【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

cyan

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33.情事の話

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 ヒューゴ様はキスも淫らなこともするけど、その先に進みたいと言ったのに求めてこない。
 もう、進みたくなくなってしまったんだろうか?

 ヒューゴ様の望みを叶えなければと思った私は、薬師のところに、洗浄剤をもらえないか聞きに行くことにした。

「ジョシュア様、如何しましたか?」
「ここに洗浄剤は置いてありますか?」
「色々ありますよ。何の洗浄剤ですか?」
「男性同士で性交渉する時に使うものがあると聞いて、それは置いてありますか?」
「ありますよ。最近は香り付きのものも人気です」

 香り付き……そうなのか。
 それほど当たり前に種類も色々と作られているなんて知らなかった。
 薬師のおじいちゃんは色々な香りのものを見せてくれた。そして私はレモンの香りと、リンゴの香りのものをいくつかもらった。
 それほど当たり前に行われている行為ならば、男性が集まっている騎士団に経験者がいるかもしれない。体験談でも聞けたらいいんだが、どうだろうか?

 いつもは部屋を出る時に、どこへ行くのかをヒューゴ様に伝えているんだが、今日はキッチンに行くだけだったから、キッチンに行くとだけ言った。それなのに、薬師のところに行って、更に騎士団にも行ったら帰りが遅いと心配されるだろうか?
 少しだけ。少しだけだから許してほしい。

 私は足早に騎士団に向かった。風魔法でマックを呼ぶと、すぐに来てくれた。
 怪我を治してちゃんと和解して以来、私は騎士団の中ではマックと1番仲良しで、いつも団長のところに案内してくれたり、訓練も見学させてもらった。
 一度ロングソードという剣を持たせてもらったんだが、私には重くて扱えなかった。あんなに重いものを持って戦ったり、あの金属鎧を着て戦うんだから、騎士はみんな筋肉がムキムキなんだと知った。

「ジョシュア様、今日も団長のところですか?」
「今日は話を聞きたくて来ました」
「俺にですか?」
「マックでもいいし、他の誰かでもいい。男同士での性交渉の経験者に話を聞きたい」
「え? ジョシュア様がですか?」
「うん。私が話を聞きたいんです」
「受けですか?」
「ん? 受け?」

 受けというのはなんだ? 行為の名前か?

「あー、何と説明すればいいのか、その、入れる側と入れられる側のどちらかと……」
「入れられる側かな」
「それだと俺はダメだ。そっちの経験はない。危ないかもしれないので付き添います」
「うん。ありがとう」

 マックと休憩室に行くと、多くの騎士が休憩していた。マックが何人かに耳元でコソコソと声をかけた。
 さっきもマックは私に小声で話してきた。もしかして堂々と話してはいけないことなのか? 内緒にすることなんだろうか?
 だとすると、私は恥ずべきことをしてしまったのかもしれない。

 マックはペシェという騎士の中では少し小柄な男を連れてきてくれた。
 別室に行って、話を聞く。

「手順や、どんな感覚なのか教えてもらえますか?」

 彼は恥ずかしそうに、私の耳元で、他の誰にも聞こえないような小さな声で説明してくれた。

「参考になりました。ありがとう」
「知りたいということは、ジョシュア様はまだ経験がないんですか?」
「うん。途中まではしているけど、洗浄剤を使った先はまだ無い」
「大切にされているんですね」
「うん? 大切に……」

「あのヒューゴ様ですよ? 後宮にもお子様がたくさんいますし。ジョシュア様が来られてから女性を招かなくなりましたし、愛されてますね」
「そう、なのかな?」

 そういえばヒューゴ様は女好きだと聞いていた。毎日私と寝ているし、いつも一緒にいるが女性を連れてきたことはない。
 愛されている? まさかそんなはずはない。だって私は人質だから。
 女好きだから男の私とするのは抵抗があるんだろうか? だとしたらなぜ女性を招かない?

