36 / 75
四章:進展 アダム視点
36.来訪者
「旦那様、手紙を持ってきた者がおりますが、いかがいたしますか?」
「うん。今見る」
部屋の扉から一歩入ったところで立ち止まったハドリットの手から手紙をヒラリと手元に飛ばした。ハドリットも以前は扉から一歩も入ってこなかったが、一歩入るようになった。
手紙の主はクルート・シュリンゲ、僕の元クラスメイトで、シュリンゲ子爵家の三男からだった。
内容は、今更だと思うが昔のことを会って謝罪したいという内容だ。結婚祝いも渡したいのだとか。
確かに当時同じクラスだったが、それほど親しくしていた記憶はない。派閥的にもうちは国王派だし、シュリンゲは貴族派。しかもエアガイツ公爵の派閥だったよな? なんでそんな奴が。
それに今まで一度も、そんな手紙は受け取ったことがない。謝罪? 昨日夜会で僕を見かけたんだろう。もしかしたら、様子を見てこいと言われたのかもしれない。僕と、その婿ロディの。
陛下が僕とロディを呼び出して話をしたのはみんなが知っている。「王が近付いても平気ならお前行ってこい」という感じで送り出されたのかもな。
嫌だと断ってもいいんだが、そうなれば他の奴が送り込まれる。結局クルートの来訪を断っても次から次へと訪問の打診がくるんだ。
面倒だが受けてみるか。何を企んでいるのか知らないが、まさか僕の暗殺とかではないよな?
「ハドリット、使者には明日の午後であれば時間を作ると答えておいてくれ」
「畏まりました」
ロディに、一応手紙の内容を見せてみたら、貴族社会を知らないロディは、謝りたいなんて、結婚のお祝いをくれるなんて、いい人だねなんて嬉しそうにしている。
ロディにはそのままでいてほしいな。念のためロディには魔道具のペンダントを着けるように言った。
「いやぁ、ロータス閣下、ご無沙汰しております」
使者に伝えた通り、クルートは翌日の午後に屋敷を訪れた。少し頬はピクピクと引き攣らせているが、他所行きの笑顔を貼り付け、和やかな口調を心掛けているようだ。
そうだ思い出した。こいつは馴れ馴れしいことが取り柄みたいな奴だった。
昔と違って物理的距離は遠いが。
「ああ、久しぶりだなクルート殿。どうぞ掛けてくれ」
一応は向かいのソファを勧めてみる。
「いえいえ、閣下の目の前に座るなど私のような者が恐れ多い、私は床で結構です」
そう言ってクルートは、かなり離れた床に座った。へりくだった物言いだが、かなり失礼なことである。
謝罪などと心にもないことを。
ほんの少しだけ、期待していた。陛下のように僕のことを気にしてくれていたのではないかと。派閥は違うが、誰にも危害を加えていないのに、追い出されるように学園を去った僕のことを。
それは無いということが分かっただけでも、よかったのかもしれない。そう思っておこう。
「クルート殿、私の勧めたソファには座れないのですか?」
「あ、いえ、私のような者は床で十分でございます」
クルートは軽く頭を下げ、僕とは目も合わせなくなった。しかしロディの方はチラッとだけ見た。
「そちらがロータス閣下の旦那様ですか?」
「そうだが何か?」
「いえ、ご結婚おめでとうございます。心ばかりですが……」
そう言って彼は、テーブルの僕から一番遠い端にちょこんと箱を置いて、またさっき座っていた床に戻った。
そんなに僕が怖いんだな。これが普通の反応か……
「ありがとう。アダム、開けてもいい?」
「いいよ」
中身は琥珀色の酒だった。そういえばシュリンゲ子爵領は蒸留酒が有名だったな。
「お酒?」
「そうだな。シュリンゲ子爵領で作られている酒だ」
「クルート殿、ありがとう。あとでアダムと一緒にいただきます」
軽いイケメンスマイルが発動され、クルートも少し頬を染めた。は? 僕の夫だぞ。
何かを探ってくると思ったんだが、結局謝罪は無かったし、帰りたそうにソワソワしている。
僕はクルートを虐めたいわけじゃない。
「何だか体調が優れないようですね。寒さのせいですか? お帰りになってゆっくり休まれたほうがよろしいのでは?」
「ええ、そうですね。すぐにでも失礼させていただきます」
そう言うと、クルートはサッと立ち上がった。
玄関の外まで見送ってやると、ロディが口を開いた。
「あれ? クルート殿、謝罪はしないのですか? そのための来訪なのでは?」
そういえば、そのための来訪のはずだったな。僕はそんなの嘘だって分かってたけど。ロディはあの手紙をそのまま素直に受け取ったんだ。さあどうするクルート。
「ロータス閣下、その、学園では恐れて申し訳ありませんでした」
「……謝罪の言葉は受け取りましょう」
