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二章:ロディ視点
11.アダムのこと
「ようこそ北の辺境伯へ。僕がロイター辺境伯家当主アダムヘルム・ロイターだ」
この人が俺が結婚する人なのか。俺より頭一つくらい小さくて可愛い。水色のサラサラした髪は肩より少し長くて、紫色の丸くて大きな目が俺を見つめている。小さいけどまだ子どもなんだろうか?
おっといけない。ちゃんと覚えてきたセリフを言わなければ。
「お初にお目にかかります。ローデリックです」
あ、しまった。家名というものをつけるのを忘れた。今からつけたらダメだよな?
どうしよう。心の中では慌てていたけど、そんなそぶりは決して見せてはいけないって言われているから、冷静を装う。
「ん?」
男は首を傾げた。家名を言い忘れたことに気付かれてしまったか? 前に立って俺をじっと見ている。
「どうかされましたか?」
緊張しながらそう言うと、男は俺に向かって魔力が少ないと指摘した。『キラキラした石がついた服を着た男』に、それだけは悟られるなよと言われていたから、内心ではもうパニックだ。そのせいで、自分のことを私と言うはずが俺と言ってしまって、もうダメかもしれないと思った。
魔術を当てられるか、怒鳴られるか、追い返されるか。
でも男は、言葉遣いは気にしなくていいと言った。そうなの? あんなに厳しく言われていたのに。俺としては助かるけど、後で怒られたりしないだろうか?
それどころか、アダムと呼んでいいと言われて、俺のことはロディと呼ぶと言われた。確かに長い名前は覚えられない。俺は自分の名前もしっかり言えないから、とても助かる提案だった。
魔力が少ないことは謝ってもどうにもならないけど、とにかく謝ってなんとか機嫌を取ることにした。
「すみません……」
名前のことはいいとしても、魔力はどうにもならない。どうすればいい? やっぱり俺は結婚に失敗して殺されるんだろうか?
「別にいいよ。僕は魔力の多さなんてどうでもいい」
そんなことを言うから驚いた。
俺の魔力が少ないことを責めなかったのはこの人だけだ。魔力が少ないから生きる価値がないと、ダメな人間だと散々言われてきた。『キラキラした石がついた服を着た男』だけでなく、地下室から出ても、男にも女にも、何度も何度も繰り返し言われてきた。
この人なら、俺と一生添い遂げてくれるかもしれないと思った。結婚するならこの人がいいと思った。
いつか『毛玉』を狩って、この可愛い人に食べさせてあげたい。
だから俺は迷わずアダムの側まで行って、跪いて手を取った。これは眉毛のおじいちゃん先生に教えてもらったんだ。求婚する時にするのだと。
「俺と結婚してください。俺を婿にもらって下さい。『毛玉』を食べさせてあげます。アダムの役に立てるよう頑張るから、どうかお願いします」
最後はもう懇願だ。彼の手は小さくて温かくて柔らかかった。初めて人の手に触れたかもしれない。
この手が好きだと思った。下から見上げると彼の顔はちょっと驚いていて、水色の髪がサラサラと風に靡いて、すごく綺麗だった。紫色の瞳は、あの『キラキラした石がついた服を着た男』の指に嵌められた石みたいに綺麗で、宝物にしたいと思った。
俺の懇願は届いた。彼は頷いてくれたから、俺のこれからの人生はアダムと共にあって、きっと楽しいことがあると想像できたから嬉しくなった。
アダムは俺の手を強く握って、いきなり家の高いところにある部屋に飛んだ。
びっくりして声も出なかった。一瞬だったから怖くはなかったけど、空を飛んだということが夢みたいで、しばらく感動していた。ゆっくり景色を眺めることができず残念だ。
「ソファ、座っていいぞ」
そう言われて部屋に置いてあるソファに座ったら、なぜかアダムはカーテンの後ろに隠れた。ちらっと顔だけを覗かせている。
俺がいきなり手を握ったから警戒しているのかもしれない。眉毛のおじいちゃん先生、求婚のやり方を間違えたんでしょうか?
失礼なことをしてしまったんだろうか。でもさっきは頷いてくれたよな?
そんなことを考えていると、ティーポットとカップがふよふよと浮いて俺の前にきて、お茶の香りがしてきた。こんなのは初めて見た。地下室から出て色々教えてもらった時に、お茶は何度か飲んだけど、吊り上がった目の女が手で持って淹れていた。
お菓子も飛んできて、ソファの前のテーブルに置かれた。全部がすごい。初めて見る光景に感動しっぱなしだった。
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