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二章
411.消えた二人
しおりを挟む「マティアス様、さっきの見た?」
ロランドとルキオが部屋に戻ったのを確認するとフェリーチェ様が尋ねてきた。
ルキオはロランドを優しい目で見つめていたし、ロランドはルキオと目が合うとパッと逸らしていた。
「見ました。ロランド様とルキオ、そろそろですよね?」
僕も楽しみだ。まだロランドは想いを伝えられていないみたいだけど、さっきの話の内容からも決意を固めようとしていることが分かる。お節介したくなるけど、ここは我慢だ。
「へーあの二人婚約してるのにまだ、そんな状態なのか。ピグロは知ってたか?」
「なんとなく知ってたけど、まだくっついていなかったのは知らなかった。付き合ってると思ってた」
僕もこの前話を聞くまでは付き合ってるんだと思ってたよ。
「他人の恋って面白いよね。ロランド様は何を躊躇ってるんだろうね?」
「ロランド様はお兄さんがあれですし、お父さんもあれなので、自分に自信がないんだと思います」
「なるほどね。あの父親と兄は色んな意味で強すぎる」
うん、僕もそう思う。僕の兄上も父上も優しくてよかった。
「ロランドの兄貴と親父は強いのか! それはぜひ手合わせしてみてえな!」
「サロモン、強さってのは戦闘だけではないんですよ。ロランド様のお兄さんとお父さんは剣を握ったらサロモンには勝てません。ですが、知略を巡らせてくるのでその点ではサロモンは勝てないかもしれませんね」
「頭脳派ってやつか! 軍師ってことだな! それは俺は無理だ!」
軍師ではないけど、軍師みたいなものかもしれない。社交界という戦場での戦いでは負けることなんてないんだろう。
決して敵に回してはいけない。
ずっと真っ赤になって俯いていたピグロがやっと回復してきたみたいで、バターサンドクッキーに手を伸ばした。
ピグロってリーノのことを話題に出すと、すぐに赤くなったり恥ずかしがって逃げたりするけど、ちゃんと自分から告白したなんて偉い。
もし僕とラルフ様が親が決めた結婚じゃなくて、普通に夜会とかで出会っていたら、どっちから告白したんだろう?
「そうだサロモン、リーノがマナーと教養の先生を引き受けてくれたよ。まだ日程はどうなるか分からない。リーノは騎士としての訓練も続けたいみたいだから、週に数日だけになるか、午前か午後のどちらかになるか、調整することになりそう」
「分かった」
「僕とシルも一緒に受けるよ。貴族のマナーってなるとリーノでは難しいところもあるし、そこは僕が教えることになると思う」
「それ、私も受けたい! 時間が合う時だけ」
フェリーチェ様はマナーなんて必要ありませんよね? お茶を飲む姿とかとっても綺麗だし。フェリーチェ様のことだから、勉強したいんじゃなくて、勉強しているサロモンやピグロを見たいってことかな?
一筋縄ではいかないと思われるサロモンとピグロの勉強会、リーノの負担を減らすために僕も参加することにしたけど、僕も今からちょっと不安です。
騎士のみんなが帰ってきて夕食の時間になると、当たり前のようにサロモンの隣にジェラルド殿下がいた。誰も気にしていないようだけど、僕は気になります。
「ジェラルド殿下、お一人で来られたんですか?」
「そうだよ。何か問題がある? 王都は安全でしょ? ここにはその辺の護衛より強い人が集まってる。何も問題ないよね?」
確かに王都は安全だ。僕はみんなにそう伝えてきた。だけど王族はちょっと違うと思うんだ。安全であっても護衛はつけた方がいいと思う。
「そうですが、王族なので外出時には騎士を同行させてください。それと、うちには王族が召し上がるような豪華な食事はありませんよ」
「うん、いいよ。王宮の食事って堅苦しいんだよね。ナイフがカチャって音を立てただけで咳払いが聞こえたり、静かに黙々と食事するなんてつまんないでしょ? 全然美味しくない」
気持ちは分かるけど、うちには毒味役とかもいないし、いいの?
「食事が済んだら王宮にお戻りください」
「えー、やだ。サロモンの部屋に泊まる」
そんなの無理だよ。王族が泊まるような部屋はうちにはありません。
「この家はマティアスがルールだ。守れないようなら二度とうちには入れない」
ラルフ様が出てきてくれたけど、僕がルールではない。僕は寮長だけど、みんなを見守って、みんなの安全を守るだけで、ルールはみんなで決めるものだ。
「分かった。食事が終わったらサロモンに送ってもらう」
なんだか不貞腐れたように言われたけど、王族に万が一のことがあったらと思うと怖い。
本当にやめてください。
その後、サロモンに送られて殿下は帰って行ったんだけど、サロモンが全然帰ってこなかった。
「ラルフ様、サロモンはもしかして王宮に泊まるんでしょうか?」
「そうかもしれん」
それならいいんだけど。
それなのに、近衛騎士が訪ねてきた。
「殿下がこちらにお邪魔しておりませんか?」
「え? 殿下はうちに来ましたけど、二時間ほど前に王宮に帰りましたよ」
「殿下は戻られておりません。途中で攫われたのでは?」
近衛騎士が焦り始めた。サロモンが一緒だし、それはないと思うけど……
「ラルフ様……」
ふぅ……
ラルフ様は深い溜め息をついた。殿下が帰るのにサロモン一人だけをつけたのは間違いだった。誰かもう一人か二人くらいつけて帰すべきだった。
ラルフ様は騎士のみんなを集めると、サロモンが殿下を連れて消えたと説明して夜の捜索が始まった。
そうだ、ピグロに聞いてみよう。サロモンが行きそうなところを知ってそうだ。
「ピグロだったら、夜にリーノとどこに行きたい?」
「うーん、森の中の湖かなー」
「ラルフ様、南門から出てヤギの群れがいた近くに湖があるはずです。そこを探してみてください」
「分かった。俺がそこへ行こう。案内役としてリーノとピグロも来い。他は王都と南北に分かれて森の捜索を頼む」
僕はもちろんお留守番です。シルもみんながバタバタしているから起きてしまって、行きたいと言ったけどお留守番になった。
「ぼくもいきたかった」
「夜は危ないからね。ほら、まだシルは夜目が利かないでしょう?」
「そっか……」
どうにか思いとどまってくれてよかった。
マリカがヤギのミルクを温めて蜂蜜を入れてくれた。
「これを飲んで寝ようか。明日も朝から訓練だからね」
「うん。くんれん」
今うちにいるのは、ニコラとルカくんとロランド、使用人はマリオとマリカだけだ。
他はみんな出てしまった。タルクとルーベンまで行ってしまった。
だからみんなでキッチンに集まってヤギのミルクを飲んでいる。
「サロモンを外に出す時は、何人かつけないと危険だってことが分かった。特にピグロと殿下、この二人のどちらかと出かけると言った時は危険だね」
「ジェラルドは相変わらずだ」
ロランドが呟いた。ロランドは小さい頃の殿下を知っているから、こうなることはなんとなく予想していたのかもしれない。
ピグロが言っていた森の湖、僕も見てみたかったな。もう少し暖かくなったらラルフ様に相談してみよう。きっとシルも喜ぶはず。
シルがうとうとし始めたからシルを部屋に連れて行って寝かせると、その後はみんなで恋バナで盛り上がった。ロランドの参考になったかは分からないけど、恋バナは楽しい。
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