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三章:純真 アダム視点
20.お婿さんに救われた瞬間
事件のことを知られ、もうロディに嫌われたと思った。もう近づいてはくれないと思った。
ロディが来てから幸せだった。イケメンの顔を毎日見られるし、いい香りのするイケメンに毎日抱きしめてもらえる。きっとこれは夢だったんだ。
カーテンの裏で膝を抱えていた。泣くつもりなんてなかったのに、流れ落ちる涙は全然止まってくれなくて、水魔術の回路が目のところで壊れたのかと思った。抱えた膝の布地の部分にどんどん涙の染みが広がっていく。
いつの間にかこんなにもロディはかけがえのない存在になっていた。失いたくなかった。失うなら人の温もりなんて知らない方がよかった。
バタンッ
ノックもせず扉が勢いよく開いて、誰かが入ってきた。急ぎの用なんだろう。ラディウス帝国がまた懲りもせず攻めてきたんだとしても、後にしてくれよと思った。
足音は部屋の中に入ってきて、右に行ったり左に行ったりしている。きっと僕のことを探してるんだ。そして足音は近づいてきて、僕が隠れているカーテンがバサっと捲られて抱きしめられた。イケメンの匂いだ。
入ってきたのはロディだった。マナーの勉強してるんじゃなかったか? ノックを忘れているぞ。もうどうでもよくて、そんなバカみたいなことを考えていた。
あれ? なんでロディは僕を抱きしめているんだろう? 不思議だ。実は自殺志願者だったのか?
「俺はアダムが好きだ。さっきセドリックから聞いた。俺たちがちゃんと結婚できたって。離縁するなんて言わないで。結婚に失敗して殺されることが怖いんじゃない。アダムを失うことの方が怖い。いなくならないって約束したじゃないか」
この言葉も、事件のことを知られる前なら素直に嬉しいって思えたんだろうけど、今は全部信じられない。
あの事件は全てを変えてしまった。親友と呼べるほど仲がいい友だちはいなかったけど、それでもたまに話したり、昼を一緒に食べたりするクラスメイトはいたし、魔力の多い僕は、十五で社交界デビューすると結構男も女も寄ってきて、ダンスの順番待ちだってされていた。事件の前までは。
夏休みが明けてしばらくして、やっと僕が学校に復学すると、全員僕と距離をとった。僕が歩くとサッと道ができる。僕の行手を遮る者はいない。
「怒らせたら爆破される」とか、酷いものだと「気に入らない奴を何人も殺したらしい」なんて言われて、『破壊神』って呼び名は誰がつけたんだろう? 僕の周りから人が消えた。
自分がやったことだけど、誰かを傷つけたりするつもりなんて無いのに、謂れのない陰口だけがヒソヒソと聞こえてくる。
授業に出たくなくて、夜会にも行きたくなくて、僕は学園を退学して実家に帰った。
実家なら平気かと思ったんだけど、両親でさえ僕を恐れて捨てたんだ。
もう誰も信じられなかった。全ての人が僕のことを『破壊神』と言って恐れる。みんなが避ける。
「事件のこと聞いたんだろ? 僕のこと怖くないの? そんなに近くに来たら爆発するかもしれないよ?」
もうどうにでもなればいい、僕は自嘲気味に伝えた。
「事件の話は聞いたけど、全然怖くない。近くにいたって爆発しないって分かってる。俺はいつもアダムを抱えていたんだから、近寄って爆発するなら俺はもうとっくに死んでる」
なんで、なんてことないって感じで、そんなことを言うんだ? だって僕は『破壊神』だぞ?
「なんで……」
「なんでって、アダムは俺の夫だからだ」
どこかで聞いたようなセリフだ。
そういえば、僕も同じようなことをロディに言ったことがある。
こんな僕を、夫ってだけで救ってくれるのか?
まだ僕のこと好きでいてくれるのか?
僕は……ロディの夫でいていいの?
「アダム、キスしていい? 結婚したから、愛してるから、キスしたい」
「うん。する」
イケメンの熱を帯びた青い目に囚われて、柔らかい唇がフニッと触れた。
初めてのキスは、カーテンの陰だった。誰にも内緒で、隠れてこっそりキスしてるみたいでドキドキした。
ロディの唇は柔らかくて、いつもロディの距離感は近いけど、こんな息がかかるほど近くにイケメンの顔を寄せられたら心臓がもたない。
そんな僕の気持ちも知らずに、意外にもロディは慣れているのか、僕の顔の至る所にキスを落としていく。唇には何度も何度も数え切れないくらいキスされて、ギュッと抱きしめられた。キスってこんなに何度もするものなの? あと何度するの? ロディの香りとキスに酔ってクラクラした。
またイケメンの顔が近づいてくる。
「ロディ、待って、待って、僕初めてなのに、そんなにいっぱいキスされたら死んじゃうから」
本当に、心臓持たないから。ロディは慣れてるかもしれないけど、僕は初めてなんだから。手加減してよ。本当に。
「キスをたくさんしたら死ぬのか!?」
は? ツッコむところそこ? ロディはめちゃくちゃ焦った様子で真剣な目をしてそんなことを聞いてきた。
「違うよ。僕もロディのこと好きだから、そんなにたくさんキスされたら、ドキドキして、苦しい。死なないけど、死にそうな気分になる」
僕は何を言わされているのか。どさくさに紛れて好きだと言っていた。そして自分で言って、自分で恥ずかしくて顔に熱が集まっていく。
「嫌だったならごめん」
「違う違う。嫌じゃない。嬉しいし幸せだけど、き、緊張するから、その……またしたいけど、いきなりいっぱいはダメ」
嫌なわけないだろ。もうなんで分かんないかな?
「分かった。いっぱいはしない。少しだけにする」
「うん……」
少しだけにしてくれ。僕が慣れるまでは。経験値が低くてすまん。五年ほど誰も近寄ってきたことがなかったからさ。
ロディはその後、一度だけ唇にキスをしてくれた。
「俺はアダムと一生添い遂げたいと思ってる。アダムのこと大好きなんだ」
「うん。僕もロディと一生添い遂げたい。一生、ううん、永遠がいいな」
「エイエン?」
「そう。一生よりもっと長い。死んでも終わらないずっとずっと続く終わらない時」
「じゃあ俺も永遠を誓う。ずっとずっと、アダムを大切にする」
やばい。イケメンが砂糖を吐きまくって、僕はその砂糖の山に埋もれてる。そして、僕もイケメンに釣られて、砂糖を吐いて、二人の熱で溶けて、とろりと蜜みたいに絡まって二人の隙間を埋めていく。さっきまでもう死んでしまいたいと思っていたのに、今は絶対死にたくないと思ってる。
僕のお婿さんはイケメンで、二人で甘い蜜の海で揺蕩ってる。なるほど、これが幸せってやつか。
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校正・文体の調整に生成AIを利用しています。