【完結】破壊神のお婿さんはイケメンらしい

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四章:進展 アダム視点

36.来訪者

  

「旦那様、手紙を持ってきた者がおりますが、いかがいたしますか?」
「うん。今見る」
 部屋の扉から一歩入ったところで立ち止まったハドリットの手から手紙をヒラリと手元に飛ばした。ハドリットも以前は扉から一歩も入ってこなかったが、一歩入るようになった。

 手紙の主はクルート・シュリンゲ、僕の元クラスメイトで、シュリンゲ子爵家の三男からだった。
 内容は、今更だと思うが昔のことを会って謝罪したいという内容だ。結婚祝いも渡したいのだとか。

 確かに当時同じクラスだったが、それほど親しくしていた記憶はない。派閥的にもうちは国王派だし、シュリンゲは貴族派。しかもエアガイツ公爵の派閥だったよな? なんでそんな奴が。

 それに今まで一度も、そんな手紙は受け取ったことがない。謝罪? 昨日夜会で僕を見かけたんだろう。もしかしたら、様子を見てこいと言われたのかもしれない。僕と、その婿ロディの。
 陛下が僕とロディを呼び出して話をしたのはみんなが知っている。「王が近付いても平気ならお前行ってこい」という感じで送り出されたのかもな。

 嫌だと断ってもいいんだが、そうなれば他の奴が送り込まれる。結局クルートの来訪を断っても次から次へと訪問の打診がくるんだ。
 面倒だが受けてみるか。何を企んでいるのか知らないが、まさか僕の暗殺とかではないよな?

「ハドリット、使者には明日の午後であれば時間を作ると答えておいてくれ」
「畏まりました」

 ロディに、一応手紙の内容を見せてみたら、貴族社会を知らないロディは、謝りたいなんて、結婚のお祝いをくれるなんて、いい人だねなんて嬉しそうにしている。
 ロディにはそのままでいてほしいな。念のためロディには魔道具のペンダントを着けるように言った。


「いやぁ、ロータス閣下、ご無沙汰しております」
 使者に伝えた通り、クルートは翌日の午後に屋敷を訪れた。少し頬はピクピクと引き攣らせているが、他所行きの笑顔を貼り付け、和やかな口調を心掛けているようだ。
 そうだ思い出した。こいつは馴れ馴れしいことが取り柄みたいな奴だった。
 昔と違って物理的距離は遠いが。

「ああ、久しぶりだなクルート殿。どうぞ掛けてくれ」
 一応は向かいのソファを勧めてみる。
「いえいえ、閣下の目の前に座るなど私のような者が恐れ多い、私は床で結構です」
 そう言ってクルートは、かなり離れた床に座った。へりくだった物言いだが、かなり失礼なことである。
 謝罪などと心にもないことを。

 ほんの少しだけ、期待していた。陛下のように僕のことを気にしてくれていたのではないかと。派閥は違うが、誰にも危害を加えていないのに、追い出されるように学園を去った僕のことを。
 それは無いということが分かっただけでも、よかったのかもしれない。そう思っておこう。
「クルート殿、私の勧めたソファには座れないのですか?」
「あ、いえ、私のような者は床で十分でございます」
 クルートは軽く頭を下げ、僕とは目も合わせなくなった。しかしロディの方はチラッとだけ見た。

「そちらがロータス閣下の旦那様ですか?」
「そうだが何か?」
「いえ、ご結婚おめでとうございます。心ばかりですが……」
 そう言って彼は、テーブルの僕から一番遠い端にちょこんと箱を置いて、またさっき座っていた床に戻った。
 そんなに僕が怖いんだな。これが普通の反応か……

「ありがとう。アダム、開けてもいい?」
「いいよ」
 中身は琥珀色の酒だった。そういえばシュリンゲ子爵領は蒸留酒が有名だったな。
「お酒?」
「そうだな。シュリンゲ子爵領で作られている酒だ」
「クルート殿、ありがとう。あとでアダムと一緒にいただきます」
 軽いイケメンスマイルが発動され、クルートも少し頬を染めた。は? 僕の夫だぞ。

 何かを探ってくると思ったんだが、結局謝罪は無かったし、帰りたそうにソワソワしている。
 僕はクルートを虐めたいわけじゃない。
「何だか体調が優れないようですね。寒さのせいですか? お帰りになってゆっくり休まれたほうがよろしいのでは?」
「ええ、そうですね。すぐにでも失礼させていただきます」
 そう言うと、クルートはサッと立ち上がった。

