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12.両親との再会
しおりを挟む父上に手紙を書いて、王都に来ているから会いたいと伝えたら、すぐに返事が返ってきた。
家に何日でも好きなだけ滞在すればいいと書かれていたけど、僕は嫁いだんだから、そんなに長い間、家を空けたりはできない。
だから屋敷のシェフに焼き菓子を焼いてもらい、お茶の時間に訪ねることにした。
迎えてくれたのは両親だけだった。
「テオドール、無事だったか? 怖い思いはしていないか? 痛いことをされていないか?」
「私の可愛いテオちゃんがこんなに窶れて……」
とても心配されたけど、僕は結構上手くやれていると思うんだ。
「初めは誤解もあったけど、皆さんによくしてもらっていますよ。ちゃんとお役目も果たせると思います」
「すまない……」
父上は僕の手を両手で握って謝ってきたけど、別に気にすることないのに。本当に、フィリップ様とはそれなりに良好な関係を築いています。子作りもしてますよ。
父上や母上に引き止められ、なかなか帰れないでいると、フィリップ様が迎えに来た。
「テオを迎えに来ました。連れて帰ります」
「ベルガー辺境伯、テオドールは本当に心の優しい子なんです。容姿は私に似ていますが、中身は全然で、庭の花を愛でるのが好きな、大人しい子なんです。どうか酷い扱いはしないでいただきたい」
「父上……」
僕のために高位貴族に対して意見をするなど、後で何を言われるか分からないのに、それでも僕のことを思って言ってくれたんだ。
父上の優しさに、僕はちょっと泣きそうになった。
「心配には及びません。テオはうちでは結構人気者なんですよ。俺は結婚などする気はなかったが、テオのことは貰い受けたい。大切にします」
「え?」
大切に? 思わず「え?」と言ってしまった。人気者ってのも何を言っているんだと思った。父上を心配させないためにフィリップ様が気を遣ってくれたのだとすぐに気付いたけど、言ってしまった後だった……
また僕は失敗してしまった。
「おい、『え?』とは何だ? 騎士連中や使用人には優しいのに、俺の扱いだけ酷くないか?
早く俺のことを好きになれ。
それと、また短剣を忘れただろ。お前は弱いんだから気を付けろと言っているだろ?」
「あ……実家だから大丈夫かと思って、ごめんなさい」
「帰るぞ。今日はテオが好きなトマトの冷たいパスタだそうだ。隊長がお前のために王都の有名店でベリーのタルトを買ってきたから食後に食べよう。ほら」
今日はトマトのパスタなのか。嬉しい。フィリップ様が差し出した手を握ると、両親に挨拶をして屋敷に帰った。
「テオ、お前は花が好きなんだな」
「分かってます。僕には似合わないですよね……」
「似合うかどうかなんて関係ないだろ。言いたい奴には言わせておけ。好きなものは好きだと堂々と言えばいいんだ。俺のようにな」
そんな風に言われたのは初めてだった。僕はフィリップ様の言葉に驚いて、フィリップ様の顔をジッと見つめてしまった。
「あ、ごめんなさい。決して睨んだわけじゃないんです」
「気にするな。分かってる」
フィリップ様は僕の髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。やっぱり睨んだことを怒ってるんじゃないか。僕の髪をこんなにして……
でも、何でそんなに優しい目をしてるんですか?
僕は手櫛でそっと自分の髪を整えた。
何となく、この人の前ではみっともない姿を見せたくないと思ったんだ。
「フィリップ様、父がすみませんでした」
「何がだ?」
「フィリップ様に意見して」
「あぁ、お前の父だから許す。お前は愛されて育ったんだな。だから可愛いのか」
「はい? 僕が可愛いなど、またご冗談を」
僕は真面目な話をしているつもりだったのに、フィリップ様はそうではなかったようだ。
「テオ、大切にする。早く心も俺のものになれ」
「フィリップ様、僕はあなたのものですよ」
「そんなことを言っていると抱くぞ」
「いいですよ。でも、ここではちょっと……夕飯の後でいいですか?」
トマトのパスタは食べたい。抱かれて寝てしまって食べ損ねたくない。隊長がベリーのタルトを買ってきたってのは本当なんだろうか?
それも食べたいな。
「お前、全然俺の気持ち分かってねぇな。色気より食い気だしな」
ボソッとフィリップ様が何か呟いたけど、よく聞き取れなかった。
「え? 何か言いましたか?」
「なんでもない」
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