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十章:結び
75.結婚式
「ロディ、ちょっと気になる手紙が届いた」
僕は手紙の差出人を見て警戒しながらロディを呼んだ。
差出人の名前はロビン・エリスレーベン。恐らくエリス先生の身内だろう。なぜそんな人から僕に宛てて手紙が届くのかが分からない。
「アダム、お待たせ」
僕の表情が硬いことに気づいたロディが、僕を抱きしめてソファに座った。
「向き合っていたらロディが読めないだろ?」
「そうか。じゃあアダムは前を向く?」
「隣に座る」
そう僕が言うと少し残念そうに隣に僕を座らせてくれた。でもちゃっかり肩を抱いている。
「それで誰からの手紙?」
「ロビン・エリスレーベン。あの事件で帝国に送られたソフィー・エリスレーベンの関係者だと思う」
「そうか。とにかく読んでみよう」
緊張しながら開封し、手紙を取り出す。
『ロイター辺境伯様
突然の手紙に驚いたことでしょう。私はソフィーの弟ロビン・エリスレーベンです。
姉が貴方にしたことは許されることではない。貴方は大怪我を負ったと聞いているし、人生の大事な時期を失うことになった。しかし姉も唯一の肉親である私を助けたい一心だった。私の病を治すため利用されたんだ。
関わった奴らに天罰を下すので、どうか私が姉を攫い遠い異国の地に向かうことを容認してほしい。
ロビン・エリスレーベン』
事件に関わったエアガイツ公爵を含め強制労働施設へ送られた者たちが殺されたという話は聞いている。
犯人はまだ見つかっていないという話だったが、この手紙を読む限り彼がやったんだろう。彼が自ら動いたのか、誰かに依頼したのかは分からないが……
エアガイツの後ろに黒幕がいたとか、色々と言われていたが、まさかエリスの弟か……
容認するかどうかの判断をしろということか。しかし遠い異国の地に行くのであれば追いかけるのは難しい。僕にはわざわざ追いかけて何かをしてやろうという気もない。
結果的に容認するということになるんだろう。僕は僕とロディの幸せが脅かされないのならそれでいい。
「黒幕ってわけじゃないけど、姉を利用し捨てた奴らを許せない弟の気持ちも分かる。シュトラールの貴族たちは見えない黒幕説に戦々恐々として大人しくしているし、黙ったままでいよう。それで僕たちは幸せになろうね」
「そうだな。アダムがそれでいいなら俺もそれがいい。それより、結婚式が楽しみだ」
僕たちは結婚して二年も経って、やっと結婚式をすることになった。
結婚式を数日後に控えた今、こんな手紙が届いたのは過去を清算し未来を向けということだろうか?
領都の教会の予約もちゃんととった。衣装は仕立てたし、ハーマイン家の人たちや僕の父と母も呼んでいる。王都で仲良くなった冒険者たちにも来れるようなら来てくれと言ってある。ロイター領の冒険者たちが魔物を狩ってきてくれると言っていたから、それをメインにしてパーティーの準備も進んでいる。
「アダム、いつも可愛くて格好いいけど、今日は一段と可愛くて格好いい! すごく素敵だ」
「ありがとう。ロディもいつもに増して輝いている。恥ずかしくて直視できないくらい素敵だ」
普段からロディを見慣れている僕ですら直視できないくらいなんだから、参列者の中には目が潰れてしまう人がいるかもしれない。
だが僕は知っている。ロディの胸ポケットには今日も『モジャ』が入っている。ロディも緊張してるんだろうか?
緊張で口数が少なくなった僕たちだったけど、二人で手を繋いでゆっくりと参列者の間を進んでいく。
カーテンの裏でこっそり二人で永遠を誓い合った日が懐かしい。今日はみんなの前で神に誓う日だ。
「アダム、大変だ」
「どうした?」
「神様が来てくれた」
「え!?」
ロディが顔を寄せて満遍の笑みを僕に向けてくるから、息がヒュッとなった。
本物の神様か? 陛下の影のネーベルとかいう男ってことはないよな? あいつがこんな辺境に来るわけない。だとすると、本物の神様?
ロディは神様を肉眼で見たということか?
