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二章
55.再会
しおりを挟むタルクの件が一応解決して少しすると、フックス家とシュテルター本家から手紙が届いた。もうどちらの家も王都に到着しているらしい。
クリスとフィルがシルと遊びたいと言っていると。シュテルター本家からは、今年は三歳になったばかりのフィルの妹とも連れてきているため、一緒に遊んでくれると嬉しいと書かれていた。
フィルはいつもクリスやシルの面倒をよく見てくれていると思っていたけど、妹がいたのか。
「ぼくね、おにいちゃんになったの」
シルが久しぶりに会ったクリスとフィルに自慢している。うちの子可愛い。
あれからも何度か赤い屋根の教会に行って、子どもたちと遊ばせてもらったから、すっかりシルはお兄ちゃんが板についてきた。
でもクリスとフィルはシルより年上だからな……
しかし、今回は小さな女の子がいる。フィルの妹チェリアだ。髪がくるくるカールしていて可愛らしい。どことなくフィルに似ている気もする。目元だろうか?
フィルが抱っこしていて、恥ずかしいのか顔を隠してしまった。フィルはいいお兄ちゃんだな。
チェリアは女の子なので、今日はメイドが二人ついてきている。男の子の遊びに、小さい女の子が混ざるのは難しいだろうから助かる。うちにもメイドはいるけど、小さい子だし、慣れたメイドの方がいいよね。
チェリアちゃんがびっくりしちゃうから、今日はラルフ様の部下の人たちはいない。いるんだけど、姿は見えない。
「貴族の子を預かるんだから、警備には細心の注意を払わなければならない」
そうラルフ様が気合を入れていて、櫓の上にはルーベンが陣取っている。
そんなところから何を監視して、何が襲ってくることを想定しているんだろう?
「久々に気合を入れます」
今朝いつものように空から登場したルーベンは、僕にそう言うと風のように駆けて櫓に向かった。気合いなんて入れなくてもいいんだけど。何をしようとしているのか分からず少し不安だ。
ニコラはお仕事で、アマデオはニコラを職場に送ってから戻ってきた。
「ニコラの迎えがあるので午後に一度抜けます」
「うんいいよ。そのまま二人でデートしてきてもいいんだよ。こっちは心配要らないし」
「デートは今度します」
そっか、ラブラブで羨ましいよ。
そういえば先日、社交シーズンで貴族が多いねって話をしたら、アマデオはニコラの通勤時にチェーンメイルを着せようとしていた。
ニコラに助けを求められて、王都の中で一度もチェーンメイルが必要だと感じたことはないと、誰もそんなものを着ていないし、仕事の前に体力を消耗することがあってはいけないと長い時間かけてアマデオに説明? 説得した。
渋々という感じでアマデオは引き下がってくれたんだけど、今も僕の袖の内側に付けられている小型ナイフと同じものをニコラのために買ってきた。
「マティアスさんも持ち歩いているんだ。頼むからこれだけは毎日袖の内側に忍ばせていてくれ」
アマデオがニコラに縋り付くように懇願していたから、僕にはそれを止めることはできなかった。これは軽いし、このくらいの願いは聞いてあげてもいいんじゃないかな?
このナイフだって、今まで使ったのは、エドワード王子を脅した時と、ラルフ様が虫を始末した時だけだ。
でも、僕にとってはお守りみたいな感じでもある。いつもラルフ様が一緒にいてくれるような感じ。
他の部下のみんなも色んなところからこっそり見守ってる。そんな感じで家の警備は厳重だから、みんな安心していいよ。
おやつにりんごのコブラーを食べると、みんなで庭に出て罠を見て遊んでいた。それ本当に楽しいの?
例の僕が考案したと捏造された草で作った罠だ。僕が罠など仕掛けていないと信じてくれているのはバルドとニコラだけだ。
「チェリアちゃんは寒いから中にいる? 木でできたブロックを積むのやってみようか」
「やる~」
シルも可愛いけど、女の子も可愛いな。
庭にいる男の子たちはラルフ様とアマデオが見てくれている。なんか身振り手振りを見る限り、また何か変なことを教えている気がするけど、危険はないのだと信じたい。
しばらくは庭が見えるサロンでチェリアちゃんとメイドたちと遊んでいたんだけど、男の子たちが寒いと言ってバタバタと戻ってきた。
「よし! かくれんぼするぞ!」
ラルフ様の言葉に、男の子はみんな散っていった。その騒々しさにチェリアちゃんは目をパチパチ瞬いて驚いている。探すときには一緒に連れていってあげようかな。
「マティアスも探してみるか? みんななかなか上手いところに隠れるぞ」
僕の中でかくれんぼって、「どこだろうな~?」「み~つけた!」みたいな楽しいものだと思ってたんだけど、チェリアちゃんを抱っこしたメイドを連れ歩いても誰一人見つからなかった。
ただ家の中を散策してるだけみたいになって、チェリアちゃんは飽きてしまったので、またサロンに戻っていった。
みんな本気すぎない?
本当にどこにいるか分からないんだけど。前にシルが隠れていた、シルの部屋のクローゼットの壁の奥も見てみたんだけどいなかった。
「ラルフ様、降参です……」
「マティアスが敵なら子どもたちの勝利だな」
負けた……
ラルフ様はまるで自分が勝ったかのように嬉しそうに笑ってる。そんな風に笑うラルフ様が好きだなって思った。
「ラルフ様、キスしてください」
「いいのか? 人に見られるのは嫌なんじゃないのか?」
「え? ここには誰もいませんよね?」
「クリスがいる」
嘘……
ラルフ様にキスをねだるところを子どもに見られていたのかと思うと、恥ずかしくて僕は両手で顔を覆った。
「マティアスは可愛いな。ほら、クリスはそこだ」
ラルフ様が指差す方を見ると、戸棚の上に置いてある箱の影からクリスの服が少し見えていた。
あんなところに登ったの!?
というか、絶対に見られた……
「ラルフ様、見られたと思いますか?」
「なにがだ?」
「その、僕がラルフ様に……」
見られていないよとラルフ様が言ってくれるのを少しだけ、ほんの少しだけ期待しながら聞いてみる。
「俺たちが部屋に入った時から見ていただろう。敵の動きを見ながら隠れる体勢を変えたり、別の場所に移動することも教えたからな」
だよね……僕のわずかな望みは打ち砕かれた。
かくれんぼの最中にキスをねだったりしてはいけない。今日の僕の教訓だ。
後日、母上から、仲がいいのはいいことだけど、濃厚な接触は子どものいないところでお願いね。という内容の手紙が届いて、僕はまた顔を両手で覆うことになった。
濃厚な接触などしてませんから!
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