僕の過保護な旦那様

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一章

7.仕事

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 新年の夜会は、ラルフ様が行かないと言ったから、僕も行きたくなかったし行かなかった。というかラルフ様と一緒に行くのが少し怖かったから、行かないって言ってくれて正直ホッとした。

 年が明けてから、家族には会いに行った。
 昼間にお茶をしただけだけど、ラルフ様とは仲良くしているというと、喜んでくれた。
 嘘じゃない。仲良くはしてる。一緒に寝ているのに、まだラルフ様は僕に手を出さないけど。
 それで婚姻の書類にサインをしてもらったんだ。

 ラルフ様は優しい笑顔で、「ずっと仲睦まじくいよう」と言ってくれた。そんな風に思ってもらえるなんて僕は幸せものだ。
 二人でサインを書くと、ラルフ様が王城に走って行こうとしたから、それは止めた。
 まさかとは思うけど、陛下に直接渡しに行こうとしたんじゃないよね?

 リーブが貴族院に届けに行ってくれて、無事受理されたと確認できるまでの間に、ラルフ様はまた「王城に聞きに行く!」と走り出そうとしたから必死に止めることになった。

 そわそわしながら待っていると三日後に無事受理されたと報告があった。
「旦那様、マティアス様、ご結婚おめでとうございます」
「マティアス、やっと夫夫ふうふになれたな」
「はい。これからもよろしくお願いします」
 ラルフ様が向けてくれる優しい笑顔に、僕はちょっと泣きそうになった。

 その日の夜、僕たちは使用人のみんなと一緒に、ちょっと豪華な食事をした。
 僕たちはどちらも跡取りではない。だから、貴族の子息という肩書きはあるけど、半分貴族で半分平民って感じだ。
 だから、身を立てて爵位を授かる以外は、ほとんど平民のような生活をすることになる。そんなに贅沢はできないからね。


「おっと」
「大変だ! マティアスが躓いた。リーブ、すぐに職人を呼んでこの段差を無くせ」
 僕が不注意だっただけですから、そんなことしなくていいです。転ばないように受け止めてくれたのはありがとうございます。
 僕は躓くことも許されないらしい。
 しかしこの段差への対応はまだマシな方だ。

 先日なんて、僕がラルフ様に呼ばれて振り向いたら、そこに花瓶を置く台があってぶつかってしまい、危うく花瓶を割ることろだった。
 危なかった……とホッとしたのも束の間。
 次の瞬間、花瓶を置く台も花瓶もラルフ様に叩き切られた。

ドガシャーン!

 大きな音がして、使用人もみんな慌てて集まってきた。
 僕が倒して割らなくてよかったとホッとした花瓶は、ラルフ様の手によって粉々になった。

「マティアスの邪魔をするものはもう無い」
 ラルフ様は優しい笑みでこちらを向いたけど、僕は全然笑えなかった。それ以降、うちの廊下には、絵画も花瓶も何も飾らないことになった。


 ラルフ様の行動を思い返していて分かったことがある。僕が近くにいるから、ラルフ様は僕を守ろうと剣に手をかけるんだ。だから近くにいることはラルフ様のためにならないのだと思った。
「ラルフ様、僕は外に仕事に出ることにします」
「なぜだ? 金が足りないのか? それなら俺が稼いでくるから無理して働かなくてもいいんだぞ」
「お仕事をしてみたいんです」
「分かった」

 ラルフ様はいつも僕の意思を尊重してくれる。それが危険なことならダメだと言うんだろうけど、そうでなければ受け入れてくれる。きっと、初めて会った時から、優しい部分は変わっていないんだと思う。

 仕事の紹介所には、リーブが付き添ってくれた。
 ラルフ様が一緒に行くと言ったんだけど、それでは意味がない。戦争のことを忘れてほしいわけじゃないけど、ここは王都で戦場じゃないんだから、もう少しリラックスして過ごしてもらいたいし、リラックスできる時間を多くとってあげたいんだ。

 悲しそうな顔のラルフ様に「危険があれば使え」と短剣を渡されたけど、仕事を探しに行くのに、そんなに危険はないと思うんだ。リーブもいるし。でもせっかく貸してくれたんだからと、僕は持っていくことにした。
 チェーンメイルも着せようとしてきたから、それは丁重に断った。僕が探す仕事は戦闘職ではありません。


 仕事の紹介所って初めて来たんだけど、仕事ってこんなに色んな種類があるのかと驚いた。僕って世間知らずなんだな。

「マティアス様は何かお好きなことや、得意なことはありますか?」
「得意なこと……計算は得意だよ。それくらいしか無い」
 そうか。みんなは得意なことを仕事にするんだな。計算なんか得意でも意味ないんじゃないかな? もっと役立つ特技があればいいのに。

「素晴らしいですね。計算が得意であれば大抵のお店で雇ってもらえますよ。お好きなものなどはありますか?」
「そっか。支払いの時に計算することがあるのか。好きなものか……」
 好きなもの。難しいな。何かあったかな?

「庭の花はお好きですよね?」
「そうだね。花は好きだよ。いい香りの花も好きだし、綺麗な色のものも好き」

「花屋などどうですか?」
「花屋、いいね。花に囲まれて仕事なできるなんて、きっと幸せだろうな」

 そう答えるとリーブが花屋の募集を見つけてきてくれた。内容を見てみると、貴族の屋敷に種や苗を卸したり、プレゼント用の花束を作ったり、平民の人たちへの接客もあるのだとか。
 さっそくそのお店に行ってみると、貴族の対応もできるし計算もできるということで、雇ってもらえることになった。
 仕事は明日からだ。

「お仕事が見つかってよかったですね」
「うん。リーブがアドバイスしてくれたからだよ。ラルフ様のことなんだけど、気を張り詰めていることが多いように見えるんだ」

「そうですね。私も初めの頃は緊張しました。お部屋に入ったら急に剣を向けられたりしましてね」
 やっぱり……
 こうしてリーブが無事でよかったよ。

「もしかして、他の方も一度はラルフ様に剣を向けられているんでしょうか?」
 僕は向けられるどころか首元にピタッと当てられたけどね。そのナイフがスッと引かれたら、僕はここにはいなかった。

「あるでしょうね。今はそのようなことは無くなりましたので、旦那様も少しは落ち着いてきているのだと思いますよ」
 そうか。確かに初めの頃に比べたら、少しは落ち着いてきたのかもしれない。そんなにすぐには難しくても、少しずつ家が気が休まる場所になってくれるといいな。

 こうして僕の仕事が決まって、ラルフ様ももうそろそろ騎士団の仕事に戻るんだと思う。何度か部下と思われる人がそろそろ仕事をして下さいと言いにきていたのを僕は知ってる。
 僕が仕事をしようと思ったのは、それも一つの理由だったりする。

 僕が仕事を始めると、ラルフ様も騎士団に行くようになった。
 お花屋さんの仕事は楽しかった。実家の領地では色んな花を庭師さんが植えてくれていたから、僕は意外と花の名前を知っていた。
 貴族の家に届けに行く時も、貴族の対応を知っているから特に問題も起こらず、貴族の家の庭師の人たちとも話が弾んだ。
 何より、貴族の家のお庭を見ることができるのが楽しかった。今は冬だから色とりどりの花は無い。温室で育てているのは少し見せてもらったけど、きっと春になったらもっと素敵なお庭を見ることができるんだと思う。

 
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