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九章:未来 ロディ視点
71.オレンジジュース
朝、アダムと一緒に食堂に行くと、『モコの父』と母が先に席に座って食事をしていた。
「アダム、見ちゃダメだ」
俺はアダムの目を自分の手で塞いだ。アダムの両親がオレンジジュースを飲んでいたんだ。
アダムは前にオレンジジュースが怖いと言って倒れそうになった。
「なんだ? ロディ、何があった?」
俺は答えていいものか迷った。目の前になければ大丈夫だろうか?
「オレンジジュースがテーブルにあるから、アダムは見ない方がいい」
俺は迷ったがアダムに伝えてみた。アダムは「あぁ」と納得して、どうしようか迷っているようだった。
「あら、アダムもローデリックくんも、そんな入口に立ち尽くして何してるのかしら? 早く席に着いたらどう?」
「そうだぞ。二人とも席につきなさい」
アダムの両親はそう言ったが、アダムがオレンジジュースが怖いことを知らないんだろうか?
「オレンジジュースをしまっていただけますか?」
俺はアダムを守ると決めている。こんな時くらいアダムの頼れる夫になりたい。そんな思いで伝えてみた。
「あら、アダムってばまだオレンジジュースがダメなの? もう怖いことなんてないでしょう?」
アダムの母はそう言いながらメイドにオレンジジュースを片付けさせた。
もしかしたら、アダムの母はアダムがオレンジジュースを苦手になった理由を知っているのかもしれない。
「母上、僕がなぜオレンジジュースがダメになったのか知っているのか?」
「あら? 覚えていないの? 事件の日の朝食の時にオレンジジュースを溢したそうよ。それでオレンジジュースが溢れると怖いと言って震えていたわ。事件は解決したのだし、もう大丈夫だと思ったのだけどそう簡単には解決しないのかしら?」
そうだったのか。アダムがオレンジジュースを怖いと感じたのはそんな理由だったんだ。俺のように繰り返し恐怖に晒された訳ではなかったんだな。
「アダム、味が嫌いでないなら、飲めるようになるといいな」
「うん。ロディはオレンジジュース好き? もし好きなら好きなものを我慢させて悪いと思ったんだけど」
アダムが俺に気を遣ってそんなことを言ってくれた。振り向いて俺を見上げるアダムが可愛い。
「俺は飲んだことがないから分からない」
「え?」
そう答えた俺をアダムは驚いた表情で見ている。オレンジはロータス家に来てから食べた。しかしオレンジジュースを飲む機会はなかった。あの酸味が強いオレンジを絞っただけなら味の想像はつくが、実際に飲んだことがないから分からない。
「じゃあ飲む? 僕も久々に挑戦してみようと思うんだけど。原因が分かった今なら怖くないかもしれない」
「アダムがそう言うなら俺も挑戦してみる」
怖いものにあえて立ち向かう勇気。アダムは可愛いのに格好いい。
俺も大声を聞くと体が動かなくなるのを治したい。
原因は分かっている、それでも怖いと思ってしまう。
席に着くとパンやサラダやスープと共にオレンジジュースが置かれた。
これがオレンジジュースか。隣に座るアダムを見ると、オレンジジュースを凝視している。
そっと手を伸ばしてグラスを掴むと、ゆっくりと口に持っていき、ほんの一口飲んだ。グラスを持つ手は震えてはいない。顔色も血の気が引いたりしていない。何より呼吸が止まっていないことで、アダムは恐怖を克服したのだと分かった。
「アダム、美味しい?」
「え? うん」
「アダムは勝った。よかったな」
自分のことよりも嬉しい。これでアダムはいつでもオレンジジュースを飲めるし、恐怖することもない。
「ろ、ロディ、眩しい……」
なぜかアダムが顔を赤くしてそんなことを言った。目を細めているせいで半分隠れた紫の瞳が、ゆらゆらと揺れて目を逸らされてしまった。
「ん? カーテンを閉めてもらうか?」
「いや、ロディの笑顔が眩しすぎるんだ」
「俺は光の魔術など使えない」
「そうじゃなくて……ロディはイケメンなんだからそろそろ自覚してくれ」
分からない。俺はまだ自覚が足りないらしい。光を発しているのとは違うんだろうか?
俺は魔力が少なく魔術がほとんど使えない。そして剣も兵のみんなより下手で弱い。ようやく文字の読み書きはできるようになって、食事もちゃんと食べられるようになったが、他にまだ自覚できていない弱点があるようだ。
イケメン。それは格好いい男のことだと聞いたが、もしかしたらそれは弱点なのかもしれない。見た目を変えることは難しいが、何か対策できることがあるかもしれない。頑張ってみようと思う。
俺はアストロとフライツに聞いてみた。
「アダムに笑顔が眩しいと言われた。何か対策できないか?」
「はい? 笑顔が眩しい? それは自慢ですか? 顔を隠すしかないと思いますよ」
フライツには素っ気なく言われた。アストロもそう思うのか? アストロを見てみると考え込んでいた。
「仮面をつけるか、ローブのフードで顔を隠すか、そんな方法しか思いつかない。メイドに顔が変わるほど化粧をしてもらうのはどうだ?」
「聞いてみる!」
化粧か。それは想像していなかった。俺はメイドの控え室に走った。
「誰でもいい、俺の顔が変わる感じで化粧をしてくれ。イケメンと言われないような化粧で頼む」
メイドたちは顔を見合わせていたが、協力してくれることになった。
「どこがいけないんだと思う?」
「いけないところなどありません」
「どこがイケメンだと思う?」
「全部でしょうか」
全部……俺はその言葉に希望を失いかけた。
もっと道化のような感じがいいのでは? それならアダムを笑顔にできるかもしれない。
そして俺の顔は道化に仕上がった。メイドたちには困った顔をされたが、俺としては元の顔が分からないほどに変化したから満足だ。
「アダム!」
「ひっ! だ、誰だ?」
「ローデリックだ」
「何してんの? なんでそんな化粧してるんだ?」
結果、俺はアダムを怯えさせただけで笑顔にはできなかった。
「ロディ、そんなことしなくてもロディはそのままがいいよ」
「そうなのか? アダムが目を逸らしたら寂しい」
「うん、ごめん。ちゃんと見るからその化粧、落としていい? 僕ロディの普段の顔が好き」
「いいよ。アダムが喜んでくれる方がいい」
化粧をする作戦は失敗に終わった。でも、アダムが俺の顔を好きだと言ってくれたからいいんだ。
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