僕の過保護な旦那様

cyan

文字の大きさ
540 / 638
二章

536.シル発見

  
「マティアス様! シルくん見つかったよ!」
 フェリーチェ様が僕たちを見つけて走ってきた。笑顔で手を振っているということはシルは無事なんだろう。
 思ったより早くシルは見つかった。

「どこにいたんですか? 今はどこに?」
「シルくんは川で遊んでる。水切りを練習してるよ」

 そっか、シルは石が水面をぴょんぴょん跳ねていくのを喜んで見ていた。意外なところでシルとラニエロさんの興味が一致したみたいだ。
 危険なことをしていなくてよかった。

「ラルフ様、行きましょう」
「そうだな。あいつには勝手に連れ出すなと言っておく必要がある」

 それはそうだ。誰かに川へ行くと伝えてくれれば、みんなで捜索することもなかった。行き先を告げずに消えたりするから信用できなくなるんだ。

「ルーベンが知らせてくれたよ。シルくんが近衛の制服を着た男と川にいたが隊長たちはそれを知っているのか? ってね」
「そうですか。ルーベンもタルクも王都に来ていたんですね」
「到着したばかりだと聞いているよ」

 うちにも近いうちに顔を出してくれそうだ。
 それにしても二人はなぜ到着して早々に川になんて行ったんだろう?

「じゃあ私は戻るね」
 フェリーチェ様は報告をすると騎士団に戻って行った。忙しいのに協力してくれたフェリーチェ様、本当にありがとうございます。

 川に着くと、フェリーチェ様の報告通りシルは川に向かって石を投げていた。隣にはラニエロさんとタルクとルーベンもいる。大きな荷物を背負ったままということは、本当に王都に到着したばかりなんだろう。

 僕はラルフ様に降ろしてもらって、焚き火を囲むタルクとルーベンに向かった。
 ラルフ様は威圧を飛ばしながらラニエロさんに向かっていった。

「二人とも久しぶりだね」
「マティアス様、お久しぶりです!」
「シルのこと見つけてくれてありがとう。二人は王都に到着したばかりなんでしょ?」
「ええ、お昼頃に着きました。護衛は退屈だったのでこれから河原で野営するところです」

 長旅を終えたところなのに野営するのか。旅をするだけでも疲れるのに、まだまだ二人は体力が有り余っているらしい。
 王都は安全だし、お兄さんたちの護衛はルーベンとタルクが鍛え上げた私兵の皆さんに任せたんだろう。それでも王都から出なかったのは、何かあった時にすぐに駆けつけられるようにってことだろうか。

「川のそばなんて夜はかなり冷え込むんじゃない?」
「大丈夫です。一人じゃないので」

 タルクは自分で言いながら少し頬を染めている。ルーベンとくっついて寝るってことか。それなら温かいかもしれないね。
 野営する理由って、訓練じゃなくて二人きりで静かに過ごしたかったから?

「ラル、ちがうの!」
 シルの叫ぶ声が聞こえて何かと思って行ってみると、ラルフ様が困った顔をしてた。
 ラルフ様とラニエロさんの間には両手を広げて立ち塞がるシル。
 ラニエロさんはいつもの微笑みだ。

「シル、どうしたの?」
「ラルが、ラニをおこるから」
「うん。シルはそれが嫌だったの?」
「うん」

 ラニエロさんはシルを無理やり連れ出したわけではないみたいだ。
 シルを抱っこして落ち着かせ、話を聞いてみる。シルってばいつの間にこんなに重くなったの? 僕はもうそろそろシルを抱っこできなくなりそうだ。
 息子の成長を嬉しいと思いつつ、少し寂しい気もする。いつまでも抱っこできるよう、僕もしっかり鍛えよう。

 シルは何があったのかをゆっくり話してくれた。
 第二騎士団の訓練を見に来たラニエロさんを見つけたシルは、水切りを教えてほしいと頼んだそうだ。早く上手くなって僕たちを驚かせたくて、ラニエロさんに内緒にしてほしいとお願いした。
 だからラニエロさんがラルフ様に怒られているのは違うと思ったようだ。

 威圧を出しているラルフ様は恐ろしい。その前に立つことのできるシルはとても強い。違うことは違うと言える勇気。シルが僕たちの息子であることが誇らしいよ。

「シル、もうラニエロさんのこと怒らないから、石投げるの見せてくれる?」
「うん!」

 シルに笑顔が戻った。ラニエロさんと一緒に石を探すシルの背中はまだ小さい。だけど一歩ずつ大人に近づいている。
 僕の右手が温かくて大きなラルフ様の手で包まれた。

「ラルフ様、シルは強いですね」
「そうだな。俺なんか簡単に超えていくだろう」

 そうかな? ラルフ様という壁はとても高く聳えていると思うんだけど……
 それでもシルなら超えていくのかもしれない。
 ……え? ちょっと待って、まさかシルも人外の強さになるの?
 それはちょっと複雑だ。

「ママ、ラル、みてて!」
「見てるよ」

 やっとお気に召した石が見つかったらしい。
 シルが投げた石は二回水面を跳ねて、川に沈んでいった。
 ちゃんとできてる。練習の成果を披露できたシルは嬉しそうだ。

「シル、すごいね! 二回も跳ねたよ!」
「ふむ、見事だった」
「ヒンッ」

 ん? なんか僕たちとは違う声が聞こえた気がする。いや、気のせいか。

 シルが笑顔で僕たちに駆け寄ってくる。──と思ったら僕の横を通り過ぎた。
 え?
 僕はシルを受け止めるために上げていた腕をゆっくりと下ろした。ラルフ様が繋いでいた手をぎゅっと握ってくれたけど、僕はとても恥ずかしい……

「パン! むかえにきてくれての?」

 パン?
 振り向くと、パンにぎゅっと抱きつくシルがいた。なぜここにパンがいるのか。
 パン、まさか脱走してきたの?
 パンの足元には手綱が落ちている。それを咥えてパンはシルを探しに来たようだ。もしかしたら、シルがいなくなった時はパンに捜索をお願いするのが一番早いのかもしれない。

「ックシュン」
 やっぱり河原は風を遮るものがないからちょっと寒い。日が翳ってくると一気に気温が下がる。
 そんなことを悠長に考えている暇もなく、僕はラルフ様に抱えられて運ばれた。

「シルを頼んだ!」
 ラルフ様はラニエロさんにシルを託した。僕はシルと一緒に帰りたかったけど、走り出したラルフ様を止めることはできない。
 ちょっと鼻がむずむずしただけだと言っても、ラルフ様は聞き入れてくれないだろう。
 僕は大人しく運ばれるしかないんだ。

 ラニエロさんはシルに危険なことをさせる気はないようだし、パンがいれば大丈夫だ。危険があればパンがシルを連れて帰ってくれるはず。パン、シルを頼んだよ。
 僕はラニエロさんよりパンに託す。

 
感想 254

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。