9 / 75
二章:ロディ視点
9.ロディの生い立ち
俺は物心ついた時には森の中の家に住んでいた。どこの森かは分からない。とても小さい頃は女が一緒に住んでいた気がするが、いつの間にかいなくなっていた。
いつも来るのは、パンと野菜を持ってくる老婆。それとたまに『キラキラした石がついた服を着た男』が来る。
男には小さなナイフを渡されて森の奥に連れて行かれる。
「ここから家に帰ることができたら肉を食わせてやる」
そう言って、男は物凄い速さで去っていく。まばたきしたら見えなくなっていて、小さい頃はあんなに速く走れるなんて凄いと思った。
肉はご馳走だ。いつもは野菜をそのまま齧って、硬いパンを水に浸して食べるから、肉を食べられるのが楽しみで頑張った。
森には怖い生き物がたくさんいる。人じゃない変な色の尖った牙が生えたやつや、爪がナイフみたいで真っ赤な目が光ってるやつ。毛むくじゃらで角と牙が尖っているやつは、俺を見つけると突進してくるし、小動物や小鳥以外の生きものは、俺を見ると襲いかかってくる。
だから必死に走って、木に登ったり、草や蔓で罠を仕掛けたり、たまにナイフで戦ったりもした。
吹っ飛ばされて木にぶつかったり、ザクっと爪や牙で腕が切れて、たくさん血が出たこともあった。転んだり、木から落ちたり、痛いことも苦しいこともたくさんあった。でも森の家に戻ると、『キラキラした石がついた服を着た男』は肉をくれる。
体が大きくなると、肉は自分で調達できるようになった。
毛むくじゃらで角と牙がある生きもの(俺は『毛玉』と呼んでいる)をナイフで切り裂いた時、『キラキラした石がついた服を着た男』が焼いている肉みたいなものが見えた。皮を剥いで、肉みたいなところを切り取って、雨水を溜めている場所で洗ったら肉になった。
『キラキラした石がついた服を着た男』が肉を焼く時に使っていた石が置いてあったから、見様見真似でカチカチ叩きつけてみたら火が出た。それを使って火を起こして焼いてみたら、『毛玉』は肉としてちゃんと食べられることが分かったんだ。
そのまま焼かずに食べてみたら、翌日腹が痛くて死ぬかと思った。だから焼いて食べなければならないのだと知った。
『キラキラした石がついた服を着た男』は、俺が大きくなると、森に置き去りにはしなくなったけど、風や石を俺に当ててくるようになった。それが魔術だということ、男が速く走っていたのも魔術を使っているのだと知ったのはパンと野菜を持ってくる老婆が教えてくれたんだったか。不味い飲み物もたまに飲まされた。
何度聞いても魔術の使い方だけは教えてもらえなかった。
逃げ惑う俺を男は追いかけて、魔術を撃ちつけてくる。理由は分からない。ただ痛くて苦しくて、涙が出た。
男が俺に攻撃をする度に「なぜお前みたいな魔力が無い奴が我が家に生まれたんだ!」「何度戻ってきても、魔力が最低でも200を超えない限り、我が家には入れん!」「魔力無しの能無しめ!」そんなことを言っていた。だからそこで俺は、自分には『魔力』がないってことを知ったんだ。
実際には俺は魔力が無いのではなく、とても少ないらしい。そしてそれが理由で、この森の中に隠れるように住まわされていた。それを知ったのは、もっと後のことだ。
パンや野菜を持ってくる老婆に聞いてみた。俺は何者なのかと。
それまでは自分が何者であるかなんて疑問に思ったことはなかった。生きているだけで精一杯だったのが、成長すると色々なことを考えるようになって、疑問が湧いた。
そこで初めて、俺は貴族の息子なのだと知った。貴族が何なのかも教えてもらったけど、ちゃんと理解したわけではなかった。通常貴族の子は『魔力』が多いらしい。だが俺はその辺の平民の平均にも満たない。だから恥ずべき存在なのだと言われた。
たまに飲まされた不味い飲み物は、魔力が増えると言われる薬だったそうだ。効果があったのかは分からない。
自分でどうにかできるものなのかと聞いたけど、老婆は静かに首を振った。
老婆はパンや野菜を届けてくれる度に少しずつ世の中のことを教えてくれた。
十五で成人という大人になること、貴族であれば成人を迎えたら社交界という華やかな世界に行って、縁を結ぶのだとか。友人や仕事の仲間、恋人、結婚相手などを見つけたりするらしい。俺にもそんな人ができるんだろうか?
俺も行けるのかと聞いたら、たぶん無理だと言われた。
マナーも知らない、ダンスもできない、言葉遣いも、勉強や知識も不足していると。
自分ではどうしようもない事実に悲しくなる。俺はずっと一人なんだろうか?
たまに来る『キラキラした石がついた服を着た男』は、いつも俺を怒鳴って攻撃してくるし、そんなに嫌いなら、会いにこなければいいのにと思った。
街というところがあって、美味しい食べ物や服や、柔らかいパンが売っているのだとか。
お金というもので買い物ができると教えてもらった。
だから俺も何か売ればいいと思った。森の中で狩った『毛玉』や怖い生き物の肉が売れそうだと話の中で気づいたから、俺は森で狩った怖い生き物を街で売ることにしたんだ。
血抜きをして、そのまま丸ごと背負って街に向かった。街の入り口で強そうな人に止められたが、「冒険者なら仕方がないが、せめて解体してきてくれよ」と言われ、荷車を貸してくれて冒険者ギルドというところに一緒に運んでくれた。
世の中にはこんなに優しい人がいるんだとちょっと感動したんだが、肉を売って金をもらうと、手間賃をくれと言われて、どの硬貨を渡せばいいのか分からずにいたら、一番大きな硬貨を取っていった。
後にそれは怖い生き物の買取の大半だったことを知ったんだが、その時は知らなかった。
こうして何度か森で狩ったものを街で売って、柔らかい白いパンや甘辛いのがかかった肉などの美味しい食べ物を買って食べることを覚えたんだが、『キラキラした石がついた服を着た男』に見つかって、大きな家に連行された。
森の家には帰してもらえず、それからは地下室で柵と鍵がついた出られない冷たい部屋に閉じ込められた。
あなたにおすすめの小説
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
契約書はよく読めとあれほど!
RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。
最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。
彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。
この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。
理想の自分と、理想の幸せを探す物語。
23話+続編2話+番外編2話
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。