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三章:純真 アダム視点
24.『毛玉』
ロディは朝食後すぐに『毛玉』を狩るために出ていったが、なかなか戻ってこない。もう昼を過ぎて、お茶の時間も過ぎた。
朝は訓練場で訓練をして、それから森に行ったんだろうか?
夕食に『毛玉』を食べようと言っていたし、それまでには帰ってくるだろう。
そう思っていたのに、ロディは日が傾き始めても戻ってこなかった。
兵舎に向かい、その辺にいた兵に聞いてみる。
「ロディは戻っているか?」
「朝、第二部隊と森に出かけてからまだ戻ってませんね。第二部隊も戻ってないんで今日は森で野営なのでは?」
野営? そんなはずはない。今日『毛玉』を夕飯にすると言ったんだ。
単独で森に行ったわけではないし、第二部隊のみんなもいるのであれば、何もないと思うが心配だった。
しばらく待つと、辺りが暗くなる頃に、兵たちが戻ってくる音がした。
「ロディ!」
僕が呼ぶと、黒い巨大なクマみたいなものが走ってきた。僕の前まで来ると、それは魔物を背負ったロディだった。
「アダム、『毛玉』がなかなか見つからなくて、遅くなってしまった」
「うん、で、それが『毛玉』ってやつ?」
「そう。これ、美味しいんだ」
ライトを浮かべて見てみると、黒く硬い毛皮に覆われ、大きな角と鋭い牙をもつ猪の魔物、キングファングボアだった。これが『毛玉』の正体だったのか。
子どもの頃にロディがよく狩っていたと言っていたし、もっと小さくてふわふわしたものを想像していた。子どものロディは、こんなのが跋扈するような森に何度も捨てられていたのか。そして子どもの頃からこんな体長2メートル以上ある魔物と戦っていたのか。生きていてくれてありがとう。
「僕が捌いてあげるよ」
「いいのか?」
魔物の解体くらいなんてことない。子どもの頃から魔術の練習のために森でやっていた。大きな魔術をぶっ放すより、解体などの細かい作業の方が魔術の操作が上手くなると気付いてから積極的に解体していたんだ。
僕は風の刃を使ってサクサクと捌いた。
「アダムは本当にすごい。格好いいし、可愛い」
ロディは解体が終わるとギュッと抱きしめてくれたんだが、今日はいつもみたいにいい匂いではなく、酷い獣臭だった。『毛玉』を背負ってきたんだから仕方ないが、ちょっとショックだった。
「ごめん。俺、汚かった。すぐに風呂に行ってくる!」
僕が臭いと思ったことに気づいたのか、僕を置いてすぐに走っていってしまった。捌かれた『毛玉』と共に置き去りにされた僕は、ショックを受けたのはとても失礼なことだと思い至って反省した。
「アダムヘルム様、『毛玉』は屋敷に全て運びますか? 肉以外は要りますか?」
兵の中でもキングファングボアは『毛玉』という名前が定着したらしい。
「全部は食べられないから、そのモモの塊一つだけでいい。あとはみんなで食べてくれ。毛皮も骨も要るなら使っていいし、要らないなら冒険者ギルドで売っていい」
そう言うと、兵たちから歓声があがった。『毛玉』は確かに美味い。脂の部分は甘くて濃厚で、毛は硬いけど肉は繊維も柔らかいし、臭みもなく、街で売ったら結構な高級品として扱われる。
兵たちは西側の森から出てきたように見えたが、『毛玉』を狩るなら南東に広がる森の方が多く生息しているだろう。
冒険者ギルドというのは狩りや戦闘が得意な者のための仕事斡旋所で、魔物の素材の買取りをしてくれる。肉は肉屋でも買取りをしてくれるが、毛皮や角などは冒険者ギルドに売ることになる。ロディも森の家に住んでいた頃に『毛玉』を売りに行ったと言っていた。
僕はせっかくロディが狩ってくれた『毛玉』のモモ肉を持って、屋敷に戻った。
キッチンに行くと、すでに夕飯は作られており、もう少しで完成というところだったが、料理長に無理を言って『毛玉』を夕飯に出してもらうよう頼んだ。
「こちらは、ボアですか? 脂が多くて綺麗なピンク色ですので、キングファングボアでしょうか」
「そうとも言う。これは『毛玉』のモモ肉だ」
「え? 『毛玉?』 わ、分かりました。今から調理するとなると、焼いてソースかハーブ塩という感じになりますが、よろしいですか?」
「うん、そのままでも美味いから、焼いてちょっと塩味が付いてればいい」
調理場から、『毛玉?』『毛玉』『毛玉?』『毛玉』と『毛玉』を連呼する声が聞こえてきた。
兵の中だけでなく、屋敷の中でも『毛玉』という名前が浸透しそうだ。
その後、『毛玉』という名称は、兵たちが素材を卸した冒険者ギルドと冒険者たちから各地へと広まっていくのだが、この時は僕もロディもまだ知らない。
コンコン
「ロディ、夕飯を食べに行こう」
そう言いながら扉を開けると、ロディは湯浴みを終えて着替えているところだった。
部屋のライトの魔道具は、それほど明るくないんだが、僕は見てしまった。慌てた様子でシャツをバサっと着る瞬間に、背を向けたロディの腕や背中にある無数の傷跡を。
魔術の的……『石男』はロディを的にして、治癒すらかけなかったのか?
気づいたら駆け出していて、ロディを後ろから抱きしめていた。
「ロディ。もう大丈夫だからね。これからは絶対にロディを傷つけさせたりしない。僕が守る」
ロディは何も言わなかった。
僕が回した腕にそっと触れた彼の手は、少し震えていて、心が切り裂かれたみたいに痛かった。どれだけ傷ついてきたんだ。
「いっぱい傷があって怖くないか?」
「何も怖くない。ロディのことが怖いわけないだろ」
「そっか。それならいいんだ」
「愛しいよ。ロディの全部が愛しい」
そう言ったら、ロディはこっちを向いて、僕を抱き上げてキスをした。風呂上がりだから、髪は下がっているし、いつものロディの香りとは少し違う、石鹸の香りがした。
「俺も、アダムの全部が愛しい。少し怖かったんだ。傷を見られることが」
「僕たちは永遠を誓っただろ?」
「うん。そうだな」
ロディの憂いは全て取り除いてやりたい。
「ロディ、今夜、その、し、しよう」
「何をだ?」
僕に言えって言うのか? 恥ずか死ぬ。今でも瀕死なのに、これ以上は……
そうだ、隠語がある。
「ベッドで格闘を……」
「分かった」
伝わったか? でも僕は初めてだ。上手くできるか分からない。自信もない。
ロディは教えられているんだよな? じゃあ任せていいのか?
僕は学園に入ってから精通はしたものの、長期休みに実家に帰ることもなかったから、ちゃんと教育を受けてない。領地に戻ってから両親はすぐに出て行ったし、右も左も分からないまま領地経営をさせられて、そんな暇も無かった。
手淫はしたことがあるが、二人でする時の手順とかそんなのは知らない。
その後、ロディに抱えられたまま食堂へ向かい夕飯を食べた。ロディが狩ってきてくれた『毛玉』は、とても美味しいはずなのに、夜のことを思うと緊張して美味しかったかどうかも記憶にない。
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