僕の過保護な旦那様

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二章

563.マティアスとロランド

  
「ラルフ様、トラくんとお話できてよかったですね」
「そうだな」

 ラルフ様は満足そうに頷いている。
 僕はあまりないけど、子どもに怖がられるのは地味に心を抉るのかもしれない。

 サロモンはどうなったんだろう?
 サロモンを見ると、もう騎士団に行く準備をしていた。最近は騎士なんじゃないかと思うような生活をしている。

「ラルフ様、サロモンは騎士団には入れないんですか?」
「この国は他国出身の騎士を受け入れていない。だが国に貢献すれば不可能ではない」

 その辺は殿下がどうにかできるんだろう。サロモンは実力もあるし。
 ただしどこに所属させるかという問題がある。そしてマナーが苦手で、まだ文字の読み書きも計算も人並みとは言えない。
 一番の問題は人に迷惑をかけることがあるということだ。騎士団に所属させず自由にしておく方がいいのかもしれない。

 ラルフ様も僕の看病という名目で休んだり、街の見回りと言いながら花屋に勤める僕を見守ったりしていた。だけど城の城壁に登ったり、鹿や熊を街に連れてきたり、北門で焚き火をして肉を焼いたりはしない。

 騎士の制服を着た人がそんなことをしていたら、街の人からお叱りを受けそうだ。
 やっぱりサロモンは騎士団に所属しない方がいいのかもしれない。

「マティアスは今日は留守番だ。俺がいなくて大丈夫か?」
「もう熱もありませんし大丈夫ですよ」
「何かあればすぐに俺を呼べ」
「分かりました」

 そんなに心配しなくても、一応病み上がりの僕は家の中で大人しくしておきます。
 また熱なんか出たら大変だからね。ロランドに暖かい部屋で健康法について教えてもらおう。

「ラルフ様、行ってらっしゃい」
「行ってくる」

 ラルフ様は何度も何度も僕を振り返り、一度戻ってきて「本当に大丈夫か?」と確認してから出勤していった。

「ロランド様、今日は何をする予定ですか?」
「ルキオが諜報部の仕事でいないから、刺繍の練習をする」
「そうですか。僕もご一緒していいですか?」
「構わない」

 ロランドは刺繍がとても下手だ。だからもうとっくに諦めていると思ったのに、まだ練習を続けていた。
 僕は心が折れて何度も止めてしまったから、続けられることがすごい。

 ずっと続けているのだから上達したのかと思ってロランドの手元をチラッと横目で見てみる。
 残念ながら糸が複雑に絡まって取れなくなっていた。それはもうハサミで切るしかない。
 相変わらずの腕前みたいだ。

 外ではシルとトラくんの声が聞こえる。
 こんなに寒いのに子どもは元気だ。いや、僕とロランド以外は年中元気な気がする。

 僕はそんなに体が弱いという自覚はなかったけど、屈強な騎士のみんなと比べると、一年に二回くらいは風邪をひいてしまう。それって弱いんだろうか?

「ロランド様は一年に何回くらい熱を出すんですか?」
「数えたことがないな。冬は月の半数は熱が出る。だが今年はアレがあるから大丈夫だと思う」
「アレとは?」
「以前見せた瓶に入った緑の粉だ」

 そういえば、ロランドは枕元に置いておくと半年で筋骨隆々の体になれるとかいう怪しい粉を買っていた。
 今のところ筋肉質になったようには見えないけど、実は脱いだら筋肉がついていたりする?
 まさかね。

「効果はどうですか?」
「まだ体型に現れるほどではない。だが、体調を崩しにくくなった気がしている」

 ロランドは筋骨隆々になりたいわけじゃない。虚弱体質を改善したいんだから、少しでも効果があるならよかった。
 本当に効果があるのなら僕も欲しいけど、まだいまいち信用できない。
 ロランドは怪しい粉を買う以外にも色々な健康法を試しているから、粉ではなく他の健康法の効果かもしれない。

「マティアス様、すまないが糸を切ってもらえないか?」
「分かりました」

 話をしながら刺繍していたのがいけなかったのか、ロランドの手に糸が絡まっていた。なぜそんなことになるのか僕は今でも分からない。
 糸が絡まってどうにもならなくなることはあるけど、僕は糸が手に絡まったことはない。

「ふぅ……刺繍が上手くなる魔法の粉があれば買ってしまいそうだ。しかしそんな都合のいいものは存在しない」
「そうですね」

 枕元に置くだけで健康になる粉は信じられても、刺繍が上手くなる粉の存在は信じられないんですね。
 僕にはその違いが分からない。

「刺繍は難しい。肩も痛くなるし、たまに指を針で刺してしまう。針で刺しても血が出ないことがあるのは不思議だな」
「それ、僕も思っていました。針で刺したのに血が出ないと、幻かと思ってしまいます」
「そうか、幻か。そうかもしれん」

 痛いんだから幻なんてことはないと思うけど、僕にもよく分からない。

 バタンッ
「マティアス、体はどうだ! 辛くないか?」

 突然ラルフ様が帰ってきた。
 ノックもなく急に扉が開いたから、僕は驚いて指に針がチクッと刺さって痛さと驚きで一瞬息が止まった。
 痛すぎたのに、今回血は出なかった。まさかこの痛さも幻?

「ラルフ様、おかえりなさい。体は大丈夫ですがお仕事は?」
 ゆっくりと息を整えながらラルフ様を見つめると、ぎゅっと抱きしめられた。ここにはロランドもいるんですけど……

「心配で休憩時間に帰ってきた。少ししたら戻る」
「熱もないですし大丈夫ですよ」
「そうか。危ないことはするなよ?」
「しませんよ。室内で大人しく過ごします」

 なんでそんなに心配なんだろう?
 数日前に少しだけ熱が出たけど、悪化させて寝込んだわけではない。
 前にアンサンセ隊長が森に入って拗らせたからだろうか?
 僕はそんな無謀なことはしない。そんなことをしたら死んでしまうかもしれないからだ。

 僕は優しく看病してもらいたいなんて願望はない。ラルフ様は僕が病気じゃなくてもいつも優しいからそんなことしなくてもいいんだ。
 この前、僕をサロモンに背負わせたことは謎だけど、恨む気持ちはない。

「寂しくないか?」
「大丈夫です。ラルフ様がお仕事を終えて帰ってくるまで待てます」
「そうか」

 ラルフ様は納得したような返事をしたのに、少し不満そうに僕を見下ろした。
 寂しいから行かないでって言ってほしかったの?
 そんなこと言ったら、ラルフ様は本当に仕事をサボってしまうから言いませんよ。僕は夫の足を引っ張ったりしない。

「いってらっしゃい」
 僕は笑顔でラルフ様を見送った。

「マティアス様、本当は寂しいんだな」
「そうかもしれませんね」
「いいな。二人は相思相愛だ」

 ロランドが静かに呟いたけど、ロランドとルキオだってはたからみら相思相愛に見えますよ。
 そろそろ決意を固めて想いを伝えてみたらどうかな?

 
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