僕の過保護な旦那様

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二章

168.旅立ち

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「はぁ~、あいつだな。あいつは本当に隠し事ができない」
 僕がフェリーチェ様にこっそりルカくんに会いにお屋敷に行ってもいいか尋ねると、フェリーチェ様はため息をついて、少し考えていた。
 副団長のせいじゃないと思う……気づいたのはグラートで、そのグラートの様子にラルフ様が気づいたんだ。他の人なら気づけなかったと思う。あれ? でもリーブは知ってたんだよね? 他には誰が知ってるんだろう?

「私はあんなにルカくんを追い込んだハリオをまだ許してない。マティアス様がうちに来るのはいいけど、ハリオに悟られないようにしてほしいんだ」
 そっか、そうだよね。僕はハリオの思いを聞いてしまったから、必死に探しているハリオのことを応援したい気持ちもあるんだけど、ルカくんの味方にもなりたい。

 僕は数日後、リヴェラーニ邸にリーブに送られて行ったんだけど、リーブの和かな笑顔が少し引きつっているように見えた。
「グラートじゃないよ。ラルフ様に聞いたんだ。ハリオには話してないしルカくんが望まないなら話す気はないです」
 だからグラートのこと追い出したりしないでね。僕のことも。こんなことで二人の関係にヒビが入ってほしくない。

 久しぶりに会うルカくんは、ハリオと違って思ったより元気だった。ハリオみたいに窶れてはいないし、健康そうで何よりだ。
「元気でよかった」
「心配かけたみたいですみません」
「そんなこと気にしなくていいよ」
 きっとフェリーチェ様からハリオの様子は聞いてるんだろう。だから僕からは何も言わない。

 リヴェラーニ邸もうちと同じで使用人が少ない。庭師はまだ見つかっていなくて、シェフとメイドが三人いるだけだ。だからルカくんがキッチンを手伝ってくれて助かってるそうだ。
 引き抜きじゃないよね?

 いつもハリオのことでモヤモヤしていたから、ルカくんは今は離れて穏やかに過ごしていると聞いた。戻るかどうかはまだ決めていないらしい。

 バタンッ

「フェリーチェ、あいつが来た」
 ノックもなしに突然ドアが開いてびっくりしていると、焦った様子の副団長だった。
「お前の脇が甘いんだろ。私とこいつで止めるからルカくんはこのままここにいて」
「ご迷惑おかけします」
 ハリオにバレたってことか……
 どこからバレたんだろう? 分からないけど僕はこのまま大人しくしておこう。

「ちょっと様子見てみる?」
「そうですね」
 二人で部屋に取り残された僕とルカくんは、窓から門の方を見てみたけど、屋敷に繋がる並木で見えなかった。だけど声と音は聞こえる。

「ルカくん! ごめん! はなせ!」
 ハリオの叫ぶ声が聞こえる。リヴェラーニ夫夫とハリオと僕を送ってくれたリーブだけではないのか、なんだかガヤガヤと複数の声が聞こえる。木が邪魔で全然見えない。
 その日はリヴェラーニ夫夫が追い返したのか、ハリオは諦めて帰っていった。
 僕もそろそろ帰ろうかな。

「ルカくん、居場所は分かってしまったけど、会いたくないなら無理に会わなくてもいいと思うよ」
「はい。まだ会いたくないです」
「うん、分かった。じゃあ僕はそろそろ帰るよ。また遊びに来てもいい?」
「はい。また来てください」
 僕はフェリーチェ様が戻ってくるのを待って帰ることにした。

「え? ラルフ様なんでここにいるんですか?」
 フェリーチェ様と共に戻ってきたのは、副団長だけでなくラルフ様も一緒だった。
「ハリオが暴れていたからな。それとマティアスを迎えにきた」
 ラルフ様は副団長を見て、フンッと不敵に笑った。副団長がいつもうちにフェリーチェ様を迎えにくるから対抗して僕を迎えにきたんですね? なんでラルフ様は副団長に対抗意識を燃やしているんだろう? そこだけはいつも謎だ。

 さっきのことを詳しく聞いたら、ロッドとバルドとグラートが、門のところで暴れていたハリオを引きずっていったそうだ。もしかして反省室という名の牢に閉じ込められているんだろうか?

