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新しい関係(ジョル視点)4
しおりを挟む馬車が街に着くと、宿を探した。
また同じ宿を取ることにしたが、運がいいのか悪いのか隣同士の部屋は空いていなかった。
俺とディオの部屋は廊下を挟んで斜め向かいになった。
行為中の音は聞こえないだろうが、ディオが誰かを連れ込む現場に出会す可能性は高くなった。
ちょうど出会してしまったら、俺は平気な振りなどできるんだろうか?
性欲が溜まっているから余計なことを考えてしまうのかもしれない。誰でもいいから捕まえて発散するか。手頃なのがいなければ娼婦などに頼めばいい。
そう思って、ディオと夕飯を食べて一度宿に戻ると、再び俺は街に出た。
とりあえずギルドの酒場にでも行ってみるか。
1人でギルドに行くのも久しぶりだな。
エールを頼んで1人で飲んでいると、さっそく声をかけてくる奴がいた。
「なぁ、あんた夜の相手とか探してたりするか?男はいけるか?」
「いけるが俺はタチだぞ。」
「あぁ、それでいい。あんたの宿でどうだ?」
「いいぞ。」
華奢で低ランクっぽい若そうな男が声をかけてきた。
低ランクで宿がないのかもしれない。
一夜の宿を確保するために身を差し出す奴がいると聞いたことがあるが、実際に声をかけられるのは初めてだった。
エールを飲み干してギルドを出ると、その男は俺の腕に絡みついてきた。
その辺で客引きをしている安い娼婦みたいだな。などと思いながらそのまま歩いていると、本当に何の偶然なのか、ディオに会った。
防具屋から偶然出てきたディオと、男を腕に絡みつかせて歩いている俺は店を出たところで出会して互いを目の前にしばし固まった。
ディオは目を見開いたかと思うと、瞳を揺らし、一瞬にしてその目からは光が失われた。口をギュッと引き結んで何かを堪えるような表情をすると、逃げるように宿へ向かって走っていった。
しまった。もし、少しでも俺のことを好きだと思ってくれていたのだとしたら、これは完全にアウトだ。嫌われる。
「すまん。やっぱり夜の相手は無しだ。宿が無いならこれでどこかに泊まれ。」
俺は絡められた腕を解くと、男に銀貨を1枚渡してディオを追いかけた。
ディオが俺のことを好きなのかは分からない。ただ男に腕を絡められて歩いていることに嫌悪しただけかもしれない。
しかし、いずれにしてもディオがショックを受けたことは分かった。
なぜ気付かなかった?
ディオには他の誰にも触れてほしくないのに、俺はどこの誰とも分からない奴に触れた手でディオに触ることができるのか?無理だろ。
それがまだ娼館の娼婦なら我慢出来るが、その辺の男など問題外だ。
コンコン
「ディオ、頼む、開けてくれ。」
「何か用ですか?」
ドアが開いて出てきたディオは、初めてギルドで会った時のような、氷のような冷たい目をしており、ディオをこんな風にしてしまったのは俺なんだと思った。
「ごめん。あいつとは何でもないんだ。腕は絡められたが何もしていない。信じてくれ。本当に何もしていないんだ。」
「そうですか。それで?」
「あ、いや、それだけだ。」
「わざわざそれを言いに?」
「あぁ。そうだ。」
「なぜ?そんな報告は要りませんよ。ジョルは誰を抱いたとか抱かれたとか、抱くのをやめたとか、いちいち私に報告に来るんですか?」
「そうではないが、ただ、ディオに誤解されたくなかった。ごめん。余計な事だったか・・・。」
「私も誰かを抱いてもジョルに報告はしませんので、ジョルも誰を抱いても私に報告はしないで下さい。」
「分かった。」
まるで浮気を見つかった奴の下手な言い訳みたいだ・・・。
俺は何をしているんだろう。
もう、ディオは俺のキスも受け入れてはくれないのだろう。
あの目は、俺を完全に拒絶する目だと思った。
俺はなぜ誰とも分からないような奴を抱こうなどと思ったんだろうか?
今はディオがいるからか、満たされない思いも、虚しさも破壊衝動も無い。だったら性欲など自分で処理すればいいじゃないか。
部屋に戻ると、俺は頭を抱えて蹲った。
その日は全然眠れなかった。俺が寝ている間にディオが消えてしまうんじゃないかと思うと、ドアの開閉の音が気になって、ずっと耳を澄ませていた。
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