僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

425.妖精の製造

  
「ねえねえママ、これ騎士団でみんな使ってるんだけど卑猥じゃない?」
 殿下が騎士団で使っているポポ軍つや消しブラックを片手に尋ねてきた。
 卑猥に見えるかもしれないけど、本当はそうではないんだ。実在する海の魚をモチーフにした木彫りの置物で、訓練に使うのは本来の使い方ではない。

「これはチンアナゴという魚の置物なんですよ。決して卑猥なものではありません。武器でもないんです」
「そうなの? でもママもポケットに入れてるよね?」
 入れてるけど……
 しかも僕のは兜を被ったメイスバージョンだ。僕が殴ったところで大したダメージも与えられないと思うけど。

 殿下はポポ軍が騎士団に大量召喚された時の経緯を知らないから、疑問に思ったのかもしれない。
 僕も経緯を知らずにラルフ様が妖精を持ち歩き始めたら、ちょっとびっくりしてしまうかも。
 サロモンが何の疑問も持たずに受け入れたことの方がおかしいんだ。

 僕は殿下に妖精について教えてあげた。
 ポポって呼ばれているけど、シルが海の街で買ったものに名前をつけたのが始まりで、正式名称は分からない。チンアナゴの置物とかかな?
 騎士団にあるポポも半分近くは僕とアマデオが作った。シルも色を塗るのを手伝ってくれた。

「ママが作ってたの? 知らなかったよ。だからこのうちにはたくさんあって、カラフルなものがあるんだね」
「そうですね」
「ラルも変わった絵の持ってた」
 そこには触れないでほしい。ポポママもピエール三号も僕としては塗り直したいんだ。

「殿下も絵を描きたいなら彫りましょうか?」
「いいの? やりたい!」
 社交辞令のような感じで言ってみたのに、意外にも殿下は乗り気になってしまった。

 サロモンはさっきリーブに怒られているのを見かけた。内容は聞いていなかったけど、もしかしたら家の中のものを壊したのかもしれない。
 自分に飛び火しないように殿下はサロモンのことをスルーして僕のところに来たんですね。
 今日はリーノがお休みでピグロとリーノは二人で出かけているし、ネストさんはグラちゃんを連れて森へお散歩に行った。きっと癒されたかったんだろう。

「冬の余った薪で作るので少々お待ちください」
「うん。じゃあ彫るところ見てる」
 そんなところを見ても面白いとは思えないけど、好きにさせておこう。特に害はない。

「団長はいるか?」
「殿下、騎士団の人たちが探しているみたいですよ」
 殿下は小さくため息をついて呼びに来た騎士のところへ向かった。僕は木彫りの作業を続けることにする。
 このまま騎士団に戻ってくれてもいいんですよ。

 大した用事じゃなかったのか、殿下はすぐに戻ってきた。後ろに騎士を引き連れてるのはなんでかな?
「どうしたんですか? 会議をするならリーブに言ってください。サロンを整えてくれますから」
「会議はないよ。書類の確認とサインが必要だっただけ」
「そうですか。では後ろの方はなんですか?」
「ママの彫刻の見学したいんだって」
 別にいいけど、仕事はいいの?

 ラルフ様も度々抜け出して花屋に来たりしていたけど、この国の騎士団ってそんな緩い感じなの?
 僕としてはラルフ様がピンチに駆けつけてくれるからありがたいけど、ちょっと心配になる。王都は平和だからいいんだろう。いいんだよね?

 殿下に書類の確認をお願いしに来た騎士二人は、僕が妖精を彫るところをジッと見ていた。殿下はすぐに飽きて、庭でサロモンとシルとパンと一緒に遊んでいる。

「やってみますか? 木材はたくさんありますし、失敗したら料理をする時の薪にすればいい」
 騎士二人に小型のナイフを渡すと、真剣な顔で彫り始めた。
 やっぱり難しいみたいで、ザクッと深く刺さってしまったり、細かい作業は苦手みたいだ。ラルフ様もフェリーチェ様も、できないと言っていたし、大きな力も時には邪魔になることがあるみたいだ。

「見ていると自分でもできそうに思えるのに、いざやってみると全然思い通りにいかない」
「ママは本当にすごいですね」
 そんなにキラキラした目を向けられても、お茶くらいしか出せませんよ。

 出来上がると殿下とシルを呼んで色を塗ってもらった。
 サロモンは色を塗るのは興味がないみたいで、庭でポポに錘をつけて素振りをしている。今日の監視役はパンだ。パン、頼んだよ。

 殿下はなかなか絵心があるようで、綺麗な景色を描いている。どこでそんな技術を身につけたんだろう? こんな才能があるから色を塗りたいと言ったのかもしれない。

「これ、サロモンと出会った山の上から見た景色。これは東側で、もう一個には西側を描く」
「すごく綺麗な景色ですね」
「思い出の景色なんだ。もう行けないかもしれないけど、覚えているうちにこうして残すことができてよかった」
「二つで一つの作品ってことですね」
「うん。これ、サロモンと一緒に持っていようと思う」
 殿下がちょっと頬を染めている。山で出会ったってのはちょっと気になるけど、二人で一つの作品になるものを持つのはいいなって思った。

 だけど、それをわざわざ妖精のような小さなところに書く必要ある?
 お城なら大きなキャンバスだって用意できるだろうし、覚えているうちに残すなら、もっと大きなところにはっきり見えるように描いた方がいいと思うんだ。

 騎士の二人は何度も失敗しながらずっと妖精を掘り続けている。
 そんなに頑張らなくても、二人は騎士団から支給されたポポ軍つや消しブラックを持ってるでしょ?
 わざわざこんなのを彫れるようになる必要はない。大きな剣を振り回せる方が騎士としては役に立つんだから、無理して続けなくてもいいのに。

 一段落すると、騎士はとうとう諦めて、殿下を置いて二人で帰っていった。
 殿下は帰らないの?
 一体何をしに来たのか。
 殿下は結局、夕食を食べ終わるまでずっとうちにいた。ずっと妖精に絵を描いていたんだけど、団長の仕事しなくていいの?
 フェリーチェ様があまりうちに来ないのって、殿下が頻繁に抜け出してうちに来るせいじゃないよね?
 だとしたら僕は積極的に殿下を騎士団に戻すように頑張るよ。

 
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