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二章
494.ママはママ
「読み書きはまた後日にしましょうか」
「そうですね」
サロモンがアックアに行くことに気を取られて、勉強どころではなくなってしまい、仕方なく今日の勉強は終了した。
「ラルフ様、会議は終わったんですか?」
「半分終わった。あとはあいつらがアックアに行く計画のことだけだ」
もう勉強は続けられないし、このままアックアに行く計画を立てるのがいいかな。
「サロモン、隣の部屋に行くよ。アックアの計画立てるんでしょ?」
「すぐ行く!」
サロモンはペンや問題用紙もそのままに、ガタンッと席を立って駆け出してしまった。
僕がサロモンをコントロールできないことが、これで分かってもらえただろうか?
「さすがマティアス様は司令官だね!」
えー? なんで?
僕はラルフ様に抱えられて隣の部屋に移動することにした。元近衛騎士のネストさんも会議に参加する。計画に口を出すためではなく、サロモンの監視と説明役としてだ。
「ピグロとリーノはどうする?」
「俺は頭使って疲れたから昼寝するし行かなーい。リーノは勉強になると思うから行っておいでー」
ピグロはたまにさりげない気遣いを見せる。これって意識してやってるんだろうか。
リーノはまだ隊長ではないし、第二騎士団と第一騎士団が合同で行う会議に参加する義務はない。一応誘ってみたものの、リーノのことだから参加してみたくても遠慮してしまうかなって思ってたんだ。
ピグロが背中を押したおかげでリーノは参加を決めた。
僕もこういうさりげない気遣いができるようになりたい。
それで、僕はなぜ強制的に参加することになっているんだろう?
僕は隊長どころか騎士ですらない。
「ラルフ様、僕も会議に参加するんですか?」
「何を言っている? 参加するに決まっているだろ」
なぜ決まってるのか。ラルフ様は呆れたように僕を見たけど、僕は部外者ですよ?
僕は会議の間、ただその場にいるだけだ。
王族の視察の段取りなんて分かるわけないんだから、そうなるに決まってる。
街道の地図を広げて、どこで休憩するとか、何人の騎士をどう配置して移動するとか話しているけど、さっぱり分からない。へーって感じだ。
アックアの街の地図も広げて、どこに騎士を配置するとか、見学する場所の順番も滞在時間も細かく決めていく。そんなに細かく決めても、そのとおりにいくのか疑問だ。
僕は気になるお店があったらじっくり見たい。「もう時間ですよ」と切り上げられるのは嫌だ。想定しないところに面白いものを見つけたら見たくなるし、特に露店や屋台は好きなだけ見たい。掘り出し物があるかもしれないし。
逆に水車は観光名所だと言われても、ふーんって感じだった。そんなところにそんなに長いこと滞在しても、何もすることがない。
川に入るなら時間を潰せるけど、王族が川に入ったりはしないだろう。時間配分ってどうやって決めてるんだろう?
「サロモン殿はこの時間配分でよろしいですか?」
「俺は鍛冶屋で剣を見たい。それ以外はなんでもいいぞ!」
サロモンはそうなんだろう。だけどこの計画では鍛冶屋の滞在時間が足りないんじゃない?
鍛冶屋に行くのは、どういう想定で時間を決めたんだろう? 僕はそこが気になった。
「サロモン、剣って見るだけ? 買うの?」
「研ぎ直しと、新しいのも買いたい。人を相手にしないからショートソードに変えようと思っている」
シルは剣を買うときに何種類かの剣を試しに振っていた。たぶんサロモンもそうするんだろう。だけどどれくらい時間がかかるのか僕には分からない。
「マティアスが言いたいことが分かったか?」
ラルフ様が唐突に言った。いきなり何の話?
別に僕は何が言いたいってわけじゃない。ただちょっと確認したかったのと、時間が足りないかなって思っただけで、結局時間が適当なのかは分からなかった。
「ぼく、わかった! サロモンはけんをえらぶから、もっとじかんがいる」
シルには言いたいことが分かったみたいだ。シルは本当にすごい。当たり前のように会議に参加してるし、騎士団に入ったらすぐにでも隊長になれそうだ。うちの息子はすごい!
「なるほど。研ぎ直しは大きな欠けがなければすぐにできるとして、剣を選ぶとなると時間が足りませんね」
時間配分はやり直しになった。どの時間をどう削るかで揉め始めた隊長たち。細かく決めているから本当に会議が長くて、僕はもう退屈になってきちゃったな……
それに比べて、ずっと真剣に話を聞いているシルは本当に偉い。
そういえばサロモンが大人しい。珍しいと思ったら船を漕いでいた。どうりで大人しいわけだ。
このよく分からない揉めてる時間って本当に必要なの?
「マティアス様、退屈?」
「そうですね。こんなに時間を刻まれて、大変だなって思いました」
そういうフェリーチェ様も退屈そうですね。さっき欠伸を噛み殺しているのを見ましたよ。
「司令官が退屈してるから今日は終わりにしようよ。時間配分は各自持ち帰って練り直して、後日話し合うのでどう?」
フェリーチェ様、おかしな内輪ネタを広めるのはやめてよね。司令官って誰だ? って顔で隊長たちがキョロキョロしてる。
ラルフ様だけは誇らしげに胸を張っているけど、その反応もおかしいからね。
「フェリーチェ様、面白いからっておかしなことを言うのは止めてください。みんなが混乱していますよ」
「なるほど、司令官ってママのことだったんだね。いいじゃんママが司令官ってぴったり!」
殿下も悪ノリしないでください。僕は司令官なんかできません。
「ジェリー、ママは司令官より軍師だろ」
サロモン、さっきまで寝てたよね? 会話に加わるのはいいけど、加わるならアックアの計画にしてよ。
「ママは寮長だし、司令官でしょ」
「いや、命令だけ下す司令官より、策略を練る軍師だ」
殿下とサロモンが僕が司令官か軍師かというどうでもいい内容で喧嘩を始めてしまった。僕はどちらでもない。
ヒートアップしてもフェリーチェ様は楽しそうにしているし、誰も止めない。
「二人ともいい加減にしなさい! 僕は司令官でも軍師でもありません!」
「ママはママだよ」
シルが言うと、サロモンも殿下も「ママはママだ」と納得してくれた。フェリーチェ様だけがクスクス笑ってるのが気になるけど、無事収まってよかった。
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