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四章:進展 アダム視点
38.王都の冒険者と『毛玉』
王都では色々なところにロディと行こうと思っていたが、危険があるとなると話は別だ。
街の中で戦闘なんかしたくない。雪解けまでは王都にいる必要があるが、屋敷に篭りっきりというのもな。
茶会や夜会には行きたくないし。招待もされない。よって僕たちは暇を持て余すことになった。
「ロディ、どこか行きたいところはあるか? やりたいことでもいい」
「森に行って『毛玉』を狩りたい」
ロディが見たい店や欲しい物、食べたいものがあるのなら結界を張って出掛けようかと思ったが、まさかの『毛玉』狩りを提案してくるとは。
「なぜ『毛玉』を狩りに行きたいんだ?」
「アダムと結婚させてくれた王様にあげたい」
なるほど、王への献上か。しかし情報がないぞ。王都の近くにいるのか、いるならどっちの方角か、今の時期でも見つかるのか。
「アダムも行く?」
「一人で行く気だったのか?」
「トミーたちと一緒に行こうと思っていた。アダムも仕事がないなら一緒に行く?」
「行く」
領地ではロディは護衛と冒険者たちと森に行っていた。それと同じなのに、なぜか今回は疎外感を感じて悲しくなった。
「じゃあ一緒に行こう。寒いから温かい服を着て行こう」
僕はロディに「それでは寒い」と何度もダメ出しをされ、もこもこに着込むことになった。
「アダム可愛い」
もこもこに着込んだ僕をヒョイっと抱えて、アダムがギルドへ連れて行ってくれた。
今日の護衛はトミーとフライツの黒髪コンビだ。
冒険者ギルドには僕が行っても大丈夫だろうか? 騒ぎになったら申し訳ないな。そんなことを考えていたが、意外と平気だった。
「『毛玉』の依頼は無いね」
「そうだな」
ロディとトミーが依頼掲示板を眺めながらそんな会話をしている。
いやいや、あれはキングファングボアという名前であって『毛玉』はうちの領都の辺りでしか通じない名前だろ。
冒険者ギルドでは、こうして仕事の依頼が掲示板に張り出される。それを見て仕事を受けて森に行ったりするらしい。
「お? 綺麗な兄ちゃんだな。『毛玉』ってなんだ?」
知らない冒険者が話しかけてきた。それなりに筋肉がついているから強いのかもしれないが、茶色い髪のチャラそうな男だ。
「黒い毛が硬くて、ツノと牙が生えた魔物だ」
ロディは簡潔に説明したが、それだけじゃ分からないだろ。
「キングファングボアのことだ」
僕が助け舟を出してやった。
「ふむ、昔はそんな名前で呼ばれていたな」
トミーはそんなことを言ったが、昔ではなく現在もその名前だと思う。
「あれ? 小さいしモコモコだから子どもかと思ったら『破壊神』じゃね?」
小さいとか子どもとか言われてムッとしたが、『破壊神』と呼ばれて急に居心地が悪くなった。
みんな僕から距離をとって、怯えた表情に……あれ?
「マジ? 『破壊神』いるの? どれだ?」
「『破壊神』来てるのか?」
「見たい!」
「どいつ?」
なぜか僕たちの周りに冒険者が集まってきた。
「『破壊神』なんて呼ぶな。俺の夫は『破壊神』なんて名前じゃない。アダムという可愛い名前があるんだ! 俺の夫は優しくて、強くて、可愛くて、格好いいんだ!」
ロディが寄ってきた冒険者たちに向かって声を上げた。
あ、うん……
最後の方は余計じゃないか?
「『破壊神』って二つ名じゃねえのか? 本人は嫌なのか。悪かったなアダム、様?」
「まあ、二つ名は自ら名乗るイタイ奴もいるけど、本人は嫌な場合もあるのかもな」
「悪かったな、アダム様」
「『破壊神』なんて俺なら自慢だけどな」
僕の『破壊神』ってのは二つ名なのか……?
そうとも言えなくはない。それより彼らは僕を恐れないのか? 距離を取るどころか寄ってきたのが意外すぎて、僕はどうしたらいいのか分からなくなった。
「おまえアダム様の夫なのか?」
「そうだ。俺はアダムの夫のローデリック。アダムは俺の夫だから取るなよ」
僕のお婿さんは、僕のことを大好きらしい。嬉しいけど、恥ずかしいからやめて。
「俺はアダム様よりローデリック様のがタイプだな。ショタには興味がない」
誰がショタだ。僕はもう大人だ。ちょっと小柄なだけだ。
「俺もだなー」
「取るならローデリック様だな」
ロディはホッとしている。ロディは僕のこと以外愛さないって分かってるけど、なんかモヤっとする。
「で何だっけ? 『毛玉』探してるとか言ってたな」
『毛玉』とは何だと冒険者の中で騒ぎになったが、キングファングボアだと言うと、「そっちのが覚えやすいな」なんて言われていた。
覚えやすいのはそうだろう。
この時期『毛玉』狩りは王都ではなく、王都の南隣の街ラムダの向こうにある森がお勧めだと教えてくれた。
「アダム行こう」
「そうだな」
「場所わかんねーだろ? 付いていってやるよ」
「俺も行く」
「俺も暇だから行く」
「アダム様の魔術見たいな」
「久々に『毛玉』食いてえな」
暇だとかで冒険者が大勢ついてくることになった。『毛玉』狩り大会で親睦を深めた者たちでもないのに、なぜだ? 僕は万人に恐れられて避けられているんじゃなかったのか? やはり冒険者は例外なのか? それともロディが側にいるからか?
王都の南門を出て街道を真っ直ぐに歩いていく。
「ローデリック様はアダム様と恋愛結婚なんだな。貴族なんだろ? 珍しくないか?」
「元々は王様に決められた結婚だったが、俺はすぐにアダムのことを好きになった。可愛いだろ? 格好いいし、優しいし、俺を救ってくれた。大好きなんだ」
「おおー!」
「熱いねー!」
「ヒュー!」
僕は恥ずかしい。これは惚気ってやつだろ? それって僕がいないところで言うものじゃないのか?
「アダム様もそうなのか?」
僕に振るなよ……
「どうなんだ?」とみんなからの視線が集まって、もう言うしかなくなった。
「僕も、好きだ……」
本当に消え入りそうな小さな声だったけど、ちゃんと言ったぞ。
恥ずかしくて顔は上げられない。顔が熱を持って熱いが、僕は言った。
「アダム! 可愛い! 好きだ!」
ロディが僕を抱き上げて、そのままギュッと抱きしめてる。
そして耳元で囁いてきたんだ。
「アダム、キスしたい。ダメ?」
「ダメだダメだ! 人前でなんて……」
そう答えたのに、ロディは僕の額にキスをした。
「熱いねー」
「ここだけ熱い、あー、俺も恋人が欲しい!」
「俺は可愛い嫁がほしいな」
「俺は屈強な男がいいな」
俺はもう『毛玉』どころではなくなった。
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