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二章:ロディ視点
18.事件の話
俺がここにきて何日経ったんだろう?
何回寝たのか数えていなかったのが勿体無い。
今日の護衛は、トミーと、今日初めて護衛になったフライツ。真っ直ぐでサラサラな黒髪を頭のてっぺんで一つにまとめている人で、目が吊り上がっていて、ちょっと怖いけど、この人もとても強い人だ。この人は剣ではなく槍を使う。気軽に持ち歩けないが、いつか俺も使えるようになりたい。
「ロディ、アダムヘルム様と本当に結婚するんですか? 怖いでしょ?」
フライツが深刻そうな顔でそう言った。
「怖くないです」
怖い? アダムのどこが? たまにこんなことを言う人がいるんだ。みんなはアダムのどこを見て怖いと思うんだろう?
小さくて可愛くて、魔術が上手で、とても優しい。俺の一番大好きな人だ。側にいるだけで幸せ。でもアダムを失ったり嫌われたりするのは怖い。そういう意味だろうか?
「ロディはアダムヘルム様が起こした事件を知らないから怖くないんでしょう」
「事件ですか?」
事件って何だろう? それは知らないかもしれない。
トミーは、「おい」と言って、フライツが話そうとするのを一度止めた。でもフライツはそのまま話した。
今から五年くらい前の話だ。王都という場所に学校という子どもが集まって勉強をするところがあるらしい。そこでアダムは魔術で建物を破壊したのだとか。建物にはアダムだけしかいなかったから、怪我をしたのはアダムだけ。それで恐れられているんだと言った。アダムは学校にも通うことができなくなって、ここに戻ってきて、辺境伯家の当主になったんだって。
「ーーということがあったんです。だから使用人も兵もみんなアダムヘルム様の近くには寄らないんですよ。恐ろしいでしょう?」
フライツはそう言ったんだけど、俺にはどこが恐ろしいのか分からなかった。
でも一つ分かったことがある。小さくて可愛いアダムがこんな戦争がよく起きるところになぜいるのか。魔術が凄いからだ。建物を破壊するくらい凄い魔術が使えるからだ。
「俺の夫は可愛くて、優しくて、魔術が上手で、それでいて強いも加わった。俺はアダムと結婚できて幸せだな」
そう言ったら、トミーが珍しくハハハと声を出して笑っていた。
フライツは驚いていたけど、本当のことだ。
でも心配になった。そんな完璧な人に俺は相応しいのか?
「トミー、フライツ、アダムの婿は俺でいいんだろうか? 俺は何もできないのに」
「ロディが一番相応しい。アダムヘルム様の婿になれるのはロディ以外いないだろう。アダムヘルム様が虜になるわけだ」
トミーは太い腕を胸の前で組んだままそう言った。
「そうですね。アダムヘルム様を恐れないどころか幸せか。伴侶にロディを選んだ我が国の王は確かな目を持っているようです」
何を言ってるのかよく分からないけど、二人は認めてくれたらしい。
コンコン
「セドリックです。ローデリック様はいらっしゃいますか?」
「どうぞ」
俺はアダムみたいに魔術で扉を開けることができないから、扉まで走っていって開けた。
なんだかセドリックは深刻そうな顔をしているから、心配になって部屋に招き入れた。椅子を勧めて俺も椅子に座る。
「どちらですかな? アダムヘルム様のあの事件のことを勝手にローデリック様にお話になったのは」
いつもより低い声でセドリックが静かに問いかけた。なんだか少し怖い雰囲気なんだが気のせいだろうか?
「私だ」
フライツが手を挙げた。
「俺が聞いてはいけない話でしたか?」
トミーは一度話を止めた。聞いてはいけなかったのかもしれない。
「いつかはお話になる予定でしたので、聞いてはいけないということはございません。
あ、別件ですが、本日貴族院から婚姻の書類が無事受理されたと報告の手紙が届きました。なのでアダムヘルム様とローデリック様は正式に結婚されたことになります」
「本当? 嬉しい! アダムのところに行かなきゃ!」
慌てて立ち上がった俺を、セドリックが止めた。なんだ?
「アダムヘルム様がローデリック様と離縁すると仰られていて、隠れてしまいました」
離縁……
「やっぱり俺ではアダムに相応しくなかったのか……いつの間にか嫌われていたのか。好きだという想いだけではダメなんだな」
「違います。アダムヘルム様はローデリック様に事件のことを伝えられず、悩んでおられました。知られてしまえば、恐れられて嫌われると思っている様子。先ほどローデリック様のお部屋を訪ねようとしたところ、事件の話をしているのを聞いてしまい、もうダメだと……」
「なんで!? 俺がアダムを嫌うなどあり得ないのに!」
みんなに恐れられているとさっき言っていた。俺が可愛くて大好きなアダムを恐れるなんてあり得ないのに、それが信じられなくなるほどにアダムが事件で傷ついてきたのだと知った。
「フライツ、アダムヘルム様に謝りにいけ」
トミーは睨むようにフライツを見た。
「私は殺されるんでしょうか?」
ボソッと呟いたフライツの言葉に血が湧き上がるような怒りを覚えた。
「フライツ! ふざけるな! いつアダムが何もしていない人を殺した? そんなことしてないだろ? 戦争は国や街の人を守るためだろ? それ以外のところでいつアダムが人を傷つけたんだ? 言ってみろ! アダムは優しいんだ。こんな俺を大切だと言ってくれた。これ以上アダムを傷つけたら俺が許さないからな!」
俺はすぐにアダムの部屋に走った。
俺は恐れない。俺はアダムの夫だ。
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