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二章
572.手紙
僕がラニエロさんに早朝訓練再開の手紙を書いた翌日、早朝訓練に全員が揃った。
ラニエロさんだけでなく、タルクとルーベンもいるしトラくんもいる。もちろんジョーさんもいる。昨日は午後から雪が積もった森を駆け回ったんだよね?
ストレス発散できたのか、鼻歌なんか歌って楽しそうに準備運動をしている。
今日も猫耳の帽子をかぶっているトラくんは可愛い。シルと並んでいると、仲のいい兄弟に見える。
トラくんとシルの勉強会も再開かな。
トラくんの視線はチラチラとラルフ様に向いている。ラルフ様が憧れなんだっけ。相変わらずサロモンのことは苦手なようで、ちょっと警戒しているのが可愛い。
「マティアス様、おはようございます」
寒い朝なのに、ラニエロさんにものすごく爽やかに挨拶をされた。何かいいことがありましたか?
「マティアス様からのお手紙嬉しかったです」
ラニエロさんの言葉に僕を抱っこしているラルフ様の腕にグッと力が入った。何か気に入らなかったんだろうか?
僕はラニエロさんに愛の告白の手紙を送ったわけじゃない。早朝訓練再開の連絡をしただけだ。手紙というより報告だ。変な言い方はやめてほしい。
「早朝訓練、みんな好きなんですね」
「こんなに楽しい訓練はありませんから。ふふっ」
騎士団の訓練と何が違うのか、戦えない僕から見たら全然分からない。
僕もラルフ様たちと同じ訓練をしてみれば分かるのかもしれないけど、それは無理な話だ。
ロランドは今日も温かそうな上着を羽織って、ゆっくりストレッチをしている。
僕もロランドと一緒にストレッチをしよう。ロランド曰く、体を柔軟に保つと怪我も病気もしにくくなるのだとか。
どこから仕入れた情報かは分からないけど、体を柔軟に保つのは大切なことだ。
ラルフ様と愛し合う時にもきっと役に立つ。
「ロランド様は今日も部屋の中で刺繍をするんですか?」
「いや、今日は招待状の返事を書く。今年は多いんだ」
ロランドは小さくため息をついた。
仲がいい人への近況の連絡や、仕事の報告なんかは苦になることもない。だけど望まない招待状が次々と届いて、それにお断りの返事をするのはとても大変そうだ。相手を尊重しつつ一通一通丁寧に返事を書くなんて僕にはできそうにない。
僕は誘われることがほとんどないから分からないけど、それぞれ違う内容を書いてるんだよね? ロランドってすごい。
「午後に美味しいお茶とお菓子をいただきましょう。それをご褒美に頑張ってください」
「そうだな。逃げられるものでもない。覚悟を決めて向き合うしかないんだ」
貴族への対応なんて幼い頃からやってきたであろうロランドでもそんなに疲れるものなんですね。
チェルソとマリオに美味しいお菓子を作ってもらおう。
お茶にはやっぱりルムのお酒に漬けたドライフルーツを入れるのがいいかな?
お茶の時間のことを考えると楽しくなってくる。
今日はラルフ様がお休みだし、タルクたちもいる。楽しいお茶の時間になりそうだ。
「マティアス、楽しそうだな。あの男に手紙を書いて喜ばれたからか?」
「違いますよ。今日のお茶の時間のことを考えていました。ラルフ様はお休みだし、トラくんもいるから楽しいお茶の時間になりそうだと考えていました」
ラルフ様はやっぱり僕がラニエロさんに手紙を書いたことが気に入らないようだ。なんの感情も込められていない、ただの報告なのに。
「俺もマティアスからの手紙が欲しい」
「え? まさか遠征でどこかへ行くんですか?」
「その予定はない」
びっくりした。冬の遠征は少し不安になる。雪崩に巻き込まれて剣の鞘だけが届けられた時は血の気が引いた。
四六時中そばにいてほしいとは言わないけど、遠く離れた場所で行方不明になるのはやめてほしい。
無事を疑うことはないけど、心配で生きた心地がしないから。
「前に遠征で遠くに行った時に何度か手紙を書いたと思うんですが……」
「それは過去の話だ。あれらの手紙も大切な宝物だが、宝物はいくつあってもいい。嫌か?」
嫌か? なんて僕に問うのはずるい。宝物なんて言われて嫌なわけないじゃないか。
そうだ、いいことを思いついたぞ。
「分かりました。ラルフ様にお手紙を書きます。楽しみに待っていてください」
「そうか」
ラルフ様は訓練を続けるラニエロさんに向かって、フンッと勝ち誇った顔をした。ラニエロさんに勝負を挑まないでください。なんとなく怖い感じがします。
「楽しそうなので受けて立ちますよ」なんて、貴族みたいな感情が全くこもっていない笑顔で言われたら、僕はどうしたらいいのか分からない。
「では僕は手紙を書くので部屋に戻ります。ラルフ様は引き続き訓練を頑張ってください」
「分かった。誰より厳しい訓練に耐えてみせる!」
ちょっと待って。うちでそんな厳しい訓練するのはやめてください。シルやトラくんが真似したらどうするんですか。それに早朝訓練ってそんなに過酷なものありましたっけ?
僕は少し心配な気持ちを抱えたまま、ロランドと一緒に室内へ戻った。
ロランドは汗をかいたからすぐに着替えたいそうだ。冬に体を冷やすことは命取りだとか言っていた。
命取りって大袈裟な……とは思わない。ロランドの場合は本当に体調を崩して寝込んだりするからだ。
さあ、早く着替えましょう。
せっかくルキオと両思いで幸せな毎日を送っているんだから、その幸せを守ってほしい。
アリオスティ侯爵が動いているから、ロランドにも貴族としての負担が押し寄せてきているけど、どうか頑張って耐えてください。
未来の夫であるルキオが支えてくれるはずだ。
僕も念の為、部屋に戻ると着替えた。
命取りってほどではないけど、また風邪なんてひいたらラルフ様に部屋に閉じ込められてしまう。
さあ手紙を書こう。
ラルフ様の反応が楽しみだ。
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