 その後は、マックとペシェと共に休憩室に戻って、騎士の恋愛の話などで盛り上がった。
 恋。ドキドキして幸せなのか。私がヒューゴ様に抱きしめられている時の感じに、少し似ていると思った。
 騎士たちは体も大きいし、強くて声も大きい。少し緊張したが、みんな悩んだり楽しんだりしていて、私とそんなに変わらないのだと知ることができた。

「おい、大変だ! 陛下が凄い形相でジョシュア様を探し回っているぞ!」

 しまった。ちょっと聞いて帰るはずが、長く騎士団に滞在しすぎている。ヒューゴ様にはキッチンに行くと言っただけだ。キッチンに行くだけならこんなに時間がかかるわけがない。

「みなさん、話を聞かせてくれてありがとう。私は戻ります」
 そう言って立ち上がった瞬間に、バタンッとドアが勢いよく開いて、息を切らせたヒューゴ様が現れた。

「ジョシュア!」

 凄い形相と騎士に表現されたヒューゴ様の顔は、今まで見たことがないほどに怒りに満ちて真っ赤だった。
 さっきまでガヤガヤと煩かった部屋が一瞬でシンと静まり返る。
 そして驚くほどの速さで私の元まで飛んでくると、私は肩に担がれて回収された。

 ヒューゴ様の部屋に戻ると、やっと下ろしてくれて、少し痛いくらい強く抱きしめられた。


「ヒューゴ様、ごめんなさい」
「何もされていないか? 無理やり連れていかれたのか? 大丈夫か?」
「何もされていませんし、みなさんにお話を聞かせていただいていました」
「そうか」

「キッチンに行って、薬師のところに行って、そのあと騎士団に行きました。その場の思いつきで、ヒューゴ様にわざと黙っていたわけではないのです。ごめんなさい。許してはもらえませんか?」
「別に怒ってない。連れ去られたのかと心配しただけだ」
「ヒューゴ様、夜にお話があります」
「ん? 今でなく夜? 今聞かせろ」
「はい」

 これはきっと恥ずかしがりながら、耳元でコソコソと話すことなんだと思い、ヒューゴ様に少し屈んでもらい、耳元に手を添えて小声で話す。

「淫らなことのその先をしたいのです」
「いいのか?」

 バッと顔を上げると、私のことをジッと見て、黒曜石のような瞳を少し揺らした。

「あ、でもヒューゴ様が望まないならしません」
「したいに決まっているだろ?」
「そうなんですか」

 女好きのヒューゴ様は、男の私となどしたくないと言われるかと不安もあったが、そんなことはなかったようだ。
 ではなぜ今までしなかったのかが分からない。
 人質というのは、私が思うより大切にされるものなんだろうか?
 先日、フレイヤと友好国として共に歩んでいきたいと言われたし、人質の私に何かあれば両国の関係にヒビが入ることになりかねない。だからペシェにも「大切にされていますね」などと言われたのか。私の立場はなかなか難しいものなんだな。

「ジョシュア、難しい顔をして何を考えているんだ?」
「私の立場のことを考えていました」
「立場? 俺の隣の部屋を与えた。そう言えば分かるか?」
「はい」

 なるほど。深く考える必要はなかったようだ。ヒューゴ様は私のことを従者として必要としてくれているということ。
 他国出身の私を側に置いてくれる。確かにそれは私を大切にしてくれているということかもしれない。

「いいのか?」
「え?」

「いいのか?」とは何のことだろう? 私にはそれが何に対しての質問なのか分からなかった。

「ジョシュアは、俺の側にずっといてくれるのか?」
「はい」
「ありがとう。大切にする」
「はい」

 今までも大切にしてくれている。ヒューゴ様はいつも優しいし、私の好きなことを好きなようにさせてくれる。私がヒューゴ様と良い関係を築くことは、フレイヤと帝国のためにもなる。
 私もヒューゴ様を大切にしよう。

 その後のヒューゴ様はさっきの騎士団での怒りの形相が嘘のように、とても機嫌良く仕事をしていた。喜ぶポイントがどこにあったのか分からないが、機嫌が悪いよりはいいかな。

 
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