僕の過保護な旦那様

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二章

486.最後のチャンス

  
「ただいま戻りました」
「みんなおかえり、無事に戻ってくれてよかったよ」
 ピグロとリーノ、ルキオとロッドが帰ってきた。泥は落とされているけど三人は水浸しだ。共用の井戸で水を被ったか、川にでも入って泥を洗い流してきたのかもしれない。

 四人は肩を落として帰ってきた。気合を入れて行っただけに、収穫なしで戻ってくることになったのが残念なんだろう。
 しかしそれは仕方ないことだ。野盗にこの日に通るので襲ってくださいなんて言えないし、そんなことを伝えれば警戒してますます野盗は出てこない。

「マティアス様、すみません。せっかくマティアス様が提案してくれたのに、上手くできませんでした」
「気にすることないよ。街では運送を受けてくれる人がいないと困っていたんだから、十分役に立ったと思う」
 そんな慰めで四人の気持ちが軽くなるとは思わないけど、ヤギのチーズやミルクを楽しみにしていた王都の人は喜んでいると思う。

 ロランドも珍しく迎えに出てきた。諜報部の仕事と違って、全容が掴めない敵を相手にするルキオが心配だったんだろう。

 その後もピグロの囮作戦は何度か実行されたけど、全然野盗は現れない。
 ロッドは毎回参加するわけではなく、ハリオが参加した日もあった。
 まるでそんな作戦には引っかからないと嘲笑われているみたいで少し不気味だ。

「もう他の地域に移動したのかも」
「その可能性はないとは言えん。いつまで調査を続けるか迷うところだ」
 移動してしまったのなら、これ以上調査を続けても仕方ない。次の運送を最後に、調査は終了することになった。

「悔しい……」
 ピグロがポツリと呟いた。膝の上でぎゅっと握った拳が震えている。かなり時間をかけて調べてきた。慣れないことをして、上手く進められないこともあったと思うけど、みんなで相談して今まで必死にやってきた。だから犯人を捕まえられなくて悔しい気持ちは分かる。

 街の中に拠点を構えている組織と違って、野盗は移動するから調査中に逃げられることも多いとルキオが言っていた。だからルキオは、そんなこともあるさと気にした様子はないけど、隣に座るロランドは落ち込んでいる。
 僕も残念な気持ちはある。みんなが頑張っているのを知っているから……

「ラルフ様……」
「まだあと一回ある。今回逃しても、まだ機会はある」
 そうだよね。そうだよ、あと一回ある。

 最後の囮作戦の決行日、みんなは気合が入った様子だった。ロッドとハリオ、アマデオとグラートまで協力してくれることになった。
 やっと見慣れてきた、泥に塗れて草を被ったみんな……
 見慣れたけど、やっぱりその格好で街の中を歩くのはどうかと思うよ。

「これで最後だね、最後まで応援してるよ。そうだピグロ、普段みたいに肩の力抜いて。殺気立ってたら野盗も警戒するかもしれないよ。これ、荷馬車で食べて」
 シルと一緒に作ったクッキーを渡した。気楽に行ってほしかった。気合を入れれば入れるほど、失敗した時のショックは大きい。僕はそれが心配だったんだ。

 野盗を捕まえられなくても、もう野盗が移動しているなら、今後運送する人に被害は出ない。捕まえられなかったのではなく、追い払ったのだと思えばいいんだ。
 最後ということで、みんなを見送るロランドもそわそわしている。本当はついていきたいのかもしれない。だけどロランドは泥を被って森の中にずっといたら、確実に風邪をひく。
 体調を崩して途中で帰ってくることになると思うから、思いとどまってくれてよかった。

「ラルフ様、最後ですね……」
「マティアス、俺は気づかされた」
「へ? なんの話ですか?」
 ラルフ様は何に気づいたんだろう?

 今更だけど、うちから泥を被っていくのは、街では目立ちすぎるってことに気づいたんだろうか?
 そうだとしても、もう遅いですよ。また同じように森に潜むことがあれば、その時はぜひ街中は普通の服装で歩いてください。

「今日は上手くいくかもしれないな」
 ラルフ様は僕を抱き上げたまま、空を見上げた。
 天気のこと? 今日は晴天で日中は暑くなりそうだ。晴天の空が応援してくれているって言いたいんだろうか?

「ラルフ様、僕もヤギの森の湖に行ってみたいです」
「安全が確保されたら行ってみるか?」
「はい、ぜひ」

 ピグロとリーノも綺麗だと言っていたし、サロモンと殿下も綺麗だったと言っていた。そんなの見てみたいに決まっている。ルカくんみたいに体力があるわけじゃないから、氷の山には登れないけど、日帰りで行ける森の中の湖なら僕でも行けるんじゃないかって思うんだ。
 今日の作戦が終わったら、次の満月を調べてみよう。きっとシルも喜ぶと思う。楽しみだ。

「騎士団に行って、檻を用意しておこう」
「檻?」
 まさか僕は檻に入れて運ばれるの? そんなの罪人じゃないか。足枷も罪人みたいだったけど、あれは足を鍛えるという理由があった。だけど檻なんて何も鍛えられないよね?
 無計画に家出したことを怒って、ラルフ様はとうとう僕を檻に入れて閉じ込めることにしたの?

 騎士団に着くと僕は「絶対に動くな」とラルフ様に怖い顔で言われて椅子に座らされた。とうとう僕は檻に閉じ込められてしまうの?
「シュテルター隊長、荷馬車に乗せました。いつでも出発できます!」
 騎士が何人か集まって、荷馬車に鉄でできた頑丈そうな檻を積み込んだ。
 檻に入れられたまま僕はどこかへ連れて行かれるの?

「マティアス、準備はできた。あとは報告を待つだけだ」
「報告?」
「そのうち誰かがここに駆け込んでくるだろう」
 もしかして、あの用意された檻は僕のじゃない? なんだ、一人で怖い想像をして、逃げようとか色々考えてしまった。また早とちりして逃げなくてよかった。
 そんなことをしては、本当に僕は檻に閉じ込められてしまうかもしれない。危なかった……

 お昼を過ぎて、日が傾きかけた頃にグラートが駆け込んできた。
「犯人を確保しました! 護送用の馬車を借りたい!」
「用意できているぞ」
「さすが隊長! 借りていきます!」

 グラートはラルフ様たちが用意した檻を乗せた荷馬車の御者席に飛び乗って、すぐに出発した。
 グラートって御者ができるんだ? 全然知らなかった。リーブに教えてもらったのかな?

「ラルフ様、こうなることがなんで分かったんですか?」
「マティアスのおかげだ。さすがマティアスだな」
「うん?」
 僕には全然分からない。僕は何もしていないし、一体どうなっているのか?
 ねえ、誰か僕にも分かるように説明してもらえませんか?

 
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