僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

517.やっぱり似ている

  
「何を言っているんだ君は!」

 厩舎の方から大きな声が聞こえて、僕たちは慌てて厩舎に向かった。
 そこには困った顔のピグロと、怒り心頭のアンサンセ隊長、そして必死に宥めようとしているリーノがいた。
 もしかしてピグロが何かしてしまったんだろうか?
 でもアンサンセ隊長は普段通りのピグロでいいって言ってたよね? それでも許せないような発言があったということだろうか?

「どうしたんですか?」
「これから昼寝をすると言い出したんだ!」
 なるほど……
 やっぱりアンサンセ隊長は前のリーノに似ている。
 仕事中に昼寝をするなんて許せなかったんだろう。でもこれはピグロの労働条件で雇い主であるラルフ様が許可したことだ。アンサンセ隊長に迷惑をかけるわけでもないんだから、ピグロが怒られる筋合いはない。

「アンサンセ、昼寝と美味しいおやつはピグロの雇用条件だ。俺が雇い主として許可している。気に入らないなら帰れ」
「そんな条件はおかしい!」
「それはお前の勝手な決めつけだ。ピグロは騎士ではない。部外者であるお前が口を出すことではない」
「そうだが……」

「ラルフ、マティアス様、ごめん。リーノも……」
 ピグロは肩を落として頭を下げたけど、怒られるようなことは何もしていない。
「ピグロが謝ることなんてないよ。ピグロはリーノとお昼寝しに行って。僕たちが話をつけておくから」
 リーノにピグロを任せてアンサンセ隊長を落ち着かせるために、ベンチに座らせる。

 フェリーチェ様は呆れた顔で眺めているけど、なんとなく気持ちは分かる。
 ネストさん曰く、アンサンセ隊長は規律に厳しく正義感が強いんでしたっけ? 融通が利かないってことも足しておきたい。

 外で騒いでいたから、部屋にいたネストさんも外に出てきた。
「ネスト先輩! 聞いてください!」
 アンサンセ隊長はネストさんを見つけると駆け寄っていった。自分は間違っていない自信があるのに、ここには誰も味方がいない。やっと味方を見つけたと思ったんだろう。

「どうしました?」
 アンサンセ隊長は僕に弟子入りしようとしたら断られ、リーノにピグロを紹介されて厩舎の掃除を手伝ったこと、昼寝をするなどと言ったことを捲し立てるようにネストさんに話した。

「私も昼寝をしていたので怒られてしまいますね……」
「いえ、先輩は休日ですのでお好きに過ごされて構いません」
「そうですか? ピグロ殿に休日はないんですよ。馬は生き物ですから休日だから掃除も世話もしない、餌もやらないなんてことはできません。彼に昼寝をするなと言うことは、騎士に休日をとるなと言うようなものです」

 アンサンセ隊長は黙ってしまった。休みのことなんて僕は全然考えていなかった。
 馬の世話は重労働で大変だから昼寝くらいいいと思っていたし、仕事さえすればあとは好きに過ごしていいと思っていたけど、ピグロにも休みは必要だ。

 アックアに下見に行く日は不在にしていたけど、それ以外にきちんとした休みをあげていなかった。反省しなければ……

「私は退役後、ヤギの街の牧場で仕事をしていました。自分の仕事をすればあとは好きに過ごして構わない。それが牧場の仕事の仕方でした。騎士とは違う。農家などもそうかもしれませんね」
「そうですか……」
「人を無理やり型にはめてはいけませんよ。色々な型があると知ることが大事です。しかしピグロ殿と行動を共にするのはあなたにはまだ難しいかもしれませんね。リーノでも初めはかなり苦労したようですから」

 ネストさんってやっぱり先生に向いてる。
 ラルフ様は気に入らなければ帰れという考えだし、僕もどちらかと言えばそっちだ。
 どちらのこともよく知っているネストさんがいてよかった。

「色々な型……」
「そうですよ。それを学びたいとこの家に来たのでしょう?」
「そうです」
「理解できないと、ここで終了するのも一つの選択です。ピグロ殿に謝って続けさせてもらうのも一つの選択です。よく考えてみてください」

 アンサンセ隊長は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。ピクリとも動かず、石のように固まって考え込んでいる間に、フェリーチェ様は静かに帰っていった。

「謝ったら許してもらえるだろうか……」
 アンサンセ隊長がポツリと呟いた。ピグロは人を嫌うようなタイプではないけど、どうだろう?

「アンサンセ隊長、お勧めのお菓子のお店があれば一緒に買いに行きましょう」
 そう言うと、ネストさんはアンサンセ隊長の腕を掴んで門に向かって歩いて行った。

「ピグロ殿、すまなかった。これはお詫びに……」
「うん。いいのー? これ本当に俺がもらっていいのー? ありがとう」

 ピグロの反応にアンサンセ隊長は戸惑ってネストさんを見た。ネストさんは穏やかな顔でうんうんと頷いている。
「私は君の仕事についてよく知らないのに一方的におかしいと決めつけて怒鳴った。なぜ怒らないんだ?」
「俺、誰かを怒らせるつもりはなくても、怒らせちゃうんだよね。だからまた何かしちゃったんだと思った」

「君は優しすぎる」
「そうかな? でもまた気に触ること言ったりやったりして怒らせるかも」
「それでもいい。もう怒ったりしないから、観察させてほしい。行動を共にするのは難しいと言われてしまったから、少し離れて見ていようと思う」
「いいよー」
「迷惑はかけないようにする」

 リーノもネストさんもホッとしている。ピグロのことを理解するのは難しいと思うけど、頑張ってください。

「リーノ、俺もっとマナーとか頑張る。俺のせいでリーノの立場が悪くなるなんて嫌だ」
「大丈夫だ。その程度で揺らぐような立場なら、それは私の実力不足ということ。ピグロが気に病むことなどない。ピグロが頑張っていることは私もみんなも知っている」
「リーノありがとう。リーノは格好いいな」

 アンサンセ隊長が羨ましそうにピグロとリーノのことを見ている。そういえばアンサンセ隊長にも想い人がいるんでしたっけ?

「リーノ、今日は一緒に寝たい。だから今から鹿の様子見に行ってくる! リーノは部屋で休んでて」
「今からですか!? 日が暮れますよ?」
「だから急ぐんだよー」

 テキパキと薬などを準備して出掛けていくピグロ。アンサンセ隊長は戸惑いながらも追いかけて行った。彼はピグロのスピードについてけるんだろうか?

 ピグロとアンサンセ隊長は帰りが遅くなるだろうし、リーノはピグロが帰ってから一緒に夕食を食べるだろう。僕はキッチンに行って三人分の夕食を取っておいてもらえるようお願いした。

 
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