気もそぞろになりながら祭壇に祈りを捧げると、参列者の方を振り向いた。
「右の最前列」
ロディが耳元で教えてくれた方を見て僕は固まった。そこには陛下とネーベルという男がいたんだ。
なぜこんなところに陛下が? 偽物ってわけじゃないよな? 僕はただ戸惑うことしかできなかった。
疑問しかないまま、僕たちは参列者たちと共に屋敷に向かった。
「神様、俺たちの結婚式に来てくれてありがとう」
ロディは陛下より先にネーベルという男に声をかけた。神様なら陛下より優先するのも当然か。
「ですから私は神様ではありませんよ」
ロディは何度彼が否定しても、頑なに彼が神様だと信じている。ロディ曰く僕との幸せな未来を教えてくれたんだから神様で間違いないとのことだ。
「陛下、参列されるとは知りませんでした」
「そうだろう? 二人を驚かせたくて黙って来たんだ」
こんなところまで時間もかかるだろうに、そんなに王城を開けていてもいいんだろうか? 疑問もあるが、せっかく来てくれたんだから歓迎しないわけにはいかない。
会場を見ると、王都から来てくれた冒険者もかなりいるようだ。今日は大人数が集まると想定して第一訓練場を開放している。庭も開け放って街の屋台も置いて、領民みんながお祭り騒ぎだ。陛下が来るなんて思っていなかったから、兵は置いているが誰でも入れるような状態になっている。
「は?」
「アダム、どうした?」
「ラディウス帝国の『大将』がいる。帝国に行った時にいた眼鏡の男もいる」
そういえば僕はあいつらの名前を知らない。
「俺たちのお祝いに来てくれたのか。嬉しい」
ロディは喜んでいるが、今日は陛下がいるんだからせめて陛下の周りだけでも守りを固めなければならない。面倒なことだ。
すぐに軍団長のアンガスを呼んで陛下の周りに兵を置いた。今日は兵のみんなも私服だが、帯剣しているから兵だとすぐに分かる。
何事もなく時間は過ぎ、陛下はあまり王都を長く開けているわけにはいかないと早々に帰っていった。
「いやぁ、めでたいですな」
帝国の『大将』がエール片手に近づいてきた。もうかなり飲んで酔いが回っているようだ。
「あんた敵だろ」
「祝いの席だ、そんなの今はいいだろ?」
「わざわざ俺たちをお祝いするために来てくれたのか?」
ロディは嬉しそうにしている。僕はちょっと不安でロディの胸元のペンダントを確認した。
「おお~、見目麗しい婿殿は、今日も美しいな。もちろん君たちのお祝いに駆けつけたんだよ」
「そうか。ありがとう」
すると『大将』に付き添っていた眼鏡の男が小声で話しかけてきた。
「すみません。シュトラール帝国から移送されたソフィー・エリスレーベンに逃げられました」
なるほど、それを伝えるために来たのか。僕は知っていたけどね。誰が逃したのかも知ってる。言わないけど。
「そうか。今後彼女がシュトラールに立ち入ることはないだろう。僕たちの前に姿を見せないならもういい」
「そうですか。あなたにはそれだけ伝えたかったんです」
そう言うと、眼鏡の男は酔っ払った『大将』を引きずりながら帰っていった。
みんな酔っ払って、主役の僕たちそっちのけで盛り上がっている。
「そろそろ屋敷に戻ろう。疲れただろ?」
「そうだな。可愛いアダムと早くキスしたい」
「うん」
不意打ちでそんなことを言われるのはやっぱり慣れない。
もしかして結婚式をした今日は初夜ってやつ? いや、今更か。
「俺が受け入れるか?」
ロディが唐突にそんなことを聞いてきた。なんでそんなこと聞くの? 僕は上手くできる自信ないし怖いよ……
「僕はロディに抱かれる側がいい」
「泣かすかもしれない」
「いいよ」
「じゃあ意地悪していい?」
「ダメ。でもちょっとだけならいいよ」
ちょっと不敵に笑ったロディは『モジャ』の香りがした。僕のお婿さんはイケメンだ。
(完)
最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
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いつも感想をいただきありがとうございます🥰
私の中で大賞という言葉だけでとても嬉しいです😆ありがとうございます✨
誤字報告ありがとうございます。来世でアダムは甲子園目指しましょうか?笑
アダムが投手ならロディがキャッチャーかな?🤣
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いつも感想をいただきありがとうございます🥰
いざ完結してしまうと少し寂しいです🥲
ロディとアダムがずっとこれからも幸せでありますように🙏💕
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