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二章
536.シル発見
「マティアス様! シルくん見つかったよ!」
フェリーチェ様が僕たちを見つけて走ってきた。笑顔で手を振っているということはシルは無事なんだろう。
思ったより早くシルは見つかった。
「どこにいたんですか? 今はどこに?」
「シルくんは川で遊んでる。水切りを練習してるよ」
そっか、シルは石が水面をぴょんぴょん跳ねていくのを喜んで見ていた。意外なところでシルとラニエロさんの興味が一致したみたいだ。
危険なことをしていなくてよかった。
「ラルフ様、行きましょう」
「そうだな。あいつには勝手に連れ出すなと言っておく必要がある」
それはそうだ。誰かに川へ行くと伝えてくれれば、みんなで捜索することもなかった。行き先を告げずに消えたりするから信用できなくなるんだ。
「ルーベンが知らせてくれたよ。シルくんが近衛の制服を着た男と川にいたが隊長たちはそれを知っているのか? ってね」
「そうですか。ルーベンもタルクも王都に来ていたんですね」
「到着したばかりだと聞いているよ」
うちにも近いうちに顔を出してくれそうだ。
それにしても二人はなぜ到着して早々に川になんて行ったんだろう?
「じゃあ私は戻るね」
フェリーチェ様は報告をすると騎士団に戻って行った。忙しいのに協力してくれたフェリーチェ様、本当にありがとうございます。
川に着くと、フェリーチェ様の報告通りシルは川に向かって石を投げていた。隣にはラニエロさんとタルクとルーベンもいる。大きな荷物を背負ったままということは、本当に王都に到着したばかりなんだろう。
僕はラルフ様に降ろしてもらって、焚き火を囲むタルクとルーベンに向かった。
ラルフ様は威圧を飛ばしながらラニエロさんに向かっていった。
「二人とも久しぶりだね」
「マティアス様、お久しぶりです!」
「シルのこと見つけてくれてありがとう。二人は王都に到着したばかりなんでしょ?」
「ええ、お昼頃に着きました。護衛は退屈だったのでこれから河原で野営するところです」
長旅を終えたところなのに野営するのか。旅をするだけでも疲れるのに、まだまだ二人は体力が有り余っているらしい。
王都は安全だし、お兄さんたちの護衛はルーベンとタルクが鍛え上げた私兵の皆さんに任せたんだろう。それでも王都から出なかったのは、何かあった時にすぐに駆けつけられるようにってことだろうか。
「川のそばなんて夜はかなり冷え込むんじゃない?」
「大丈夫です。一人じゃないので」
タルクは自分で言いながら少し頬を染めている。ルーベンとくっついて寝るってことか。それなら温かいかもしれないね。
野営する理由って、訓練じゃなくて二人きりで静かに過ごしたかったから?
「ラル、ちがうの!」
シルの叫ぶ声が聞こえて何かと思って行ってみると、ラルフ様が困った顔をしてた。
ラルフ様とラニエロさんの間には両手を広げて立ち塞がるシル。
ラニエロさんはいつもの微笑みだ。
「シル、どうしたの?」
「ラルが、ラニをおこるから」
「うん。シルはそれが嫌だったの?」
「うん」
ラニエロさんはシルを無理やり連れ出したわけではないみたいだ。
シルを抱っこして落ち着かせ、話を聞いてみる。シルってばいつの間にこんなに重くなったの? 僕はもうそろそろシルを抱っこできなくなりそうだ。
息子の成長を嬉しいと思いつつ、少し寂しい気もする。いつまでも抱っこできるよう、僕もしっかり鍛えよう。
シルは何があったのかをゆっくり話してくれた。
第二騎士団の訓練を見に来たラニエロさんを見つけたシルは、水切りを教えてほしいと頼んだそうだ。早く上手くなって僕たちを驚かせたくて、ラニエロさんに内緒にしてほしいとお願いした。
だからラニエロさんがラルフ様に怒られているのは違うと思ったようだ。
威圧を出しているラルフ様は恐ろしい。その前に立つことのできるシルはとても強い。違うことは違うと言える勇気。シルが僕たちの息子であることが誇らしいよ。
「シル、もうラニエロさんのこと怒らないから、石投げるの見せてくれる?」
「うん!」
シルに笑顔が戻った。ラニエロさんと一緒に石を探すシルの背中はまだ小さい。だけど一歩ずつ大人に近づいている。
僕の右手が温かくて大きなラルフ様の手で包まれた。
「ラルフ様、シルは強いですね」
「そうだな。俺なんか簡単に超えていくだろう」
そうかな? ラルフ様という壁はとても高く聳えていると思うんだけど……
それでもシルなら超えていくのかもしれない。
……え? ちょっと待って、まさかシルも人外の強さになるの?
それはちょっと複雑だ。
「ママ、ラル、みてて!」
「見てるよ」
やっとお気に召した石が見つかったらしい。
シルが投げた石は二回水面を跳ねて、川に沈んでいった。
ちゃんとできてる。練習の成果を披露できたシルは嬉しそうだ。
「シル、すごいね! 二回も跳ねたよ!」
「ふむ、見事だった」
「ヒンッ」
ん? なんか僕たちとは違う声が聞こえた気がする。いや、気のせいか。
シルが笑顔で僕たちに駆け寄ってくる。──と思ったら僕の横を通り過ぎた。
え?
僕はシルを受け止めるために上げていた腕をゆっくりと下ろした。ラルフ様が繋いでいた手をぎゅっと握ってくれたけど、僕はとても恥ずかしい……
「パン! むかえにきてくれての?」
パン?
振り向くと、パンにぎゅっと抱きつくシルがいた。なぜここにパンがいるのか。
パン、まさか脱走してきたの?
パンの足元には手綱が落ちている。それを咥えてパンはシルを探しに来たようだ。もしかしたら、シルがいなくなった時はパンに捜索をお願いするのが一番早いのかもしれない。
「ックシュン」
やっぱり河原は風を遮るものがないからちょっと寒い。日が翳ってくると一気に気温が下がる。
そんなことを悠長に考えている暇もなく、僕はラルフ様に抱えられて運ばれた。
「シルを頼んだ!」
ラルフ様はラニエロさんにシルを託した。僕はシルと一緒に帰りたかったけど、走り出したラルフ様を止めることはできない。
ちょっと鼻がむずむずしただけだと言っても、ラルフ様は聞き入れてくれないだろう。
僕は大人しく運ばれるしかないんだ。
ラニエロさんはシルに危険なことをさせる気はないようだし、パンがいれば大丈夫だ。危険があればパンがシルを連れて帰ってくれるはず。パン、シルを頼んだよ。
僕はラニエロさんよりパンに託す。
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