「会いたくないということでいいか?」
 ラルフ様がルカくんに視線を向けて尋ねると、ルカくんは「今は会いたくありません」と言い切った。
「分かった。伝えておく」
 そう言うと、ラルフ様はなぜか僕を抱き上げて部屋を出ていった。僕は今日は歩けますよ?
 最後に副団長に視線を向けていたから、自慢したかったのかな?

 リーブが御者を務める馬車で家まで帰ると、ハリオはうちの地下室に入れられているとのことだった。
 そういえば騎士団の反省室はグラートが簡単に抜け出せるような構造なんでしたっけ?

「ハリオ、ルカくんからの伝言だ『今は会いたくありません』だそうだ。彼の意思を無視してはいけない」
 ラルフ様が扉の外からそう言うと、出してくれだの会いたいだのずっと騒いでいたハリオが静かになった。
 会いたくないと言われてしまったら、もう大人しくしているしかないよね。

「暴れたり、他の者に迷惑をかけたりしないのなら出してやってもいい」
 ラルフ様はそう声をかけたけど、「会いたくない」と言われたのがショックだったのか、ハリオからの返事はなかった。

 その後一週間ほど大人しくしていたから、ハリオは地下室から出ることになった。僕はその後もハリオは大人しくしてるから反省してるのかなって思ってたんだけど違ったらしい。今年ももうすぐ終わりだと思って雪が降りそうな空を眺めていると、ラルフ様が隣に立った。
「ハリオは迷宮都市ラビリントへ赴任することになった。期間はとりあえず半年だ。その時の状況で延びるかもしれない」
「え? 一人でですか?」
「俺の部下はハリオだけだ。他にも交代要員で何人か一緒に行く。ハリオの監視としてクロッシーが行くようだが、あいつにハリオを止めることなどできんだろう」

 クロッシー隊長って舐められてる? 前にラルフ様が暴れているのを止められなかったし、実力はあまりないのかな? 戦略を練るのが上手いとか、人をまとめるのが上手いとか、そういうことなのかもしれない。
 それでハリオがなんでそんなことになったのかと思ったら、リヴェラーニ邸に押入りはしなかったものの、門の外で何時間も待ったり、手紙を渡してほしいと毎日訪れていたそうだ。ちなみにその手紙はルカくんに渡ることなくその場でリヴェラーニ夫夫に燃やされていたらしい。ハリオが哀れだ……

 ルカくんの安全は確保されているわけだし探す必要もない。会いたくないとは言われているけど「今は」だ。まだルカくんの中にはハリオを好きだと思う気持ちがあって、許してあげたい気持ちも少しはあるんだろう。それならハリオも一人になって考えるいい機会かもしれない。

 哀愁を帯びた背中は見ているのが辛くなるくらいだったけど、僕たちは旅立つハリオを見送った。
「げんきだして」
「ありがとう、シル」
 シルがポポ一族の赤い花が描かれたチンアナゴをハリオに渡した。シルはいつでもみんなの癒しで、ずっと厳しい顔をしていたハリオも、シルの前では眉尻が少し下がった。

「ハリオに次会うのは夏前ですね」
「そうだな」
「あ、でもラルフ様みたいにお休みの時に一時帰宅するかもしれませんね」
「それはできない。ハリオの勤務は連休なしの勤務になっている」
 そうなんだ、じゃあ本当に次に帰ってくるのは来年の夏になるんだ……

「あれ? でもクロッシー隊長ではハリオを止められないんですよね? 勝手に帰ってくるってことも考えられるのでは?」
「大丈夫だ。あいつも一緒だからな」
「あいつ? エドワード王子ですか? それともイーヴォ隊長ですか? まさか副団長じゃないですよね?」
「どれも違う。アリーだ」
 アリー、どこかで聞いたことがあるような……誰だっけ?
 あ! 思い出した。アリアドネ様、クロッシー夫人だ。なるほど、クロッシー隊長は夫人を伴っての赴任なのか……
 そこってラルフ様だけでなく副団長も関わってそうですね。面倒な人たちをまとめて雪で閉ざされる季節に迷宮都市へ送ってしまう。なかなかの策士だ。
 これで王都には平和が訪れたと思っていいのかな?

 ハリオ、ルカくんを受け止められるだけの男になって帰ってくるのを待ってるよ。

 
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