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四章:進展 アダム視点
39.王への献上
その後、南の街道を進みラムダの街の向こうの森に入った。ロディが『モジャ』を採ってきてみんなに渡している。
「何だこの草」
「これは『モジャ』だ。いい匂いがするんだ」
「おおー、確かにいい匂いだ」
「長年生きてる『毛玉』は匂いに敏感なんだ。だからこの匂いをさせていると近付きやすい」
「そんな秘密を俺たちに教えていいのか?」
そうだよな。狩りのコツやテクニックは人に明かさず独り占めする奴が多い。ロディには独り占めするという発想がないのかもしれない。
「アダムの領地の兵や冒険者の間で流行ってるし、領地のみんなは知ってる。それにみんなはここの狩場を教えてくれたから」
「ローデリック様はいい奴だな」
「俺のことはロディでいい」
ロディはここでも人気者になった。ロディの見た目はイケメンなんだが、それ以上に中身がイケメンだ。そして可愛い。
たまに誰かに取られそうで不安になる。
「僕が索敵する。うーん、このまま南西に進むといるぞ」
僕も役に立つってところを見せたいと思って、索敵を申し出た。
「おー! さすが『破壊神』あ、すまんその名は嫌いなんだったな」
「別にいいよ。君らは差別というか蔑んだ意味で使ってない気がする」
「しかしな、ロディに怒られる」
「『破壊神』はダメだ。アダムが嫌な記憶を思い出す。今日のアダムはモコモコで可愛いから『モコ丸』でどうだ?」
は? ロディは何を言ってる? それはさすがに無いだろ。
しかし冒険者の間で「『モコ丸』いいな」「アダム様は可愛いから有りだな」となり、僕の意思は関係なく僕は『モコ丸』と呼ばれることになった。なんで? ねえなんで?
いつも寡黙なトミーと、いつも眉間に皺を寄せて厳しい顔をしているフライツが必死に笑いを堪えているの、僕は見たからね。
「一体はロディが王様に献上するんだろ? それなら一番でかいやつがいいよな。これか? 他はみんなで山分けでいいのか?」
「もちろんいいよ」
「しっかし、これを王都まで持ち帰んのは大変だな」
「それなら僕が空に浮かせていくから、みんなが大変な思いをすることはない」
「おおー、さすが『モコ丸』だな」
締まらない名前をつけられたものだ……
僕はふわっと、倒した『毛玉』四体を空に浮かせてみせた。
「アダム格好いい。好き」
そんなロディの呟きが聞こえきたが、僕は聞かなかったフリをして、王都への道を歩いた。
ギルドで冒険者たちと別れて、僕とロディと護衛二人と共に王城へ向かう。
突然の訪問なんだから入れてはくれないだろう。王への献上品として、門番に渡せばいいか。
「ロータス辺境伯様でございますね。どうぞ」
え? 入れてくれるの? 約束とかしてないよ?
しかし、怯えた様子の門番たちに、察しがついてしまった。断れば城を爆破されるとでも思ったんだろう。
「アダム、入れてもらえてよかったね」
「そうだな」
ロディは嬉しそうにしているが、僕はちょっと困っている。今日の僕は『モコ丸』と呼ばれるような、寒い日に森へ行くモコモコの格好なんだ。
こんな格好で陛下に会うことはできない。約束がないのに謁見などできるわけないから、その心配は無いんだが、城にこの格好で入ること自体、ちょっと抵抗がある。
適当な代理の者に献上したらすぐに帰ろう。うん、それがいい。
そう思っていたのに、目の前には陛下がいる。今日はネーベルとかいう神様はいない。
「アダムヘルム、なかなか可愛らしい格好をしているな」
「申し訳ありません。約束もしておりませんし、門番にでも渡して帰るつもりだったのですが、中にどうぞと言われて、ここまで来てしまいました」
「陛下もアダムは可愛いと思うんですね。私も今日のアダムはとても可愛いと思っています。いつも可愛いですが、今日も可愛い」
ロディ、陛下は決して褒めたわけじゃないんだぞ。むしろ咎めたんだ。
「ははは、アダムヘルムは愛されているようでよかったな」
陛下の空笑いがちょっと怖い。なぜ突然の訪問なのに会う気になったのか、何か企んでいるのか? 勝手に事件のことを調べたりしていないか確認するためか?
僕は腹の探り合いというのは苦手なんだ。
「私とアダムを結んでくれたお礼に『毛玉』を狩ってきたので、是非お召し上がりください。美味しいんです」
ロディは堂々と陛下の前でもキングファングボアを『毛玉』と言った。いつも姿勢を正して、置物のように立っている周りの近衛騎士たちも、『毛玉?』とちょっとざわついた。
「あと、これは『モジャ』です。いい匂いがするのでおまけです」
いつも顔色一つ変えずに、薄っすら笑みを浮かべ、遠回しに厳しいことを言う陛下も、ロディの扱いには困っているようだ。
眉がヘニョっとなっている陛下を見たのは初めてで、ちょっと面白い。
高級な魔物の肉を献上されたのはまぁいいとして、『モジャ』と呼ばれる謎の草をもらった陛下はどうするんだろう? と静かに観察していると、『モジャ』を手に取り、「いい匂い。確かにな」と冷静なフリをして言った。
ヤバイ。ちょっと面白すぎて、笑いが込み上げてきた。眉毛ヘニョからのポーカーフェイスと、『モジャ』の香りの感想。
ロディはいつも僕を楽しい気分にさせてくれる。
でもここで笑ってはいけない。
しかし、その微妙な空気を破ったのは陛下だった。
「くっ、もうダメだ。おかしくて、これは笑わずにいられない。ははははは。草など初めてもらったぞ。『モジャ』だと? 何だそれは。ローデリックは笑いの才能に溢れている。はははは」
みんなも釣られて笑い出し、部屋の中は和やかな空気になった。
一通り笑ったら、先日のロディの懐に火が出る魔道具を入れられた件の話が少しあった。
やはりクルートは何も知らされていなかったようだ。今はこのまま事件のことには触れずに過ごしてほしいとのことだった。
クルートは家に戻してもいいんだが、失敗して捕まったのだから家に帰すのは危険ということで、様子を見るためにも、しばらく城で預かっているのだとか。
家が危険か……
調査に回していたクルートからもらった酒だが、そちらは特に問題はなかった。
相手も少々脅しはするものの、殺してやろうという気はないらしい。
だから様子見か。
陛下が僕たちを通したのは、この報告のためでもあったのか。やっと納得できてホッとした。
屋敷に帰ると、ちょっと疲れが出た。こんなに歩いたのは久々で足が……
「アダム、陛下喜んでくれてよかったね」
「そうだな」
そんなことを話しながら、筋肉痛になった僕の体をロディが丁寧にマッサージしてくれている。
爆笑する陛下など初めて見た。ロディは人の心を開く才能があるのかもしれない。
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