僕の過保護な旦那様

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二章

564.ロランドの思い出

  
「マティアス!」
「ラルフ様、おかえりなさい」

 みんなはまだ帰ってきていないというのに、ラルフ様だけ息を切らせて帰ってきた。ラルフ様がそんなに呼吸を乱しているのは初めて見た気がする。

「大事ないか?」
「大丈夫ですよ。大人しくしていましたから」

 そんなに心配だったの?
 風邪をぶり返すようなことはしていない。暖かい部屋でロランドと刺繍をしたり、健康について話をしていた。
 途中でシルやタルクたちが合流して、お茶を飲んでおやつを食べたけど、僕はずっと室内にいた。

 額や頬や首筋にベタベタと触れて、ラルフ様は僕がまた熱を出していないか確かめているみたいだ。
 そんなに触れられると擽ったい。

「熱は出ていないようだな」
「熱が出るようなことはしていませんから。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

 なぜか分からないけど、僕が何度大丈夫だと言ってもラルフ様は信じてくれなくて、ブランケットを僕に被せた。そして僕を抱えて暖炉の前に座った。

「何かあったんですか?」
「心配なだけだ」

 本当にそうなんだろうか?
 今日はいつもより過剰に心配しているように見える。
 じっと見つめてみたけど、僕に説明してくれる気はないらしい。

「俺がそばにいるから大丈夫だ」
「うん」

 夕食の準備ができたとメアリーが呼びにきてくれて、僕はラルフ様に抱えられて食堂へ向かった。

 ん?
 みんなやたら距離が近くない?
 グラートがリーブにベッタリくっ付いているのはいつものことだけど、アマデオはニコラにベッタリくっ付いているし、ハリオは珍しくルカくんを膝の上に乗せている。
 ピグロとリーノもくっ付いているから、シルはアンサンセ隊長と並んで座っている。

 これは絶対に何かあったんだ。
 話を聞こうと思ったのに、ラルフ様は僕を膝の上に乗せて放してくれなかった。
 そしてみんな食事を終えるとさっさと部屋に引き上げてしまったんだ。

 取り残されたのはロランドとルキオ、そしてシルとアンサンセ隊長だけ。

「ラルフ様、何があったんですか?」
「みんな心配なだけだ」

 そんなわけないよね?
 また僕だけ教えてもらえなかった。
 ロランドに視線を送ってみたけど、ずっとうちにいたロランドが知っているわけもない。ルキオは僕と一瞬目が合ったのに、あからさまに逸らした。
 ラルフ様が言わないことを勝手に言うわけにはいかないってことだろう。

 アンサンセ隊長は……
「私ももう戻ります」
 話を聞く間もなく、逃げるように部屋に戻ってしまった。

 答えを教えてもらえないまま、僕はラルフ様の腕の中で眠ることになった。
 誰か教えて!

 翌朝目が覚めても、ラルフ様は僕を抱えたままベッドから出ようとしない。
 風邪は治っているし、心配をかけるようなことをした覚えもないのになんで?

「今日は早朝訓練をしないんですか?」
「しない」

 ラルフ様も疲れることがあるんだろうか。
 そう思っていたのに、今朝は誰も早朝訓練に参加しなかった。タルクたちもラニエロさんも来ていない。
 こんなことは初めてだ。

「いってらっしゃい」
「行ってくる。外に出るなよ?」
「分かりました」

 ロランドと首を捻りながら今日も暖かい部屋で過ごす。寒い日にわざわざ外に出ようとは思わない。
 窓から見る限り、今日はとても風が強い。庭の木がしなるほどだ。

「みんなの様子、おかしかったですよね?」
「そうだな。早朝訓練が中止になるのは珍しい」
 ロランドも寒い日は外に出ないから、情報が入ってこない。リーブに聞こうと思ったけど、優しい笑顔で壁を作られた。

「マティアス様、ロランド様、元気にしてる?」
「フェリーチェ様、いいところに来てくれましたね」
「うん?」

 僕とロランドはフェリーチェ様なら絶対に情報を持っていると思い、一気に詰め寄った。
 他の人から見たら遅いと思うけど、僕たちにとって最大の速度だ。

 フェリーチェ様に話を聞くと、陛下の祖母にあたる先先代の王妃様がお隠れになったのだとか。
 風邪を拗らせ肺炎になり呆気なく……
 それでラルフ様を含めみんなが心配していたのか。
 みんなの距離が近かったのは、パートナーの些細な変化も見逃さないためだろう。

 人の生死に関わる話だから僕には言いたくなかったのかもしれない。
 肺炎で呆気なくと聞くと、アンサンセ隊長は本当に危なかったんだと分かる。もう二度と風邪を悪化させるためにずぶ濡れで森になんて入らないでください。

 理由が分かってスッキリしたはずなのに、なんとも後味が悪い……

 ロランドが不意に立ち上がり、窓際まで行って空を眺めた。急にどうしたのか。

「とても厳しい方だった。陛下と私の兄はいつも怒られていたが、私は怒られたことはない」

 目を閉じて、思い出に浸っているようだ。
 僕はお会いしたこともないし、どこで暮らしているのかも知らなかった。

「ロランド様は先先代の王妃様をご存知なんですね」
「小さい頃に数回会ったことがある。私が咳をしていると、花の砂糖漬けをくれた。あれを舐めていると咳が止まった。あれは何の花だったんだろう。聞いておけばよかった」

 そんな思い出があるんですね。
 数回ということは、先先代の国王が退いた時に彼女も隠居したんだろう。

「咳止めに効果がある花の砂糖漬けというのは気になるね。調べておくよ」
「フェリーチェ様、よろしく頼む」

 その日ロランドはずっと窓辺で空を眺めていた。
 簡単に会える身分の人ではないけど、知り合いがいなくなって寂しいんだろう。

「……思い出せない。砂糖がまぶしてあるから白く見えたのか、それとも白い花だったのか。実は花ではなく花の形を模したものだったのかもしれない」

 ん? ロランドは思い出に浸っているのかと思っていたけど、咳が止まる花の砂糖漬けが気になっただけだったようだ……

「マティアス!」
「おかえりなさい、ラルフ様」

 今日は休憩時間には戻ってこなかったけど、夕方にまた息を切らせて誰より早く帰ってきた。
 風邪を拗らせて肺炎になってしまうことがあると知った僕は、風邪が治っても無茶はしない。

「マティアス、大事ないか?」
「ええ、今日も暖かい部屋でゆったりと過ごしていました」
「そうか」

 僕の無事を確認すると、ラルフ様はゆっくりと呼吸を整えて、僕を攫った。
 また暖炉の前にいくんですね。

 
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