147 / 570
二章
145.ご褒美はお預け
しおりを挟む「ところでハリオ血まみれだったんだけど、殴って目を覚まさせたの? ちょっとやりすぎじゃない?」
フェリーチェ様に言われて、ハリオが怪我をしたまま向かったことを思い出した。それにしても血まみれ? そこまでだっけ? ルカくんのところに行く間にハリオの傷は酷くなったのかもしれない。
「違いますよ。さっきそこでハリオは盛大に転んでいました」
うちはそんなに過激な夫夫じゃないんだ。誤解されては困る。僕はさっきハリオが転んだ辺りを指さした。あの辺りにはハリオの血の痕があるだろうし、額に刺さったと思われる枝か石も落ちてるんじゃないかな?
「そっか。あまりにもハリオがバカだから、とうとう殴ったのかと。私がルカくんならボコボコにするな~」
フェリーチェ様はそう言ったけど、それって副団長を何度かボコボコにしたってことでいい?
クロッシー隊長の奥様に続き、過激な伴侶二号だ。
フェリーチェ様はさっき僕たちのことを「羨ましくない」って言ったけど、副団長を地面に座らせてその膝の上に座った。
「腕はここだ」
副団長の腕をとってお腹に回させると、「もっとギュッとしっかり支えろ」なんて命令しながら頬は緩みきっている。
「コホンッ、諜報部は潜入したり、街に溶け込んだり、演技力が必要になるからね」
副団長に抱っこされて嬉しいの誤魔化した? 頬の緩みを引き締めたフェリーチェ様は、急に話を逸らした。
可愛い人だ。
シルとリズが戻ってくると、リヴェラーニ夫夫はシルたちの前で、もう一度ハリオたちの感動シーンの再現をした。最後には謎のダンスまで付け加えていた。多才ですね。
「すごい! きからとんだのすごい!」
シルは演技より木から飛び降りたフェリーチェ様を褒めた。でも褒められたから満更でもない様子だ。
フェリーチェ様はシルが褒めるものだから、何度も木に登って飛び降りるってことを繰り返している。
フェリーチェ様も副団長も楽しそうだからいっか。
そんな感じでみんな仲良くサンドイッチを食べ、午後になると帰ることになった。
ハリオとルカくんは戻ってこないから置いていく。ハリオの馬を残しておけば相乗りして帰ってくるだろう。
ルーベンとタルクは一緒に来たことを忘れるほど姿を見ない。本当に二人はどこまで鍛錬に行ったんだろう?
パンの手綱を誰が引くかという話になったんだけど、なんと副団長が引いてくれた。副団長は自分の馬とパンの手綱を持って走っている。
フェリーチェ様が、「この前シルくんを泣かせたお詫びにお前が引け」と一言言うと、副団長は了承して馬を降りた。
それでいいんだろうか? きっといいんだろう。
「最後まで頑張ったら夜はご褒美あげる」
そうフェリーチェ様が言うと、副団長はとっても軽い足取りで馬を二頭引き連れて走っていった。
フェリーチェ様が副団長にあげるご褒美って何だろう? すごく気になる。
「ラルフ様、今日はとても格好よかったです。惚れ直しました」
「そうか。マティアス、俺もご褒美がほしい」
えー!? ご褒美って何あげればいいの? 新作のポポファミリー? いや、そんなのあげても……
ラルフ様は興味なさげにしていたけど、ちゃっかりリヴェラーニ夫夫の会話を聞いていたんですね。
「ラルフ様、何がいいですか? 何か欲しいものがあるんですか?」
「マティアスの愛だ」
「いつでも僕はラルフ様のことを愛してますよ。ちなみに明日はお休みです」
「そうか」
ラルフ様、意味分かってくれた?
