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八章:決着 アダム視点
56.意外な来訪者
それは母上と本当に久しぶりに会って兵舎が七棟の違和感が解決し、件の犯罪者を母上に引き渡してしばらく経った頃だった。
「アダムヘルム様、お約束はないそうですが、お客様がお見えです」
「僕に客? 誰だ?」
セドリックが僕の部屋を訪れて、部屋を二歩入ったところで報告をした。
また一歩近付いている。彼も手探りなのかもしれない。僕もまだロディ以外が近付いてくると少し緊張してしまう。
話をする時や何かを渡してくる時は近づいてくるんだけど、報告はまだ距離感を迷っているようだ。
「クルート・シュリンゲと名乗るお方です」
「クルート? わざわざうちに何をしにきたんだ? 要件は聞いているか?」
「いえ、とにかく会いたいと申されております」
クルートといえば最後に会ったのは、ロディに魔道具で怪我を負わせようとして捕えられた時だ。その後は王城で保護されていると聞いていたが、また捨て駒として送り込まれたんだろうか?
帝国には行った。しかしロディを攫った奴らの顛末を聞くためだ。
母上にも会った。それは結婚の報告と挨拶だ。
よし、何もおかしいことはない。どちらも本当のことだ。少し他にも雑談をしたが、そんなことまで話す必要はない。
部屋を出るとちょうどロディが戻ってくるところで、クルートが来ていることを伝えると「心配だから一緒に行く」と言った。
ペンダントを着けてもらい、ロディと手を繋いで向かう。
ロディに危険がないかは心配だが、これでよかった。記憶の封印を解いてから、事件に関することに触れるのが少し怖い。恐怖を感じるのではなく、怒りや憤りが抑えられなくなってしまうのではないかと不安なんだ。
せっかくあの事件は僕のせいじゃないと分かったのに、怒りが爆発して本物の『破壊神』になってしまうのが怖かった。
ロディの温かい手に触れていると、そんなことは杞憂だと分かる。
僕の心を落ち着けてくれるロディは、本当に僕になくてはならない存在だ。そんな思いも込めて、繋いだ手に少し力を込めた。そうしたら、ロディが俺に向かってまた不意打ちのイケメンスマイルを投下した。
う、眩しい……
「クルート、ようこそロイター領へ。それでこんな遠くまでどうした?」
「どうか、破壊してほしい」
「は? 何をだ?」
クルートは何を言っているのか。前に会った時に比べ、ずいぶん窶れている。服装に拘る男だった気がするが、何ともくたびれた服を着ているのも気になった。髪もパサついて、目に力がない。
王都の屋敷を訪れた時は僕のことを怖がり、僕からできる限り距離をとって部屋の端の床に座っていたのに、今は普通にソファに座っており、僕が向かいに座ってもそのまま逃げたりはしなかった。
「私を魔術で破壊してほしい。私は閣下の旦那様に危害を加えようとしたんだからどうぞ」
何を言っている? 一体何が目的だ?
一つ分かることは、クルートは僕が学園の建物だけでなく、気に入らない者を殺したという噂を信じているようだということ。
僕は人を殺したことはない。戦争でもできるだけ殺さないようにしている。僕の魔術による怪我が原因で死亡した者はいるかもしれないが、そこまでは分からない。
「クルート殿、何があったんですか?」
ロディはクルートに一度危ない目に遭わされているというのに、そんなことはなかったかのようにクルートに優しい声で質問した。
「ううっ……もう、どこにも行くところがない」
クルートはなぜか泣き始めた。もしかしたら捕まったことで親から切られたりしたんだろうか? クルートは三男だ。後継の長男とスペアの次男がいれば、失敗するような奴はもう用済みということか?
それとも、あの後にも何か失敗したとか、今のも演技で僕たちから情報を引き出すつもりなのか。
ロディがちょっと部屋に行ってくると出ていった。そして戻ってくると、ハンカチに包んだ『ポコポコ』をクルートに渡した。
「これは『ポコポコ』です。いい匂いがして、心が落ち着くからあげます」
ロディは優しいな。
クルートはロディが差し出したハンカチをギュッと握りしめて、そっと顔に近づけた。
「いい匂い。ありがとう」
本当に少し落ち着いたようだ。『ポコポコ』お前、実はすごいんだな。その間に僕は紅茶を淹れてテーブルに並べた。
「アダムが淹れる紅茶は世界一美味しい」
ロディが喜んで飲んでいる。初めの頃と比べると随分と所作も美しくなったものだ。
さっきまで泣いていたクルートが、紅茶を飲むロディの姿に釘付けになるくらい美しい。
クルートの話では、あの時に捕まったことで咎められ、長兄にやれと言われたことなのにクルートが独断でやったことにされ、「余計なことをした」と家を追い出されたそうだ。
王城から王都の邸宅に帰されたその日に、着の身着のままで追い出され、着けていた宝飾品を売ってここまできたそうだ。僕なら苦しまずに殺してくれると思って……
「……許せない」
ロディが呟いた。
利用するだけ利用して追い出されるのは可哀想だ。しかし他家の問題に僕が口を出すわけにはいかないんだ。派閥も違うし、僕はまだ社交界では『破壊神』と呼ばれる身だ。
「なんでそんなことが言えるんだ! アダムは優しいんだ! 学園の建物が破壊された時だって誰も巻き込んでない。アダムは誰も殺したりしない。なんでそんな酷いことが言えるんだ。
王都では謝ってきたじゃないか。恐れていてごめんって言ったのに!」
ロディが怒ったのはクルートの置かれた状況を哀れんだわけではなかった。僕のことか。
僕はあんな謝罪、嘘だって知ってたけど、ロディにとっては嘘をつかれたと思ったんだろう。
クルートも呆気に取られている。まさかこんなに悲劇的状況なのに怒られるとは思っていなかったんだろう。
「ロディ、落ち着いて」
「なんで、なんで? アダムはこんなに優しくて可愛くて格好よくて強いのに、酷い……」
ロディが僕のこと好きなのは分かってるから、もう怒らなくていいよ。僕は気にしてない。
「ご、ごめんなさい。そういえば、『破壊神』という名を広めろとか、人を爆破したと噂を流すよう言われたんだ。あれは嘘だったのか……」
クルートが小さな声でそう言った。やはり噂を流した奴がいたんだな。それを手引きした奴も。
「僕はまだクルートのこと完全に信じてるわけじゃない。一度は僕の夫を危険な目に遭わせたし。だけど行くところがないなら仕事が見つかるまで兵舎にいてもいい」
自分でもそんなことを言っていることに驚いた。
たぶん、同じ敵にいいように利用されたクルートが当時の自分と重なってしまったんだ。
一人は寂しい。誰にも頼れないし相談もできないのは辛い。
でもロディには近づけたくなかったから、兵舎を提案した。
トミーとアストロにクルートを兵舎に連れていってもらった。おかしな行動をするようなら拘束しても構わないとは伝えている。
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校正・文体の調整に生成AIを利用しています。