10 / 75
二章:ロディ視点
10.婿入り
「ほら食え」
いつもパンを持ってくる男は、硬いパンを俺に投げつける。この地下室で貰えるパンは柔らかいものじゃなくて、カチカチの石みたいに硬いパンだから当たると痛い。
「おっと、お前は魔術で防御できないんだったな」
知ってるくせに男はそんなことを言いながら、赤い丸い野菜も投げつけてきた。
いつかまた森に戻るかもしれないと思って、地下室で体を鍛えることは続けていた。
たまに『キラキラした石がついた服を着た男』がきて、怒鳴ったり魔術を当てていくことはあったけど、食べ物が無くて飢えるってことはなかった。
光が当たらず、ジメジメしてカビと何か分からない臭い匂いが辛かったけど、ここから出ることもできないし、自分ではどうしようもない。
森の方がよかった。森には色々なものがあった。自分で狩ったら肉も食べられたし、いい匂いの草もあった。水も雨水を溜めて好きな時に飲めた。赤い実や黄色の実が美味しい時期が近づいているのに、森に行けないのが残念だ。
ある日、いつもの怒鳴ってパンを投げつけてくる男じゃなく、違う人がパンを持ってきた。
カチカチの黒いパンじゃなくて、白いふわふわのパンを手渡してくれた。中には甘いトロトロが入っていた。
「必ず出られるから、希望を持って」
俺はそれが誰なのか、どういう意味なのかも分からなかったけど、その人が首からかけている黄色の石が花みたいな形で、綺麗だなと思った。
その人はその時一度だけしかこなかったから、顔も思い出せないけど、あの首からかけていた黄色い花の形の石だけは、とても印象に残っている。
そんな日々がどれくらい続いたのかは分からない。日が当たらないから、今が昼なのか夜なのかも分からなかった。
ある日突然、俺は地下室から出されて、大勢の人に囲まれ、全身を硬いブラシでゴシゴシ洗われた。髪を切られ、綺麗な服を着せられ、地下室とは違う広い部屋に行くことになった。
「お前の結婚相手が決まった」
『キラキラした石がついた服を着た男』は、今日は俺に魔術を当てず、怒鳴りもせず、そんなことを言った。
結婚……
俺でも結婚というものができるのか?
結婚は一生誰かと添い遂げることなのだと聞いた。ずっと一人だったから、誰かと一緒にいられるなんて嬉しいと思った。でも、こんなにみんなから嫌われている俺とずっと一緒にいてくれる人がいるのか?
マナーというのも、ダンスというのも、色んな知識も無いし、魔力もほとんど無い。別の家の地下室に入れられるのかもしれないと思った。魔術の的にされないといいんだが、それは分からない。
それからはいつも側には誰か人がいて、机の前の椅子に座らされ、『先生』という人に色々なことを覚えるよう言われた。
俺は何をさせられているのか全然分からなかったけど、勝手に立つと叩かれたし、大きな声で怒鳴られたりもしたから、怖くて大人しく従っていた。
丁寧な言葉というものを教えられ、初めて自分に名前があるということを知った。
俺の名前は『ローデリック・ハーマイン』だった。とても長い。覚えるのに時間がかかった。
他の人にも名前があった。色んな人の名前を教えてもらったけど、長くて覚えられなかった。『キラキラした石がついた服を着た男』の名前は分からない。
誰も俺の名を呼んではくれなかったけど、俺だけの名前というものがあるのは嬉しかった。
「この結婚は陛下の御命令だ。失敗は許されない。なんとしてでも結婚しろ。失敗したら草の根かき分けてでも探し出して殺すからな」
『キラキラした石がついた服を着た男』が言った。怒鳴られなかったけど、静かに言っているのに怒鳴られた時のように怖かった。
文字も分からないのに、紙が重ねられた本というものを見せられて、閨というのを教えられた。格闘みたいなものだ。
結婚したら夫とベッドの上でするらしい。眉毛が長いおじいちゃんの先生は、愛する人とするのはとても幸せなんだと教えてくれたけど、愛するっていうのが何なのかが分からなかった。
相手のことを好きになったら分かると言われたけど、柔らかくて白いパンが好きとか、肉を焼いて甘辛いのがかかっているのが好きとか、そういう好きと、人を好きの感情に違いがあるのかも分からなかった。
やがて馬が引く小さい箱に入れられて、俺は結婚相手がいる辺境伯という家に行くことになった。
道中はずっと楽しかった。この馬が引いている箱は馬車って乗り物らしい。違う街に行ってふかふかのベッドで寝た。美味しいご飯も食べたし、閉じ込められたりすることもなかった。
でも失敗したら殺されると思うととても怖い。『キラキラした石がついた服を着た男』はいつも攻撃をしてくるけど、それが本気でないことは分かっていた。だから、本気を出されたら、俺はすぐに死んでしまうんだろう。
そんな感じで移動していくと、何日か経って「到着した」と言われた。
石を積み上げて作られた高い壁に囲まれた、とても大きな家があった。何度か『毛玉』や他の怖い生き物を売りに行った街にも、こんなに大きな家はなかった。その大きさに驚いていると、馬車がとまった。
馬車から降りて大きな家を眺めていると、空から人が飛んできて、俺の前に立ったんだ。
人って空を飛べるの? でも羽は無いよな?
「ようこそ北の辺境伯へ。僕がロイター辺境伯家当主アダムヘルム・ロイターだ」
ここから俺の人生は大きく変わった。
あなたにおすすめの小説
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
契約書はよく読めとあれほど!
RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。
最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。
彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。
この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。
理想の自分と、理想の幸せを探す物語。
23話+続編2話+番外編2話
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。