【完結】破壊神のお婿さんはイケメンらしい

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一章:アダム視点

7.変化

  


 我がロイター家の領主邸は、僕たちの住居の横に兵舎や訓練場があるんだが、結構距離がある。有事の際に街の住人の避難所も兼ねているから、領主邸はでかいんだ。

 屋敷の隣に兵士たちが生活する兵舎があって、更にその向こうに訓練場が五つある。そのうちの二つ第二、第三訓練場は魔術の訓練場で強力な結界を張ってある。第四、第五訓練場は武器の訓練を行う訓練場で、連携とかそんなのをやったりもする。
 第一訓練場は一番デカくて、闘技場のように観客席もあって、街のイベントに使ったり、試合を行ったりすることもある。全員集合の時は迷わず第一だ。
 他にも各街や、国境付近にも駐屯地や訓練場はあるんだが、メインはこの領主邸に併設された施設だ。
 そんなようなことを説明しながら、ゆっくりと第一訓練場に向かう。ロディに抱えられて。

 もうみんな揃っているんだろう。第一訓練場に近づくにつれ、ざわざわした声とむさ苦しい熱気が漂ってくる。
「まさか、僕を抱えたまま兵たちの前に行くのか?」
「ダメか?」
「それはダメだ。僕にも一応威厳とか……」
 威厳? 正直僕の存在そのものが恐怖の対象だから、抱えられていようが別に威厳を損なうこともないか……
 しかし恥ずかしいんだ。きっと兵たちも反応に困ると思う。
 僕はロディに下ろしてもらった。
 しかしなぜか手を繋ぐことになった。ちょっと指先が冷たいのは、緊張しているんだろうか? 朝は絡まれていたしな。

 ざわざわとしていたのが、僕が訓練場に一歩立ち入ると、時が止まったかのようにシンと静まり返った。
 そこまで恐れることもないと思うんだけど。
 ロディはやっぱり少し怖いのか、僕と繋いだ手に少し力を込めた。なんか可愛い。

「忙しいところ集まってもらって悪かったな。この隣に立つ者は、僕のお婿さんでローデリックという。今回は彼を紹介するために集まってもらった。彼も剣を扱う。たまに訓練に参加させてもらうかもしれないから覚えておいてほしい」
 あれ? 剣、使うよな? 今朝、剣を握っていたもんな。たぶん使うと思う。

「ローデリックです。よろしくお願いします」
「ロディを訓練に参加させる時だが、模擬戦でも魔術攻撃は禁止。純粋な武器の使用のみ許可する。以上だ」
 ざわざわしているが、まぁそうだろうな。『破壊神』と呼ばれる僕の婿など興味津々なんだろう。誰も近付かないような僕の手を握っているし。しかもとびっきりのイケメン。羨ましいか。

 その後はすぐに解散させ訓練に戻した。そして僕はまたロディに抱き上げられて運ばれている。
「訓練を見てみるか?」
「今度にする。今日は可愛いアダムとくっ付いて二人きりでいたい」
「そ、そうか」
 イケメンは不意打ちで砂糖を吐くらしい。

 それはいいとして、『破壊神』と呼ばれる僕の婿だから、どんな実力があるのかとちょっかいをかけてくる奴や、決闘を仕掛けてくる奴が出るかもしれない。要らんことをする奴はどこにでもいるし、血の気の多い荒くれ者が多い兵舎なんかは決して一人では行かせられない。
 とりあえず隊長数名に声をかけて、まともそうな奴を護衛につけるか。

 部屋に戻って隣同士でソファに座ると、一緒にお茶を飲んだ。膝が触れているんだが距離が近すぎやしないか?
「美味しいお茶だ」
 うっとりとした表情でそんなことを言うイケメンも悪くない。
「普通のお茶だと思う。特別高級な茶葉でもない」
「大好きなアダムと一緒に飲んでいるからかもしれない」
 またイケメンが不意打ちで砂糖を吐くから、僕は飲んでいた紅茶を吐き出しそうになった。
 僕は何を話していいのか分からなくて、ドキドキしながらちびりちびりと紅茶を飲んでいたんだけど、ずっと隣から視線を感じている。そんなに穴が開くほど見られても何もないよ。不細工ではないと思うけど、ロディほど整ってはいない。

 特に会話らしい会話はは無くて、ただずっと隣で紅茶を飲むだけで時間は過ぎていった。
 恐れられるどころか、慕ってくれるロディ。あの事件のことを話すのが怖い。嫌われたくないと思うと口が動かなくなってしまう。先延ばしにしてもいいことなんてないのに、僕は勇気がなくて言葉にできずにいる。

 次の日にはセドリックに家庭教師の手配をしてもらった。
 護衛の手配もして、ロディには常に二人の護衛がつくことになった。ロディには好きなことを好きなようにしていいと言ったんだが、午前中は勉強を熱心にして、午後から少し鍛錬をして、それ以外の時間は僕に張り付いている。
 本当に護衛のように張り付いていて、僕が執務を行なっている斜め後ろに直立不動で待機しているんだ。

「ロディ、そんなところに立っていたら疲れるだろ。隣に机と椅子を用意するから、そこで何かするといい」
「分かった」
 こうして僕の執務室の机の隣に同じような机が並べられ、彼はそこで勉強をするようになった。真面目だな。たまに隣から視線を感じたり、「好きだな」などと呟きが聞こえるが、僕は内心ドキドキしながら、気づかないふりをして仕事を続けている。

 ロディがいない時にこっそりロディの様子を家庭教師や護衛たちに聞いた。
 勉強は本当に全然してこなかったようで、数は分かるが両手指の数、十までしか数えられず、計算はできないし読み書きもできなかった。閉じ込められて飼い殺されていたようだ。
 扱えるのか分からなかった剣は意外と筋がいいらしい。誰の教えも受けずにあの腕はすごいと言っていた。そこはどうやって鍛えていたのか謎だ。

 ロディが来てから、僕の周りも少し変わった気がする。ロディがいつも僕のことを抱えて歩くから、怯えた目で見られることが減った気がしている。
 至近距離には近づいてこないんだが、前よりも僕との距離が近くなった気がする。特に兵たち。
 訓練場の裏にもっさりと生えていた雑草が綺麗になったのも、ロディと何か関係があるんだろうか?
 そしてセドリックも、扉の位置で話をしていたのが一歩中に入って話をするようになった。些細な変化だが、人の変化には妙に敏感な僕は気づいてしまった。悪い方へ進んでいるわけではない。僕のお婿さんのおかげだな。

 また隣に座っているロディから「好きだな」なんて呟きが聞こえてきて、ドキドキしてしまったが、結婚相手を口説く必要なんてあるんだろうか?
 ロディが来てから、僕の棚にストックしてあるウォッカも減らなくなった。忘れたいほど苦しいことが最近はあまりない。


  
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