【完結】破壊神のお婿さんはイケメンらしい

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八章:決着 アダム視点

59.トミーとクルートの帰還

 

『毛玉』狩り大会が終わり、ロディとカミーユとランスは残念ながら優勝はできなかった。三位だ。素晴らしい結果だったが、ロディは残念そうにしていた。
 そんな日もある。

 また今度、雪が降る前に僕が索敵をしながらロディと一緒に狩りに行こう。

 トミーとクルートが出立してから一ヶ月、『毛玉』狩り大会が終わって更に半月ほど経つとようやく二人は帰ってきた。
 思ったより時間がかかっていたから心配していたんだが、二人の表情を見る限り悪い知らせはなさそうだ。

「アダムヘルム様、ただいま戻りました」
「おかえり。いい知らせがあるようだな。もしかしてもう籍を入れてきたか?」
「いや、まだだ。アダムヘルム様に保証人になってもらいたいと思っている」
「うん、いいよ」
 トミーはいつもと変わらない表情に見えたが、僅かに頬が持ち上がった気がする。クルートは満遍の笑みだ。

「アダムヘルム様、報告ですが、私の籍はもうシュリンゲ子爵家にはありませんでした。これほどまでに簡単に切り捨てられると、もう清々しい」
 クルートは何も気にしていないように、はははと笑った。
「クルート……無理して笑わなくていい」
 あの寡黙なトミーが大きな手で、クルートが握りしめている拳を包み込んだ。

 貴族の親とは息子をこんなに簡単に切り捨てるものなんだな……
 無理して笑う、か……
 クルートも僕のことを誤解していたけど、僕もまたクルートのことを誤解している部分があるのかもしれないと思った。

「クルート、これからどうする? うちの兵士か、ロイター家で働くか?
 ロディの先生でもいいし、僕の補佐やセドリックの補佐でもいい。うちで働かなくても何かやりたいことがあるなら言ってくれれば力になれることがあるかもしれない」
「アダムヘルム様、私は本当に誤解していた。学園では酷いことをしたのに、許してくれるのか?」
 事件に直接関わっていないクルートを恨む気持ちは特にない。そう思えるのはロディが隣にいてくれるからだろうか?

 ロディの懐に危険な魔道具を入れたのも、クルートは詳細を知らされていなかった。恨むべき対象はクルートではない。

「許すも何も、僕はクルートを恨んではいない。これからのことは急いで決めなくてもいい。トミーと相談して決めてくれ」
「ありがとう」
 クルートも僕と同じで巻き込まれた被害者だ。彼にも僕のように幸せになってもらいたい。

「それと実家に行ってきました。残っていれば荷物を引き取りたいと思って」
「そうなのか。それで帰りが遅かったんだな」
 籍を抜いた息子の私物を取っておいたりするんだろうか? 見栄もあるから捨てるに捨てられないということもあるかもしれない。
 それでそんな報告を僕に伝えたのは、帰ってくるのが遅くなった説明ということだろうか?

「もうほとんど残っていなかった。家具や服はたぶん燃やしたんだろう。愛用していた剣と、これを引き上げてきた」
 クルートが布で包まれた物を鞄から取り出した。包んでいた布を開いていくと、そこには端が焼け焦げた本が出てきた。

「それは?」
「たぶん役に立つと思う」
「その焦げた本がか?」
 珍しい魔術書だったりするんだろうか? だとしたらそんな本をよく持ち出すことができたな。

「六年前の夏、エリス先生が辞める直前に渡してきた本だ」
「なに? ちょっと見てもいいか?」
「構わない。アダムヘルム様に渡そうと思って持ってきたんだ」

 エリスは何かあった時に使おうと本を回収していたということか。自分で持っているのは危険だと判断してクルートに預けた。
 クルートは事件のことを何も知らされていない上に、事件の関係者の家族で、疑われることがない安全な場所だと思った。そういうことか。

「この本の存在は誰も知らないのか?」
「私とエリス先生以外は知らないと思う」
「クルート、ありがとう」
 僕はその本を受け取った。
 緊張で少し手に汗が滲んだ。この表紙の模様は見覚えがある。まだ封印が解けて間もない僕の記憶も、この本が本物であると告げていた。

「では私たちはこれで」
「失礼します」
 トミーとクルートは手を繋いだまま部屋を退室していった。

「アダム、おいで」
 ロディが優しい顔で両手を広げている。
 心臓がドクドクと嫌な音を立てていた。あの日の記憶と結びついて、本を開くのが怖かった。ロディ、何で分かったんだ?
 僕は本を机に置くと、ロディの腕の中に収まった。

 ふぅ~、僕は息をするのを忘れてたようだ。イケメンの香りがして、温かくて安心する。適度な締め付けがとても心地いい。背中に手を回して、ロディの香りを胸いっぱい吸い込んだ。
 僕はロディに抱きしめてもらってようやく落ち着いた。

 落ち着いた僕は、ソファに移動してロディの膝の上で端が焦げた魔術書を開いた。
 あぁ、懐かしい。
 ペラペラとページを捲っていくと、ドクンと大きく心臓が跳ねた。それでも取り乱したりしなかったのは、背中にロディの温かさを感じていて、お腹に回された腕が力強く僕を支えてくれているからだ。

 当時の僕はまだ未熟で、頭の中で数式を順番に組み立てるようにして魔術を使っていた。今はそんなの一瞬で組み上がるんだけど、その重ねていく数式の部分に間違いがあった。
 今なら分かる。外から魔力を供給し、威力を爆発的に上げる式が組み込まれていた。学生では読み解けないよう、一般的な初歩の式に似せて作られている。

 ここにマクベリス・ビュットナーが魔力を注ぎ込んだんだろう。
 僕はこの本と共に、どのページの魔術が事件で使われたのかを手紙に書いて母上に送ることにした。
 僕は下手に動かない方がいい。下手に動いてロディが狙われるようなことがあってはいけないからだ。

 このこととは別に、僕はトミーとクルートが戻ってきてから違和感を感じていた。
 二人が何かを隠しているとか、怪しいと思っているわけではない。
 シュリンゲ子爵家はいとも簡単にクルートを除籍した。悪事を働く奴らなら、例え息子でも用無しとなればそんなもんだろう。

 じゃあロディは? 森の家に閉じ込められ、街で見つかってからは牢に入れられていた。それだけ虐げていた息子だ。
 学園へも通わせず教育も受けさせず、社交界デビューもさせない。いないものとして扱っているように見えるのに、なぜロディはハーマイン伯爵家から籍を抜かれていなかったのか。

 容姿がいいからか? 他家と縁を結ぶために使うのであれば、教育を施して婿入りの準備を進めるはずだ。
 なぜだ? なぜ『石男』はロディの籍をそのままにしていたんだ? 分からない。

「アダム、難しい顔をしてどうした? キスしたいか?」
「あ、うん」
 急にそんなことを言うから、どう返事していいのか分からなくなる。悪戯っぽい目で僕のことを見て、また僕のこと試してるの?

「ふふふ、俺が大好きなアダムとキスしたかっただけ。キスしていい?」
「うん」
 意地悪かと思ったら違った。ロディがまた砂糖をぶちまけてくる。また僕は甘い罠に嵌ってしまった。

『石男』のことはいいや。おかげでロディと結婚できたんだから。



 
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