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三章:純真 アダム視点
29.『毛玉』狩り大会
やってきました【『毛玉』狩り大会】
秋晴れの空は澄んで、いい天気だ。雨の中の狩りは思わぬ怪我も増えるし晴れてよかった。
当初の賞品は優勝者にワイン樽一つだけだったが、小麦やフルーツ、紅茶なども二位以下の賞品として用意された。
大きさの判定は角の大きさで決める。体格が大きくなるほど、長年生きるほど、角や牙は発達する。そのため角で判断する。
制限時間は日没まで。未成年も親や保護者の同伴があれば参加可能とした。
参加はソロでもグループでもいいが、グループで優勝した場合、ワインはグループで一樽だ。
兵たちが各所に散っていて、危険があるようなら介入したり、狩った獲物を横取りするような者がいたら即失格というルールも設けた。
お祭りということで、参加者が狩りに出ている間も第一訓練場は開け放たれ、屋外の広場も開放された。屋台も出ているし、狩りを楽しめないような子どもやお年寄りなども楽しめるようにした。
昼には領主邸から、冷たいジュースが振る舞われる。僕が広範囲に結界を張って中を涼しく保っているから、残暑が厳しい今の時期でも、領主邸に遊びに来るだけで快適というわけだ。
結婚式はまだだが、ロディのお披露目も計画している。
そうすればロディも気軽に街に出られるようになると思った。
開会の挨拶をして、ロディを呼んだ。
「みんなに報告がある。彼は夫のローデリック。先日結婚した。まだ未熟な私たちだが、二人で領地発展のために尽力していくのでよろしく頼む」
ロディは少し緊張した様子で、静かに僕の隣に立っていた。みんなから拍手と歓声が上がると、一瞬ビクッとして、歓迎されていると理解すると、嬉しそうな笑みを浮かべた。
きっとこの会場にいる少なくない数の領民がイケメンロディの笑顔に落ちた。
ダメだからな。ロディは僕の夫だ。
ロディは護衛のカミーユとフライツと一緒に参加する。
「アダムのために一番大きいの狩ってくる!」
ロディは気合十分という雰囲気で拳をグッと握りしめた。
「無茶はするなよ。怪我しないよう気をつけてくれ」
「俺のこと街のみんなに紹介してくれて嬉しかった」
そう言ってロディは当たり前のように僕のことを抱きしめた。今日もイケメンは輝いていて、いい匂いがする。
周りが騒ついているのは、もう気にしないでおこう。
ロディが狩りに出ている間、僕は屋敷で留守番だ。
僕がいるとみんなが緊張する、というか怖がるから、参加者たちが出発したら僕は会場から離れて部屋に戻った。
早い者でも戻ってくるのは昼を超えるだろう。
昼を過ぎてしばらくすると、参加者たちが『毛玉』を持って戻り始めた。
狩ってきた『毛玉』のサイズ測定は兵たちに任せてある。角は倒した人の名前と共に会場に飾られるが、肉は早々に捌かれ、毛皮や牙は冒険者ギルドが買い取る。僕がいなくてもちゃんと回る。
僕のお婿さんはまだ帰ってきていない。
ロディが帰ってきたら会場に顔を出して、表彰だけしたらまた部屋に戻ろう。僕はみんなが楽しんでいる声を聞くだけで十分だ。
ロディは日暮れギリギリに、何それ、それも『毛玉』なの? ってくらいでかい個体を護衛と共に引きずってきた。
「アダムー! どこー? 大きいの見つけたよー!」
会場に僕が見当たらないから、ロディは大声で僕を呼んだ。
今回の優勝は明らかだな。と思いながら、ベランダから飛んでロディの元に向かった。
イケメンスマイルを発動しながら、手を広げて寄ってきたけど、寸前のところでロディは止まった。
「風呂に行ってくる!」
気にしなくていいのに、ロディは走って屋敷に行ってしまった。きっと暑い中を走り回って、『毛玉』を担いできたから、匂いが気になったんだろう。
急いでいたのか、ロディはまだ髪がしっとりした状態で戻ってきた。風呂上がりの色気を撒き散らしてサービスしなくてもいいんだぞ。ロディは風魔術が使えず髪も自分で乾かせないから仕方ないが、色欲の目で僕のお婿さんを見るのはやめてくれ。
短いから拭いてしばらくすれば乾くんだが、椅子に座らせて僕が乾かしてあげた。
ロディはニコニコしているし、周りから温かい眼差しを向けられて、しまったと思った。ここは部屋ではない。外で、しかも街のみんながいる。
「アダムありがとう。なんでお祭りなのに部屋にいたんだ?」
「ん? 『破壊神』が近くにいたらみんな楽しめないだろ?」
そう言うと、ロディの顔が一瞬にして曇った。
「大丈夫だ。僕は慣れてるし気にしてないから。ロディさえいてくれればいいんだ」
「そんなことに慣れてはダメだ」
ロディは僕をギュッと抱きしめてくれた。
僕は慣れていたけど、気にしてないのは嘘だった。やっぱりちょっと寂しくて悲しかったんだ。僕はまたロディに救われた。人目も憚らずロディの背中に腕を回して力を込めた。僕のお婿さんは優しい。
会場では美味しそうな匂いが漂っている。集まったみんなのためにエールや各種酒、ジュースも用意してあるし、『毛玉』の肉も、煮込みや焼いたもの、色々な味付けで飽きないようにしている。
フルーツや野菜、パンもたくさん用意した。
ロディと手を繋いで会場を歩く。優勝者はロディ、カミーユ、フライツの三人。表彰式でワインの樽を渡すと、ロディはその場で迷わず開けて、「みんなで飲んだ方が美味しい」と参加したみんなに振る舞った。そういうところも好きだな。『石男』みたいな碌でもない奴から、なぜこんなにいい男が生まれたのか謎だ。
大人だけでなく子どもも『毛玉』の肉を美味しいと言って食べている。開催してよかった。
そう思っていたら、よそ見をして歩いていた子どもがロディにぶつかった。そして手に持ったオレンジジュースが溢れたんだ。
「うっ……」
急に恐怖が襲ってきて、足に力が入らなくなった。
「アダム!」
ロディの声がどこか遠く聞こえる。ロディが僕を包み込んで温かいのは分かったんだが僕は動けなかった。
どれくらいの時間が経過したのか、恐らく時間にしたら数秒だと思うがとても長く感じた。ロディが僕の背中を撫でる手が優しくて、やっと意識がはっきりとしてきた。
理由は分かっている。オレンジジュースだ。いつからかは分からないが、僕はオレンジジュースを見ると恐怖を感じるようになった。僕はオレンジジュースを飲まないし、使用人は飲むかもしれないが距離が遠いから今まではこんなに酷い症状が出たことはなかった。
「アダム、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。僕はオレンジジュースが苦手なんだ。理由は分からないが怖い」
「そうか。俺が怒鳴り声が怖いと思うのと少し似ている」
そうロディがそう言って、なるほどと思った。ロディは手を繋いで歩いていると、たまにビクッとすることがある。兵が怖いのか、ある特定の人物なのかと思っていたが怒鳴り声だったのか。だから朝も歓声が上がった時にビクッとしていたんだと分かった。
イケメンで努力家で優しいロディ。夫として申し分ないロディと魔術しか取り柄のない僕には何の共通点もないと思っていたが、似ていると言われて嬉しかった。
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