【短編】不良に囲われる僕

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3.林くんの喧嘩

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次の日もその次の日も、同じ感じで日々は進んでいった。半月もすると、クラスでもそれは当たり前のこととして受け入れられて、僕は先生に褒められた。林くんを更生させたとか言われたけど、そんなことはない。
林くんが自らしてることで、僕は何も言ってないし、なぜ急に真面目に授業を受けるようになったのかは分からない。

そんな日々にも慣れてきて、林くんは顔は怖いけど上からの言葉遣いだけど、本当は怖くない人なんじゃないかと思うようになった。
ムッとすることはあっても、僕を殴ったりすることはなかったし、無茶なことを言われたり、パシリに使われたりすることもなかった。

そんなある日、林くんは1限の授業に遅れてきた。制服は土とかで汚れてるし、手も怪我して、口の横も切れて顔は腫れてるし、髪もグチャグチャで喧嘩しましたって感じに見える。
やっぱり林くんは怖い人だった。
でもそれ以上に手当てもせずそのままで来た事が心配で、僕は授業中なのに席を立った。
「先生、林くんを保健室に連れて行きます。」
先生の返事も聞かずに僕は林くんの手を掴んで走り出した。
「苺人、授業中だぞ。」
「うん。知ってる。」
「そうか」

林くんは僕に手を引かれたまま大人しくついてきた。僕には手をあげない。そう思ったからそんなことできたんだけど、途中で大丈夫かな?って不安になった。
保健室に先生はいなくて、僕が傷を洗って消毒してあげた。
「痛っ」
「ごめん。染みた?」
「うん。大丈夫。ありがと」
林くんに感謝されたのなんて初めてだった。
なんで喧嘩したの?僕は喧嘩なんてしたことないから喧嘩をする理由が分からない。聞いていいのかも分からない。でも、またこんな痛々しい姿を見るのは嫌だと思った。

「なんで、」
「え?」
「俺のこと怖くないのか?」
「うーん、ちょっと怖い。」
「はは、苺人は素直だな。」
「そうなのかな?」

ズキっと心が痛んだ。素直じゃない。僕の言葉は嘘ばかりだ。僕は林くんを騙してる。
本当のこと言う?好きなんて嘘だって、怖いから一緒にいたくないって。
一緒にいたくない?一緒にいる時、嫌だったことなんてあったっけ?最初は怖かったけど、今はそんなに怖くない。

それに僕のこと苺人って呼ぶのは両親を除くと林くんしかいない。僕の名前の漢字は苺って字だから、いつも苺星人だって、男なのに苺って可愛くもないのにって揶揄われてた。
高校に入ってからは苗字で呼ばれるし名前なんて知らない人がほとんどなのに、林くんはなんで僕の名前知ってるんだろう?好きだから?

「苺人、好きだ。」
「うん。」
「苺人は?」
「好き、です。」
僕はまた嘘をついた。

「キスしたい。」
「うん。」
僕は動かずに目を閉じて待ってた。嘘つきの僕が林くんにしてあげられるのはこれくらいだから。
唇にフニッと触れて、すぐに離れる。目を開けると、林くんは真っ赤だった。
可愛い。さっき喧嘩してきたような怖い不良なのに、僕は彼を可愛いと思ってしまった。
そしてなぜか僕の心臓がドキドキしてる。
緊張してる?何に?分かんない。もしかして僕は病気になったのかな?

「教室戻る?」
「そうだな」
僕はドキドキしたまま林くんと教室に戻った。
それ以降の授業は普通に受けたけど、放課後になると林くんは先生に呼び出された。
きっと喧嘩のことなんだろう。

僕は待ってろって言われたわけじゃないけど、教室で林くんが戻ってくるのを待ってた。
シンと静まり返った教室で、スマホを取り出して「喧嘩」と検索してみたけど、どうでもいいような内容のページしかヒットしなかった。
やっぱり喧嘩をする理由は分からない。

ガラガラとドアが開く音がして、林くんが戻ってきた。
「俺のこと待ってたの?」
「うん。」
そう言うと林くんは僕に向かって走ってきて、僕をギュッと抱きしめた。
「お前可愛すぎ。」
そんなこと言われて、なんて答えればいいのか分からなかった。林くんの方が可愛いって思ってたけど、そんなことは言えない。
殴られなかったとしても怒らせたくはないし。

「苺人のことはオレが守るから。」
「え?うん。」
守る?何から?宇宙人に侵略された時、林くんが僕のこと守ってくれるのかな?そんな馬鹿なことを考えていて、この時はその意味が分からなかった。
「送る」
「うん」



その日の帰り、林くんは僕の手をギュッと握ったままだった。
手を繋いで帰るなんて恥ずかしい。彼の手は喧嘩してるからか大きくて、まるで子供の頃にお父さんに手を繋いでもらった時みたいだと思った。温かくて、柔らかい。でも手の甲はちょっとカサついてた。
「じゃあな。また来週。」
「うん。またね。」

林くんに来週と言われて初めて今日が金曜だったことに気付いた。そっか、明日は会えないんだ。ちょっと寂しい。
え?いま僕、寂しいって思った?なんで?
うーん、気のせいかな。

あ、今日漫画の発売日じゃん。帰りに本屋に寄ればよかった。
僕が好きな漫画の発売日だってことに家に帰って制服を脱いでから気付いた。今から出かけるのは面倒だし明日買いに行こう。
林くんって漫画とか読むのかな?同じ漫画が好きだったら嬉しいけど。家では何してるんだろう?ゲームとか?勉強はしてない気がする。
動画見たり?音楽は何聴くんだろう?
なんとなく鍛えたりはしてそう。ダンベルとか家にあるのかな?腹筋とか腕立てとか。想像すると似合いすぎて笑える。

「林くんおやすみ」
僕は寝る時にそんなことを呟いていて、自分で驚いた。家に帰ってから僕は林くんのことばかり考えてた。そっと唇に触れてみると、林くんとのキスを思い出してドキドキした。
やっぱり僕は病気になったのかもしれない。
布団を頭まで被ると、僕は目を閉じた。
 
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