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九章:未来 ロディ視点
69.父と父
「ロディ、眉毛のおじいちゃん先生に僕も会ってみたい」
「分かった『石の父』に頼んでみる」
「ありがとう」
アダムにはよく眉毛のおじいちゃん先生の話をしているから、会ってみたいのかもしれない。あの先生は怒ることなくとても優しい先生だ。他の先生はちょっと怖いからアダムに会わせたくない。嫌な思いをするかもしれないからだ。
俺たちは一旦家に戻り、『毛玉』をアダムに捌いてもらうと、肉の塊にしてからハーマインの家に持って行くことになった。
アダムが魔術で『毛玉』を捌く姿は本当に格好いい。見惚れてしまうくらいサササッと早いんだ。
肉の塊になってしまうと『毛玉』だと分からない。何かの肉であることは分かるが、肉ということしか分からなかった。
角や牙も彫刻の材料として使えると聞いた。これも一本持っていこう。
「アダム、この角を『石の父』にあげてもいいか?」
「いいよ。喜ぶかは分からないけど」
「ありがとう。アダム、好きだ」
「あ、うん。僕もだよ」
モコモコのアダムが振り向いた姿が可愛くて、ギュッと抱きしめた。
『石の父』に持っていく時は馬車で行くことになった。それほど離れていないんだから歩いていけばいいと思ったんだが、貴族は近い距離でも馬車で行くのが普通なのだと教えてもらった。
面倒な習慣だ。
馬車に乗ってハーマイン家に行くと、『石の父』が迎えてくれた。
「ローデリック、おかえり」
「ただい、ま?」
ここは俺の家だと言われて、帰った時は「ただいま」と言うようにと言われたんだが、俺の家には思えず未だに違和感があって上手く言えない。
応接室に案内されると、ソファにアダムと並んで座った。
「カルロス殿、ロイター辺境伯、ようこそお越し下さいました」
『石の父』はにこやかな顔で挨拶をした。
「いや、堅苦しい挨拶は無しで。我らは親戚なんだ。今日は『毛玉』狩りに行ったんだ。それでローデリックくんが狩ったものを半分持ってきた」
「ん? 『毛玉?』」
「あぁ、『毛玉』は愛称のようなもので正式な名前はキングファングボアだ。高級肉だろ?」
「ほう、それは嬉しい」
よかった。『石の父』は喜んでくれたみたいだ。
「『石の父上』、俺一人じゃなくみんなで狩ったんだ。それとこれももらってほしい」
『モジャ』と『毛玉』の角を渡した。
「……草? これはキングファングボアの角か? ありがとうロディ。それでこの草はなんだ?」
さっき肉を受け取った時とは違い、なんだか悩んでいるような表情をしている。気に入らなかったんだろうか?
「この草は『モジャ』だ。いい匂いがするんだ。角は使い道は彫刻をすると聞いているが、好きに使ってくれて構わない」
「いい匂い? ふむ、そうだな」
『石の父』は『モジャ』の匂いを嗅いでいる。
「私もローデリックくんからその草を渡された時は戸惑ったよ。草をもらうなんて初めてだからな。それは『毛玉』を狩る時に役に立つんだが、いい香りがするから伯爵にあげたかったんだろう」
困った様子の『石の父』に『モコの父』が説明している。
「そういえば陛下も『草をもらうのは初めて』と言っていた」
「は!? ロディ! お前はこんなものを陛下に献上したのか!?」
大きな声で『石の父』が立ち上がって言うと、罵倒されたことを思い出し、体が固まったように動かなくなった。怖い……怒られるのか? また魔術を当てられるのか?
震えそうになる手に力を込めると、アダムが俺の手を包み込むように握ってくれた。
「去年、陛下に『毛玉』を献上しました。その時に一緒に『モジャ』を渡したんですが、陛下は楽しそうに声を上げて笑っておられました。ロディに他意はなく、純粋に喜んでもらおうと思っているからだ。怒られる謂れはない」
「すまない……」
アダムが俺を庇うようにそう言ってくれて、『石の父』から出る怖い空気は引いていったが、まだ心臓がドキドキしている。
「伯爵、心配することはない。陛下はローデリックくんのことがお気に入りらしいからな。この前も『あの子が家にいると楽しいだろうな』なんて言っていましたよ」
「そうなのか。私は反省することばかりだ」
テーブルの上に置かれた『モジャ』。きっと『石の父』は嫌いなんだろう。もしかしたら嫌な思い出があるのかもしれない。
「嫌いなものを持ってきてごめんなさい」
俺はテーブルの上の『モジャ』を家に持って帰ろうと思って手を伸ばした。
「いや、いただくよ。せっかく私のために持ってきてくれたんだろ?」
「そうですが、嫌なものをあげたくはありません」
そう言ってみたものの、俺はどうだろう? 苦手なものを誰かからもらったらどうするんだろう? 俺の苦手なものは、大きな声くらいで、そんなのをくれる人はいないから分からなかった。
「嫌じゃない。すまなかったローデリック。ありがとう、嬉しいよ」
嬉しいと言ったのは本当か分からないが、貰ってくれることになった。俺はやっぱり『石の父』の考えがよく分からない。
「そうだ『石の父上』、眉毛のおじいちゃん先生をアダムに紹介してもいいか?」
「さっきは草をもらった衝撃で聞き流してしまったが『石の父』は私のことだよな? オスクルムならいるから呼んでこよう」
眉毛のおじいちゃん先生はオスクルムという名前だったのか。たぶん教えてもらったと思うんだが、あの頃は色々な先生を紹介されて名前を覚えることができなかった。
「父上が二人になったから区別するために『石の父』と『モコの父』と呼ぶことにしたんだ」
「『石の父』は私が石が好きだからか? モコというのはなんだ?」
「アダムが冒険者ギルドで『モコ神』と呼ばれているからその父という意味だ」
俺が説明すると、『石の父』は『モコの父』をじっと見た。
「『石の父』なんてまだマシだぞ。私なんか初めは『張り裂けそうな父』にされそうになったんだからな」
「ふっくくく……いや、すまない、ピッタリじゃないか」
『石の父』は笑いが堪えきれず手で口を押さえて笑っている。やっぱりピッタリだと思うんだな、それは俺が『石の父』と血が繋がっているからかもしれない。
「ちなみにローデリックくんが考えた。ローデリックくんが家にいると楽しいぞ」
「そのようだ」
『石の父』と『モコの父』は仲良しみたいだ。
「また二人で遊びにきなさい。オスクルムは明日か明後日にでもロイター家に向かわせる」
眉毛のおじいちゃん先生は、今は手が離せないということで呼んだけど来なかった。それでうちに来てくれることになったから、俺たち三人は帰った。もうすぐ夕食の時間だ。
今日の夕食は『毛玉』だから楽しみだ。
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