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一章:アダム視点
1.手紙と王命
「はぁ~」
僕、アダムヘルム・ロイターは盛大にため息をついた。
「どうかなさいましたか? アダムヘルム様」
僕の部屋の扉を開けて一歩も中に入らず、うちの家令であるセドリックが尋ねた。彼はなぜそんなところに立っているのかというと、手紙を持ってきて、僕の「下がれ」という言葉を待っているんだ。
ため息の理由は僕の手元にある手紙。
封筒の封蝋のマークはシュトラール王家の紋章、そして内容は『そろそろ身を固めてはどうか?』だった。
僕も年明けに二十歳となり、結婚適齢期ではある。前からこんな内容は度々届いていた。ここまであからさまではなく、もっと遠回しな内容だったんだが、今回はしっかりと『身を固める』という言葉を使ってきた。
ーー要するに結婚を催促されているということだ。僕もできることなら結婚したいと思うけど、相手がいないんだから仕方ない。
我ロイター辺境伯家の領地はシュトラール王国の最北端に位置し、この国の北の守りの要でもある。
領主である僕が住む領都の屋敷は、その辺の砦よりも堅牢で、街の全員が避難できるほど大きい。更にその隣には僕の直属というか、ロイター辺境伯直属の軍部がある。兵舎も七棟建っているし、訓練場も五つある。子どもの頃は兵舎が八棟あった気がするが、それは気のせいだったんだろう。
この兵舎が七棟か八棟かについては、今でも何だか腑に落ちなくて気持ち悪い。
僕はちょっと小柄ではある。だけどそんなに人に嫌がられるような容姿ではないはず。
騎士みたいな鍛え上げた肉体とか、立派な筋肉ってやつはないけど、強さって面では誰にも劣らない自信がある。
なぜなら僕は魔術が得意だ。
北方の守りを一手に引き受けているし、僕が当主の座を継いでからは、一度も負けたことがない。領地が潤っていないってわけでもない。辺境の地ならではの北部でしか育たない野菜や果物もあるし、特産の果物を使った酒もなかなかに人気だ。
それなのに結婚相手が見つからないのは、学園で起こしたある事件をきっかけに、僕が『破壊神』と呼ばれるようになったからだ。
だからさっき手紙を持ってきたセドリックも、僕に何か要件がある時は部屋をノックし、扉を開けた場所に立つ。決して部屋の中には入ってこない。一歩もだ。理由は単純に僕を恐れているから。
こんな僕みたいな危険人物と結婚したいと思う人なんていないんだ。
陛下には、「相手がおりませんので無理です」と、手紙が来る度に返事を書いた。だって事実だし。後継は縁戚の子か、適当に有能そうな子を養子にすればいい。
仕方ないじゃないか。相手がいないんだから。みんな恐れて近寄って来ないんだから。
僕だって、相手さえいれば恋とかしたかった。
はぁ、今日はもう仕事は終えてクイっと強い酒でも煽りたい気分だ。
そんなことがあった二ヶ月後、またセドリックは手紙を持ってきた。
「アダムヘルム様、また王家からお手紙が届いております」
僕の部屋の扉を開けたところで、セドリックはいつも通り立ち止まった。我が家の使用人は漏れなく全員が僕と物理的な距離を取る。子どもの頃から知っている彼らであっても、僕に近付くのは怖いんだ。
「分かった」
そう言ってセドリックが白い手袋をはめた両手の上に乗せた手紙を、風魔術でヒラリと浮かせ、僕の手元に飛ばした。
また結婚のことか? もう無理なんだからいい加減諦めてくれよ。
たまに宮廷魔術師たちを鍛えてくれとか、騎士たちの実践を積ませたいから戦場で使ってくれとか、そんなお願いもあるから、届いた手紙を読まないわけにはいかない。
手紙を開封するのにペーパーナイフなんて使わない。風の刃でいい感じに切って中の手紙を取り出す。
僕に近づく者がいなくなってから、身の回りのことは自分でやるようになった。全て魔術で。
面倒だから、物を取るのも、本をめくるのも、荷物を運ぶのも、歩くことさえ面倒になってスイーっと飛んで移動することもある。
「はあ?」
「どうかされましたか?」
セドリックは近付いてはこないけど、ちゃんとその場に待機している。何か指示があれば動けるように。
僕は手紙に書かれた内容が信じられなくて、一度手紙を畳んで封筒に戻し、手紙を取り出すところからやり直した。もう一度手紙を開いて読む。僕がさっき読んだ内容と同じだ。
そこには、
『アダムヘルム・ロイターの婿になる者をそちらに向かわせる。名はローデリック・ハーマイン。ハーマイン伯爵家の三男。結婚相手が見つからないとのことで、こちらで見つけておいた。結婚するのがよろしい』
と書かれていた。
結婚するのがよろしい……結婚は王命ということだ。
今日もきつい酒が必要になりそうだと思った。
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