愛っていう形をなさないものではなくて、ラルフ様に何かをあげたいと思った。これから暑くなったら僕が作った虫除けハーブオイルはあげるけど、誰にでもあげるようなものじゃなくて、ラルフ様にだけ特別なものをあげたい。
何かいいものがないか考えてみることにする。
自分で誘っておいて、僕はドキドキしていた。
家に帰ると、パンの手綱を引いてくれた副団長にお礼を言って、リヴェラーニ夫夫は帰って行った。
副団長が早く帰ろうと急かしたんだ。ご褒美をもらえると聞いて楽しみにしているんですね。フェリーチェ様も可愛いけど、副団長も忠実な大型犬みたいで可愛い。
しばらくするとハリオとルカくんが馬に相乗りして帰ってきた。
「俺たち、恋人になりました」
ハリオが僕たちに報告しにきてくれたけど、僕たちは知っている。リヴェラーニ夫夫が演じてくれたから、どんな会話があってどうやってくっついたのかも知っている。
「うん。よかったね、おめでとう」
本人たちからも報告を聞くことができたから、その後も二人で話し合って上手くまとまったんだろう。
「ハリオ、大切なものは自分で守れ。その力がお前にはある」
「隊長……ありがとう。俺、隊長の部下でよかった」
ハリオがラルフ様の言葉に感極まって声を振るわせながらそう言った。
やっぱりラルフ様は格好いい。僕の旦那様は格好いいんだ。
そんなことを思っていると、ラルフ様は僕の袖口のナイフを掴んでシュッと振った。もう虫の季節ですか。明日にでもバルドに頼んで庭で虫除けのハーブを炊いてもらおう。そして僕はハーブオイルを量産するぞ。
「マティアスのことは俺が守る」
「いつも守ってもらって感謝しています」
「感謝するのは俺の方だ。マティアスにいつも癒してもらっている」
そうなの? 僕がラルフ様を癒したことなんてあったかな?
「マティアス、いいか?」
「ん? いいですよ」
って何のこと? 思わずいいって言ってしまったけど、何のことだっけ?
僕は一瞬にしてラルフ様に攫われて、ベッドの上だった。でも今日はまだ服を着ている。
「マティアス、今日は森に行ったから疲れているんじゃないか? ご褒美は後日にするか?」
ご褒美って、僕の愛ってそういうこと?
「大丈夫ですよ。僕はラルフ様に相乗りさせてもらっていましたし、森でものんびりお茶を飲んでいただけですから」
「しかし、少し体が冷えている気がした」
そうなの? 全然気づきませんでした。
「じゃあ先にお風呂に入って温まればいいんじゃないですか?」
「そうだな」
ラルフ様はお風呂に柑橘の実をいくつか浮かべてくれた。体が温まるそうだ。
「いい香りですね」
「そうだな」
ラルフ様は後ろから僕を包み込むように浸かっていて、僕の肩にお湯をそっと掛けてくれている。
「ルカくんとハリオ、よかったですね」
「そうだな」
「リヴェラーニ夫夫も仲良しですね」
「俺とマティアスの方が仲良しだ」
なぜかラルフ様はリヴェラーニ夫夫に対抗意識があるらしい。
「うん。僕たちも仲良しです。キスしますか?」
「する」
僕が顔だけ振り向くと、ラルフ様が好きな唇をチュッチュッと啄むキスをたくさんされた。だから僕もラルフ様の唇に吸い付いてみる。そうやっていつまでも僕たちは遊びながらキスをしていた。
ようやくお風呂から上がると体から柑橘のいい香りがした。
「マティアス……」
コンコン
「夕食の準備ができました」
これからという時にリーブが食事の用意ができたと呼びにきて、ラルフ様はお預けを食らってショックを受けている。眉尻が下がって、臨戦態勢だったラルフ様のものがゆっくりと力を失っていくのを見ていた。
「ラルフ様、夜はまだ長いです。ご褒美は後で、僕が上に乗って動きますから」
「分かった。すぐに食事に行こう」
ラルフ様はやっと気持ちを切り替えて、僕のことを抱き上げて食堂へ向かった。なぜ抱き上げる必要があるのかは分からないけど、たぶんくっついていたかったんだろう。僕は抵抗せずラルフ様に身を任せた。
473
あなたにおすすめの小説
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。
「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。
「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」
戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。
そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。
なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか?
その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。
これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる