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六章:開放 アダム視点
48.封印されたもの
「ではまずペンダントに使うためアダムヘルム様の魔力を確認してもよろしいですか?」
「いいぞ」
魔力を確認する器具を当てられた時にこめかみにズキリと痛みが走った。そういえば王都でもそんなことがあった。
「ん?」
「なんだ?」
「何か魔術が引っかかるんですが、何か常時発動していますか?」
「は?」
常時発動? そんなものは無い。今は魔術を使っていないし、さっきの頭痛と関係あるのか?
分からないが、魔力が関係する病気という可能性があるため、一度魔力検査機関に行ってみようと思う。
問題はあったが、魔力は確認できたため、魔道具は予定通り作ってもらえることになった。
「指輪、綺麗だ。アダムありがとう。夜会ではこんな指輪をしている人がたくさんいた。もっと石が大きいのをたくさんしている人がいたが、あんなにたくさんつけて邪魔じゃないんだろうか?」
「貴族はみんな見栄っ張りだからな。家に帰ったらみんな外すんだ」
ロディは出来上がった指輪を喜んでくれた。
「ほら、僕もお揃いだ」
「本当だ! アダムとお揃いなんて嬉しい。俺もアダムに受け取ってもらいたいものがあるんだ」
「ん? 何?」
「これ」
ロディが僕の前に出したのは、短剣だった。
僕は武器を使った戦いってのはしないんだけど、ロディがくれるものなら貰っておくか。
「ここに、ロディと俺の名前を彫ってもらった。実はお揃いで、持つところに埋め込まれている石は、俺の目の色とアダムの目の色にした」
「この短剣、わざわざ作ってくれたの?」
鞘から引き抜いてみると、二人の名前とロイター家の家紋が彫られていた。裏には、『永遠の愛を誓う』と彫られていて、心の中がじんわりと温かくなった。いつの間に……
「冒険者のメリコから彼女とお揃いの短剣を持っていると聞いて、俺もアダムとお揃いのものを作りたいと思ったんだ」
「ありがとう。嬉しいよ。大切にする」
買いたいものがあるから冒険者をして自分で稼ぎたいと言ったのは、まさかこの短剣を作るためだったのか?
そう思ったら、どうしようもなくロディが愛しくて、我慢できなくなった。
「ロディ、キスしたい。今すぐ」
「いいよ。俺もしたいと思ってた」
抱きしめられて、触れた唇。ぬるりと潜り込んでくる舌も吐息も甘くて熱かった。
ロディ、僕は本当に神に感謝してるよ。嫌なことも苦しいこともあったけど、こんな幸せが待っているなら全部帳消しだ。
自分が誰かをこんなに好きになれるなんて知らなかった。誰かにこんなに愛してもらえる未来が来るなんて思ってなかった。
こんなに幸せにしてもらったんだ。僕も苦しい過去を背負っているロディを大切に慈しんでいこう。
「ロディ、僕はちょっと出かける。気になる頭痛があるから、魔力検査機関に行ってくる」
「大丈夫か? 頭痛というのは治癒師に治してもらうものじゃないんだな」
「魔道具工房でも魔力が少し変だと言われたから、魔力を検査してもらうんだ」
「心配だから俺も付いていきたい」
まぁいいか、大病かは分からないが、もし大変な病気だとしたら、夫であるロディにも聞いてもらわなければならない。
僕はロディを連れて、魔力検査機関に行くことにした。
普通はそんなところにはあまり行かない。
主に魔道具の検査のための機関だからだ。魔道具工房の人であればよく出入りするが、普通に暮らしていたら行くことはほとんど無い。
今まで普通に魔術を使えていたのに、急に使えなくなったとか、どのような魔術が向いているのか詳細を確認したいとかで行く人がたまにいるくらいだ。
今回は自分でも今まで気づかなかったってところが引っかかっているから、専門機関に行くことにした。
少し不安はある。せっかくロディと幸せに暮らしているのに、いきなり大病が見つかったりしたらショックだ。
少し緊張しながら、馬車に揺られて隣街へ向かった。
「アダム、俺がついている」
ロディは僕が緊張していることに気づいたのか、そっと手を握ってくれた。ロディはやっぱり優しくて、イケメンだ。
そしてロディの少し膨らんだ胸ポケットからは、チラッと『モジャ』が覗いている。ロディらしくてホッとした。
検査結果は意外なものだった。
「ロイター辺境伯、記憶におかしい点はありませんか?」
「記憶?」
まさか、記憶が抜け落ちていく病気か?
「一部の記憶が凍結というか封印されているような状態です」
「ん? 病気とは違うのか?」
凍結? 封印? どういうことだ?
「病気ではありませんね。無理やり封印されたのか、ご自身で思い出したくないと凍結されたのか、どちらかではないかと」
「……」
記憶……
抜け落ちた記憶、一つ思い当たるのは、事件の前後の記憶だ。
混乱していたのだから記憶が曖昧なのだと自分では思っていた。しかし陛下から裏があると言われ、更にクルートを使ってロディが狙われたりした。そうなってくると、暴発して吹っ飛んでしばらく意識がない間に、知られたくない記憶を封印されたとしてもおかしくはない。
もし誰かに封印されたのだとしたら、それしか思い当たらないし、自分で凍結するなら事件のことだと思った。
「ここでは状態の検査はできますが、魔術を解いたり治療したりはできません」
「それは分かっている。大丈夫だ。教えてくれて助かった。感謝する」
「いいえ、こちらは仕事をしただけですから」
そうだったのか……
今までなんの疑問も持たず、いや、肝心な部分が封印されたせいで疑問を持てなかったのか?
あの事件以降、心を閉ざし、人を遠ざけてきた。
封印魔術の解除か。どれほどの内容が封印されているのか、ショックな内容かもしれない。とりあえず屋敷に戻り、ロディに側にいてもらって、ゆったりした気持ちで解除しよう。解除ならそう難しくないはずだ。
「アダムが病気じゃなくてよかった」
帰りの馬車で、ロディがギュッと手を握ってくれた。ロディも心配してくれていたんだな。
「アダム、俺はここにいるから。リラックスできるように『ポコポコ』もここに持ってきた」
「あ、うん。ありがとう」
王都の屋敷から持ってきたんだろうか? いい香りの花『ポコポコ』の出現に一気に緊張が霧散した。なんかありがとう『ポコポコ』。それといつでもイケメンの僕のお婿さん。
集中して体の中を探っていく。確かに魔術をかけた跡がある。雑だな。だから綻んで今回発覚したのかもしれない。僕ならもっと上手くかけられるぞ。と術者に心の中でダメ出しをしながら、慎重に魔術を解いていった。
僕の手にかかればこんなもんさ。たいして時間もかからず、すぐに魔術は解けた。
あとは記憶を思い出すだけだ。
「アダム。おいで」
ヒョイッと抱っこされて、膝の上に対面で乗せられると、抱きしめて背中をトントンされた。
なんで僕の記憶の封印が解けたタイミングが分かったんだ?
恐る恐る、記憶の糸を手繰り寄せていく……
あの時の記憶を思い出すのは、今でもちょっと苦しい。あの事件で僕は全てを失ったから。
静かに目を閉じる。
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