この言葉は、クルートへ向けたものではない。ロディを安心させるための言葉だ。
「クルート殿、さあ顔をあげて。お友達ならまた来てください」
ロディは何の警戒もなくクルートに近付いた。
問題はない。僕が大切な夫を危険な目に遭わせるわけがない。ちゃんと結界を張ってある。
僕はクルートのその表情の変化を見逃さなかった。緊張で手が震えたその瞬間も、ロディの懐に何かを入れたのも見たぞ。
「そいつを捕えろ!」
僕が声をあげると、兵が一斉に飛びかかった。
兵たちにバタッとうつ伏せに倒され潰れたクルートに、ロディはびっくりしている。こんな場面、見せたくなかったんだけどな……
「ロディ、危ないから動くなよ」
「は、はい」
魔力を纏わせロディの懐に手を突っ込むと、小さな魔道具が出てきた。
「クルート、これはなんだ? うちの夫に何をしようとした? 言え!」
優秀な執事であるハドリットはもう衛兵を手配しているので、倒されたクルートを囲むのはうちの兵だけではない。
「命だけは……」
「そんなこと聞いてない。お前がうちの夫の懐に入れたこれはなんだ? 言え!」
ロディは懐にそんなものを入れられたことにも気付いてなかったんだろう。何が起きているのか分からず驚いたままで固まっている。
僕はこれが何か知ってるけどね。早く言えよ。誰の指示かもな。
「魅了の……」
「違うな。起動して数分後に火が吹き出すものだ」
クルートは驚いた表情をしている。知らずに持たされたのか?
暖炉の火を起こすのに開発されたが、火力調節が上手くできず何度か事故が起き、危険だからと売れなかったものだ。魔道具に興味がない者であれば知らないのも無理はない。今はもっと安全で安価なものが出ている。
僕がロディの懐から出した時に魔石を外しているから、もう火は出ない。火が出ても死ぬことはないし、すぐに治癒をかければ跡も残らないだろうが、服に燃え広がったり、室内なら家具やカーテンなどに燃え移る危険もある。悪戯にしてはタチが悪い。
目的は何だ? 僕に対しての警告?
昨日陛下に聞いたことを思い出した。あの事件には裏があると。協力を依頼するかもしれないと。
両親が話に出てきたし、僕を含むロータス家が調べていて何かを掴んだため社交の場に出てきたと思われたんだろうか?
巻き込みたくないと言ったが、もう巻き込まれている。ロディも含めて。
バカだな迂闊に出てきて。もし事件に裏があるのだとしたら、エアガイツ公爵の派閥が関係していると言っているようなものだ。こんな迂闊なことをするということは末端の者の判断なんだろう。
クルートを調べてもきっと何も出てこないだろうが、何を隠してる? あの事件ってそんな裏があるようなものだったのか?
僕の魔術が暴発したんじゃないのか?
またこめかみにズキリと痛みが走った。
「その魔道具とこの男は引き取ってよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
衛兵はクルートに魔力封じの枷を付け引き上げていった。
三男だから捨て駒に使われたか? それともエアガイツ公爵の一声で助け出されるか、どっちだろうな?
ロディはこんな場面を見せられてさぞ怖かっただろう。僕のことを恐れてなければいいんだけど……
そっとロディを見てみると、なぜか目をキラキラ輝かせて僕のことを見ていた。なぜ?
「アダム格好いい! 俺は全然気付けなかった」
「そうか。とりあえず屋敷に入ろう」
事件を調べるとしたら、まず学園を調べる。もし両親が調べているのだとしたら、この屋敷に滞在するはず。だとしたらハドリットが何か聞いているのではないかと思った。
あなたにおすすめの小説
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
契約書はよく読めとあれほど!
RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。
最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。
彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。
この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。
理想の自分と、理想の幸せを探す物語。
23話+続編2話+番外編2話
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。