僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

487.報告会と助言

  
 グラートが荷馬車に乗って出かけて、しばらく待っていると、みんなが騎士団に戻ってきた。
 檻の中には薄汚い男が三人、ボコボコな顔で押し込められてちょっと苦しそうにしている。
 こいつらがチーズやミルクを奪っていた野盗か。それにしても三人って少なくない?

「ピグロは?」
「ピグロはチーズやミルクなどを店に届けて、荷馬車をヤギの街に返しに行っています」

 そっか、囮作戦といっても、実際に運送の仕事を受けて荷物を運んでいるんだからそうなるよね。
 リーノたちは一応泥は洗い流されているけど、水浸しのままだ。早く着替えないと風邪をひくよ。

「みんなご苦労様、あとは私たちに任せて。尋問した結果は後で知らせに行くね」
 野盗三人はフェリーチェ様が笑顔で引き取っていった。フェリーチェ様って騎士に戻ったんだろうか? 殿下が戻って落ち着くまでって話だったけど、騎士の仕事をしているフェリーチェ様は楽しそうだから、誰も止められないのかもしれない。

 うちに帰ると、みんなにはお疲れ様ってことでお風呂に入って休んでもらった。
 遅れてピグロも戻ってくると、今日はお昼寝をまだしていないってことですぐに部屋に向かった。ピグロはぶれないね。もう日が暮れ始めているけど、ゆっくり休んで。

 夕食をいただき、ピグロたちが今日の報告をしてくれるというからラルフ様の部屋にみんなで集まった。今日は参加者が多いから人口密度が高くて、窓を開けているのにちょっと暑い。ほぼ全員参加だったんだから、広い食堂で報告してもらえばよかった。

 ピグロが珍しく姿勢を正して僕を見た。
「まず、マティアス様にお礼を言いたい。ありがとう」
「え? 僕?」
 僕はピグロにお礼を言われるようなことをしただろうか? 試練を与えたとかいうやつだろうか? 僕はピグロが野盗と戦いたいと言うから、フェリーチェ様に情報がないか聞いたけど、ただそれだけだ。お礼を言われるようなことはしていないと思うんだ。それとも僕がシルと作ったクッキーがとっても美味しかったんだろうか?

「マティアス様の助言がなければ、今日も失敗していたと思う。そして、捕まえられないまま調査を終えて、被害が出たと思う」
 僕は助言なんてしたっけ? 全く記憶にないんだけど……
 なんの話をしているのか分からず、僕はラルフ様を見た。

「そうだな。俺も気づかなかった」
 そうじゃなくて、なんの話をしているのか説明してほしいんだ。
 分からないまま、僕だけ取り残されて、報告は次へ進んだ。

 ピグロがクッキーを食べながら荷馬車に乗っていると、剣を構えた二人組に通せんぼされたのだとか。そして野盗に怯えたふりをして、石を詰めた木箱をそれぞれ野盗に渡した。そしたら野盗は特に危害を加えることなく、木箱を持って森に消えた。
 そこからはみんなで追跡開始だ。森の奥で野盗のアジトと思われる簡易テントを発見し、囲んで確保したそうだ。テントの中や持ち物を確認したところ、野盗は三人で他に人はいないようだと判断して、グラートに護送用の荷馬車を取りに行かせた。

 話が一通り終わった頃に、リヴェラーニ夫夫が訪ねてきた。
「みんなお手柄だよ。ピグロにもちゃんと報酬出すから楽しみにしてて」
 野盗を捕えたんだから、お手柄なんだろうけど、フェリーチェ様は本当に嬉しそうだ。

「それで? 今まで何度も失敗してたのに、今回はシュテルター隊長もすぐに護送用の馬車を用意したし、何したの?」
「マティアス様が助言をくれました」
「そうなの? それ私も聞きたい!」
 僕も聞きたいです。僕、何か言いましたっけ?

「クッキーを荷馬車で食べるよう渡してくれた。それで、殺気立っていたら野盗が警戒すると教えてくれた」
 うん、クッキーを渡したのは確かだ。そんなようなことを言ったような気もする。でもそれがなんなのか。僕は上手くいかなくても落ち込まないよう、気楽に取り組んでくれればいいと思っただけだ。

「なるほどね、隙が足りなかったと。悪いことする奴らってそういうところ敏感だよね。マティアス様すごいね、だってピグロが荷馬車に乗ってる時の様子見てたわけじゃないんでしょ?」
「そうですね、見ていないです」
「クッキー食べろって助言が秀逸だね。殺気立つなとか隙を見せろなんて言っても、そう簡単にはできない。のほほーんとクッキー食べてたら隙だらけに見える。それ、うちでも囮捜査の時に使わせてもらうね」

 いつも気合を入れていたから、野盗もピグロの実力を感じ取って今までは襲わなかったってこと?
 上手くいったんだし結果的にはよかったんだけど、僕は特に何も考えてなかった。今回も偶然だ。褒められるようなことではない。

 フェリーチェ様の報告で、三人を尋問してみるとフェリーチェ様が探していた組織のボスだということが分かったそうだ。逃げられて行方を追っていたらしい。それで三人だったのか……
「テトラのボスと幹部二人だったんだよね。すごい偶然だけど、もしかしてマティアス様、全部知ってた?」
 テトラって、ラルフ様を攫った悪い奴らだっけ? そんなの僕が知るわけない。だってその組織のことも何も知らないんだから。

 チーズやミルクを奪っていたのは、売って稼ぐのではなく犯人たちの空腹を満たすためだった。なぜチーズなどを狙ったのかは美味しかったからだそうだ。気持ちは分かる。ヤギの街で作られたチーズはとても美味しい。だけど食べたければ奪うのではなく働いてちゃんと購入してください。

 殺しをしなければ騎士団が出てくることもないと思って、細々と食い繋いでいた。だから襲う頻度も低かったそうだ。ほとぼり冷めたら移動して組織再編を企んでいたらしい。
 なるほど、それでフェリーチェ様が嬉しそうにしているのか。
 この短時間で随分と犯人たちから情報を聞き出したんですね。フェリーチェ様が行う尋問ってなんだか恐ろしそうだ……

「これでみんなスッキリ眠れるね」
 そういうと、フェリーチェ様はちょっと豪華な背負子に乗って副団長に背負われて帰っていった。
 あんなにロランドが嫌がった背負子、フェリーチェ様は平気なんですね。

「ラルフ様、解決してよかったですね」
「そうだな。マティアスのおかげだ。今日はマティアスをたくさん愛したい」
「うん。でも少しは加減してくださいね」
「分かった」
 その分かったって、本当?
 今、僕はラルフ様が蜂蜜が入った瓶に一瞬視線を向けたのを見たよ。それって僕の声が枯れるほど愛そうと思ってるってことだよね?

 どっちにしても明日も僕は地に足をつけることがないんだろう。このまま僕はラルフ様の装備品として生きていく、なんてことないよね?

 
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