僕の過保護な旦那様

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二章

545.寂しい日

  
 妖精さんが唐辛子を吹く暗器に改造された日からしばらく、僕はラルフ様から離れることを許されなくなった。
 うちで大人しくしていると言っても、「何の計画だ?」と、あらぬ疑いをかけられて許可が下りない。

 ルキオがすぐにうちに連れ帰ったロランドは、体調を崩すことなく今のところ元気に過ごしている。
 体が冷える前に帰ったのがよかったのか、ブランケットに包まれていたのがよかったのか、それともロランドが行っている数々の健康法の成果が出たのかは分からない。

 僕がうちにいる許可が下りたのは、あれから半月も経ってからだった。
 大人しくしていたからというより、騎士団が忙しくなったからだ。貴族が集まってくる時期は、貴族の移動を狙って野盗が出やすい。
 いくつかの貴族の馬車が襲われたことで、騎士団が野盗の討伐に出ることになったんだ。
 貴族の中には野盗の襲撃で私兵の一部を失った家もある。

「ラルフ様、気をつけて。無事帰ってきてください」
「分かった。すぐに帰る」

 ラルフ様の分隊の皆さんはそれぞれ各地に分かれて遠征に向かうことになった。
 先日アンサンセ隊長から聞いたんだけど、ラルフ様の部下の皆さんは、他の隊の隊長にならないかと声がかかっているらしい。

 騎士団にいる時も、彼らはいろんな隊に分かれて指導に当たっている。
 近頃はラルフ様の分隊が全員集まって遠征に行くことはない。みんな強くなりすぎてしまったんだろう。

 だけど誰もラルフ様の分隊から抜けて、どこかの隊長になりたいと、言う人はいない。
 アンサンセ隊長はリーノを引き抜けないかと考えているみたいだけど、それも話は進まないままだ。
 冬は騎士団が忙しいし、動くとしたら春頃になるんだろう。

 ラルフ様の分隊から誰かを引き抜くと、他の団や隊も「じゃあうちも!」と名乗りを上げそうだ。
 だから慎重に動いているのかもしれない。

 今日もピグロの後ろについて歩いているアンサンセ隊長。本当に水面下で慎重に動いているのかな?
 それともリーノの決断を待ってる?

 今日からしばらくラルフ様がいない。ルキオはいるけど、他のみんなも遠征に出ている。明日の早朝訓練は参加者がとても少なくなりそうだ。

「マティアス様、遊びに来たよ」
 フェリーチェ様が荷物を持ってやってきた。副団長も遠征に出ているから、副団長が不在の間はうちに泊まることになったんだ。
 寂しいからうちに来たんですね。
 僕も寂しい……

 今夜からしばらくは一人寂しくベッドで寝ることになる。
 フェリーチェ様が遊びに来てくれたけど、一緒のベッドで寝るわけにはいかない。

「最近はシュテルター隊長がずっと一緒だったから寂しいでしょう?」
「……そうですね」

 寝る時以外は寂しくないと思っていたのに、寂しくなってきた。大きな荷物を持ったラルフ様を見送ったせいだろう。
 そういうフェリーチェ様も、いつもより元気がないように見える。

「フェリちゃんもマティアス様も暗いですね。彼らならすぐに帰ってきますよ」
 ラニエロさんもやってきた。ラニエロさんは何をしに来たんだろう?

「兄貴はこんなところで何してる? 今日はお茶会に同行するんじゃなかったのか?」
「妃殿下が体調を崩されて中止になりました。それでアンの様子でも見に行こうと思ったらフェリちゃんを見つけたんですよ」

 王妃様は体調を崩したのか。ドレスは肩や腕が出ているものが多いから寒そうですもんね。

「彼なら出かけている。私がここに来るときにちょうどピグロたちと出て行くところだった」
「そうですか。ピグロたちということは他にも人が?」
「シルくんとネスト先生も一緒だった」
「そうですか。それは残念です。もう少し早く来るべきでした」

 シルも出かけたのか。ネストさんが一緒なら心配いらないけど、どこへ行ったんだろう?
 シルもうちにいないのかと思うとますます寂しい。ピグロも一緒ということは、おやつの時間には戻ってくるんだろう。

「ラニエロさんは寂しいと思うことはないんですか?」
「寂しいですよ。マティアス様、今日は寂しいもの同士一緒に寝ますか?」
「遠慮しておきます」

 この人は隙を見せてはいけない人だった。その誘うような流し目もやめてください。

「じゃあフェリちゃん、久しぶりに一緒に寝ますか?」
「へえ、そんな余裕な顔してるけど、私の隣で寝るってことは寝首をかかれる覚悟ができたってこと?」
「やめておきます……」
 フェリーチェ様はラニエロさんの撃退方法を知っている。

 おやつの時間になるとシルたちが戻ってきた。
「ママ、うみいきたい!」
「海? 冬に海に行っても泳げないよ?」
「おさかなつるの!」
「魚釣りか。冬の海は寒そうだからラルフ様に相談して暖かくなったら連れて行ってもらおうか」

 なぜ急にシルが海で魚を釣りたいと言い出しのか……
 説明してくれそうなネストさんに視線を送ると、僕の視線に気づいてくれた。

 四人で川に釣りに行ったけど全然釣れなかった。そこにセルヴァ伯爵が馬車で通りかかって、川より海の方が色々な魚が釣れると教えてくれたそうだ。
 なるほど、それで海に行きたいと言ったのか。
 僕も海は楽しかったからまた行きたい。家族水入らずもよかったけど、今度はみんなで行きたいな。

「海で釣りですか。それは楽しそうですね。フェリちゃん、私たちも同行させてもらいましょう」
「海なんて一日で行って帰ることはできないんだから兄貴は無理だろ。私は上手く調節して一緒に行くけどね」

 フェリーチェ様は今から行く気満々だ。ラニエロさんは何日も連続してお休みを取ることは難しいらしい。残念でしたね。

「ふふ、妃殿下の視察を捻じ込めば、問題ないでしょう?」
「やめろ。ガチガチの予定組んでそれに合わせるとか冗談じゃない。却下だ」

 僕も遠慮したい。王族の視察にはできれば二度と付き添いたくはない。進行は遅いし、予定がぎっしり詰まって自由に遊ぶ時間もない。
 そんな予定ぎっしりで海に行っても楽しめません。
 何よりラルフ様が嫌がるだろう。

「マティアス様は如何ですか? 妃殿下との親交も深められますよ」
「遠慮しておきます。王妃様と親交を深める理由も無いですし、王妃様が海に視察に行くなら僕たちは予定をずらします」
 ここははっきり言っておかないと、巻き込まれてからでは遅い。危ない危ない……

「ラニエロ、マティアス様たちを巻き込んではいけませんよ。出奔されたらどうするんですか? どうしても同行したいならアンサンセ隊長に休みを調節してもらいなさい」
「……分かりました」

 ネストさんが援護してくれたから助かった。
 ラニエロさんもネストさんには素直に従うようだ。もしラニエロさんが同行することになったらネストさんにもついてきてもらおう。

「海に行くかどうかはラルフ様に聞いてみないと分かりませんよ」
 これは伝えておかなければならない。ラルフ様がいないところで話を進めてはいけない。
 でももしみんなで海に行けるなら楽しそうだ。

 
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