【完結】破壊神のお婿さんはイケメンらしい

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一章:アダム視点

4.ぎこちない二人

  


 あの事件以来、誰かに笑いかけてもらうのも、触れられるのも初めてだった。こんな距離に近付いてくれるのも。
 僕のことが怖くないのか?
 なんだか分からないけど、ドキドキして涙が出そうになって、慌てて僕は飛び立って部屋のベランダに戻った。
 手を握られたままだったから、そのまま彼もベランダに連れてきてしまった。
 その時に彼の少し厚みのある手を、ギュッと握ってしまったのは許してほしい。

 彼はいきなり空を飛んだから、驚いて息を呑んだけど、叫んだり騒いだりはしなかった。まぁ、一瞬だったからかな。
 セドリックに、彼の荷物を部屋に運ぶよう声を飛ばしておいた。あとはセドリックが各所に指示を出して何とかしてくれるだろう。

「ソファ、座っていいぞ」
 僕は分厚いカーテンの裏に隠れて、少しだけ顔を覗かせながら言った。恥ずかしくて、少しだけ怖くて、彼の顔が見れなかった。
 紅茶は魔術を操作して淹れるから、目の前にいなくてもできる。菓子も焼き菓子が戸棚にあったはず。菓子を出すのも魔術で操作した。
 彼は戸惑いながらソファに座って、僕が操作するティーポットやカップを珍しそうに目で追っている。
 そんな彼を僕はカーテンの裏に隠れながらこっそり見ていた。

 いきなり飛んだし、怖がられたかな?
 せっかく歩み寄ってくれたのに、いきなり嫌われたら悲しい。

「僕のこと、怖い?」
 恐る恐る聞いてみた。
「え? 怖くない、です」
 そんなバカな。僕は『破壊神』だぞ? さっきはいきなり飛んだし。
 彼のことをじっと見てみる。こんなイケメンが社交界にいたら、絶対に話題になる。でも僕は社交の場で彼を見たことがない。
 片手で数えられるくらいしか夜会には出たことがないけど、この容姿は一度見たら忘れないと思うから、見てないんだと思う。
 僕より年下で、僕が社交界から去った後にデビューしたのか?

「ロディは何歳?」
「俺は二十一です」
 僕より一歳上だった。だとしたらなぜ? 昔は体が弱かったとか?
「僕の一歳上なんだね。社交界で見たことない気がする」
 僕が言うと、彼は気まずそうに俯いてしまった。
 なんだ? 聞いてはいけないことだったのか? 僕も社交界のことは詳しくない。デビューして一年経たずに去ってしまったから。

 沈黙が気まずい……
 何か話題をと思っても、何も思い浮かばない。仕事以外の会話なんて、もう何年もしていないから、何を話せばいいのか分からなかった。
「夜会には、行ったことがないんだ」
 彼は俯いたままボソリと呟いた。
 魔力量のせいで、その存在を隠されていたのかもしれない。

「そっか。夜会に行ってみたいなら僕が連れて行ってあげる」
 僕だって夜会なんて嫌いだし、いい思い出なんか無いのに、何でそんなこと言ったのか自分でも驚いた。
 そして顔を上げた彼にめちゃくちゃ見つめられている。何?
 怒ってるわけじゃないと思うけど、分からない。イケメンに見つめられて恥ずかしくなって、カーテンの裏から少し出していた顔も全部隠した。

 僕はこの四年か五年の間に、人との関わり方を忘れてしまった。
 お婿さんとして連れてこられたロディは、怖い人でも悪い人でもなかったけど、僕はこの人と結婚なんてできるんだろうか?
 結婚は王命だからするとして、結婚生活をちゃんと送れるのかが不安だ。

「ごめんなさい。見つめたりして、不快ですよね……」
 そんな呟きが聞こえてきた。めちゃくちゃ落ち込んでる感じ? 僕は失敗したらしい。

「ち、違っ、その……イケメンに見つめられるなんて、慣れてないから、恥ずかしいだけ……です」
 こっそり顔を少しだけ出して、彼の様子を伺ってみると、やっぱり僕のことを見つめたままだった。

 恥ずかしくてカーテンの裏に隠れるなんて、子どもじゃあるまいしみっともない。そこを突っ込まないでいてくれる彼には感謝しかない。
 イケメンなだけじゃなく、優しいんだな。
 さっきは怖くないって言ってくれたし。

 社交界デビューもしていない彼は知らないだけなんだと思う。僕が起こした事件のことを。だから恐れないのかもしれない。知ったら離れていってしまうんだろうか? 恐れられて、距離を取られるんだろうか?
 優しい彼を騙すのは心苦しい。
 嫌われるかもしれないと思うと、言うのが怖い。僕のことを怖いと思いながら結婚生活を送ることになったら彼も可哀想だ。
 結婚はしても別居ってこともあり得るのか……
 せっかく結婚するのに、そんなことになったら寂しいな。

 その後は会話ができなくて、セドリックが訪ねてくるまでとても静かだった。

「ローデリック様の荷物は全てお部屋に運び終えました」
「うん。ありがとう。ロディを案内してあげて」
 ロディはセドリックについて部屋を出て行った。カーテンの裏に隠れて顔だけ出している僕を見て、セドリックは何を思ったんだろう?
 何も言及しなかったのは、ロディがいたからだろうか? それとも僕が怖いからか……


 夕飯は一緒に食べた。誰かと一緒に食事をとるなんて久しぶりだ。彼に怖がられたくなくて、ずっと使っていなかった食堂の長いテーブルの端と端に座った。
 近くにいるとイケメンの破壊力が凄いから、向かい合っていても、これくらい距離が離れていれば安心だ。
 そのまま会話もなく食事を終えるとそれぞれの部屋に戻った。

 ドアがノックされて、まさかロディか? と思ったけど、訪ねてきたのはセドリックだった。
「貴族院に提出する婚姻の書類ですが、結婚式を執り行った後に提出されますか? それとも先に提出されますか?」
 婚姻の書類。その言葉に急に結婚が現実味を帯びた。
 昼間はどこかふわふわと夢を見ているような感覚だった。この僕が結婚、するんだな。しかも相手はイケメンだ。

「ロディと話し合って決める。今日は移動で疲れているだろうから明日にしよう」
「畏まりました」
 相変わらずセドリックは僕の部屋の入り口に立って話す。逃げ出すことなくこの屋敷にいてくれるだけでありがたい。あの事件であっさり僕を捨てた両親よりは優しいのかもしれない。

 そういえば、僕が部屋にいる時にこのソファに座ったのはロディが初めてだ。
 セドリックが部屋を去ると、彼が座っていた位置に僕も座ってみる。昼間のことが思い出されて、途端に顔に熱が集まる。
 手に触れられた。すっかり忘れていたけど、人という生き物は体温があるんだったな。ロディに触れられた手の感触を思い出すと、なんだか急に胸が苦しくなった。
 忘れたいほど嫌なことじゃない。今日は酒を飲まずに寝よう。


  
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