 玄関の外まで見送ってやると、ロディが口を開いた。
「あれ? クルート殿、謝罪はしないのですか? そのための来訪なのでは?」
 そういえば、そのための来訪のはずだったな。僕はそんなの嘘だって分かってたけど。ロディはあの手紙をそのまま素直に受け取ったんだ。さあどうするクルート。

「ロータス閣下、その、学園では恐れて申し訳ありませんでした」
「……謝罪の言葉は受け取りましょう」
 この言葉は、クルートへ向けたものではない。ロディを安心させるための言葉だ。

「クルート殿、さあ顔をあげて。お友達ならまた来てください」
 ロディは何の警戒もなくクルートに近付いた。
 問題はない。僕が大切な夫を危険な目に遭わせるわけがない。ちゃんと結界を張ってある。

 僕はクルートのその表情の変化を見逃さなかった。緊張で手が震えたその瞬間も、ロディの懐に何かを入れたのも見たぞ。

「そいつを捕えろ!」
 僕が声をあげると、兵が一斉に飛びかかった。
 兵たちにバタッとうつ伏せに倒され潰れたクルートに、ロディはびっくりしている。こんな場面、見せたくなかったんだけどな……

「ロディ、危ないから動くなよ」
「は、はい」
 魔力を纏わせロディの懐に手を突っ込むと、小さな魔道具が出てきた。
「クルート、これはなんだ? うちの夫に何をしようとした? 言え!」
 優秀な執事であるハドリットはもう衛兵を手配しているので、倒されたクルートを囲むのはうちの兵だけではない。

「命だけは……」
「そんなこと聞いてない。お前がうちの夫の懐に入れたこれはなんだ? 言え!」
 ロディは懐にそんなものを入れられたことにも気付いてなかったんだろう。何が起きているのか分からず驚いたままで固まっている。
 僕はこれが何か知ってるけどね。早く言えよ。誰の指示かもな。

「魅了の……」
「違うな。起動して数分後に火が吹き出すものだ」
 クルートは驚いた表情をしている。知らずに持たされたのか?
 暖炉の火を起こすのに開発されたが、火力調節が上手くできず何度か事故が起き、危険だからと売れなかったものだ。魔道具に興味がない者であれば知らないのも無理はない。今はもっと安全で安価なものが出ている。

 僕がロディの懐から出した時に魔石を外しているから、もう火は出ない。火が出ても死ぬことはないし、すぐに治癒をかければ跡も残らないだろうが、服に燃え広がったり、室内なら家具やカーテンなどに燃え移る危険もある。悪戯にしてはタチが悪い。
 目的は何だ? 僕に対しての警告?

 昨日陛下に聞いたことを思い出した。あの事件には裏があると。協力を依頼するかもしれないと。
 両親が話に出てきたし、僕を含むロータス家が調べていて何かを掴んだため社交の場に出てきたと思われたんだろうか?
 巻き込みたくないと言ったが、もう巻き込まれている。ロディも含めて。

 バカだな迂闊に出てきて。もし事件に裏があるのだとしたら、エアガイツ公爵の派閥が関係していると言っているようなものだ。こんな迂闊なことをするということは末端の者の判断なんだろう。
 クルートを調べてもきっと何も出てこないだろうが、何を隠してる? あの事件ってそんな裏があるようなものだったのか?
 僕の魔術が暴発したんじゃないのか?
 またこめかみにズキリと痛みが走った。

「その魔道具とこの男は引き取ってよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
 衛兵はクルートに魔力封じの枷を付け引き上げていった。
 三男だから捨て駒に使われたか? それともエアガイツ公爵の一声で助け出されるか、どっちだろうな?

 ロディはこんな場面を見せられてさぞ怖かっただろう。僕のことを恐れてなければいいんだけど……
 そっとロディを見てみると、なぜか目をキラキラ輝かせて僕のことを見ていた。なぜ?

「アダム格好いい! 俺は全然気付けなかった」
「そうか。とりあえず屋敷に入ろう」

 事件を調べるとしたら、まず学園を調べる。もし両親が調べているのだとしたら、この屋敷に滞在するはず。だとしたらハドリットが何か聞いているのではないかと思った。


  
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