頭から布団を被った。

「は~るき、俺のことそんなに好きなの? 俺、遥希以外となんてしてないよ。遥希だけだよ。だって遥希が一番気持ちいいし、ねえねえ、する? 朝だけど。ねえ、遥希しようよ~」
 政宗さんはゴソゴソと布団に潜り込んできた。しかも服を全て脱いで全裸で。

「遥希、キスしよ? 嬉しくてもう我慢できない」

 政宗さんは俺の服を勝手に脱がしていって、俺の中心でくったりしているものに手を掛けてそっと撫でた。
 それだけでゾクゾクと快感が迫り上がってきて、温かい舌でねっとりと舐められると、どんどん硬さを増していく。
 ジュルジュルと音を立て吸い上げられると、もうダメだった。
 しかし政宗さんは俺がイく前に口を離した。

「俺のこと抱きたくないの?」
「抱きたい」
「じゃあ抱いてよ」
 俺は今までで一番優しく抱いたと思う。

「はるき……やだ、そんな優しくしないで……もっときて……」
 おかしな勘違いをして、しかもみんなに心配をかけてしまった。申し訳なくて、恥ずかしくて、言葉の謝罪だけでは足りないと思った。

「政宗さんは優しいの嫌ですか?」
「優しいの好きだけど、今日はもっと激しく求めてほしい」
 いつもより政宗さんの熱が高く感じる。その熱が俺にも伝わって欲望を掻き立てられた。

「そんなこと言ったら本当に激しくしますよ?」
「おねがい……はるき……して?」
 可愛い。俺だけなんだ。俺だけの政宗さん。
 潤んだ目で俺に向かって伸ばされた手を俺の首に回すと、抱き起こして下から激しく突き上げる。
 必死にしがみつく政宗さんの甘い吐息が肩にかかって、それだけで胸がギュッと締め付けられる。

「政宗さん、俺が一番気持ちいいんですか? 俺のこと好きですか?」
「うんうん……すき、すきだよ……はるき、はるきがいちばんだよ……」

 政宗さんは俺がほしい言葉をくれる。本当に独占したくなる。誰にも渡したくない。俺だけの愛しい人。

「俺も、政宗さんが好きです。政宗さんだけが好きです」

「あっ、きもちいい、はるき……意識とびそう……」
「政宗さん、俺だけの政宗さんでいて下さい」

「ん……ああ……」

 しばらくベッドの上でイチャイチャしてから、みんなのところに行って心配かけたことを謝罪した。
 政宗さんが全部暴露したりするから、みんなから「ラブラブっすねー」なんて散々揶揄われた。
 言わなくてもいいことを……
 今夜は寝かしませんからね。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

処理中です...