僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

174.記憶喪失と変化

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 はぁ……憂鬱だ。
 ラルフ様はエドワード王子はうちに入れないっても言ってくれたんだけど、それに対抗してきたのか、お茶会の招待状が届いた。
 エドワード王子の奥様からだ。

「マティアスが行きたくないのなら無理に行くことはない」
 ラルフ様はそう言ってくれたんだけど、ちょうどシルと一緒にティータイムを過ごしている時に手紙が届いて、文字を読めるシルが内容を見て喜んだんだ。
「エルマーのおうちいきたい!」
 エルマーのおうちはそう簡単に訪ねていけるようなところじゃないんだよ。とシルに説明しようかと思ったんだけど、キラキラと期待に満ちた目で見られたら、言えなくなってしまった。

 正装、シルの分も必要ですよね……?
 子どもが友だちを訪ねるのに正装着用ってなんなんだ? 僕はそんな仰々しい友だち関係は望んでいない。
 フェリーチェ様がうちに気軽に遊びに来るように、もっと気軽な関係を望んでいたのに……

 断れなかった僕は、リーブを連れてシルと共に王宮に向かった。
 当たり前だけど王宮って初めて入ったよ。
「エルマーのおうちはおしろなの? すごい!」
「……そうだね」
 無邪気にすごい! と感動できるシルが羨ましい。僕もできることなら子どもになりたいよ。

 僕はお茶会で出してもらった紅茶の味も覚えていなければ、話の内容もどこに案内されたのかも、全然記憶にない。
 お茶会は幻だったのかと思うくらい、緊張して記憶が飛んだ。

 ──あれ?
 ふと気づいたら、自分の部屋で木彫りのポポ一族を量産していた……
 僕の周りには木の屑が散らばって、暖炉の火はプスプスと消えかけている。そうか、暖炉が消えかけて室温が下がったから我に返ったのかもしれない。

 ふぅ~っとため息を一つ。僕は散らばった木屑を掃除して、出来上がったポポ一族をシルの部屋に届けた。
 コンコン
 中から返事はなかった。いないのかな?
 それならと、そっと扉を開けてポポ一族が入った箱を入り口近くに置くと、僕は扉を閉めて部屋に戻った。

 これからはエドワード王子や奥様から招待状が届いても断ることにする。シルには悪いけど、僕の精神が持たない。

 ラルフ様が帰ってくると、僕は走って行ってラルフ様に抱きついた。
 ああ、安心する。僕はやっぱりラルフ様がいないとダメだ。
「マティアス、どうした? 今日も大胆だな」
「うん。怖かったです。抱っこしてください」
「甘えているのか?」
 ラルフ様は軽々と僕を抱っこして、運ばれていく間、僕はラルフ様の肩口にずっと顔を埋めていた。部屋に入るとラルフ様はソファに腰を下ろして宥めるように僕の背中をヨシヨシと撫でてくれている。
「聞いた。大変だったな」
「うん」
 って全然覚えてないんだけど……
「王太子妃と王妃まで来たんだろ?」
 え? そうなの? 王妃様と王太子妃様も同席したなんて、そりゃあ緊張しすぎて記憶が飛ぶわけだ。
 やっぱりもう王族に連なる方からの誘いは断る。


 そんな災難もありつつ、無事春を迎えると、王都に集まっていた貴族たちも領地へ戻っていった。
 季節は巡り、もこもこに着込んでいた服を順に脱いでいく。
 今はシャツ一枚で過ごせるくらいの気候だ。

「あとひと月くらいでハリオは戻ってくるけど、ルカくんはどうするの?」
 僕はそろそろ聞いてもいいかなと思って、ルカくんに聞いてみた。

「僕はハリオが帰ってきたらマティアスさんの家に戻ろうと思います。マティアスさんの旦那さんが滞在を許してくれるなら……」
「それは大丈夫だよ。前にも住んでたんだし、部屋はそのままにしてあるから、いつでも戻ってきていいよ」
 僕はルカくんに何か違和感を感じていた。なんだろう? 何かルカくんが違う。

「なんかルカくん太った?」
 思わず僕はとても失礼な言葉を口にして、慌てて口を手で塞いだ。でも言ってしまったものはもう取り消せない……

「太ってません。失礼ですね」
「ごめんなさい」
 ここは平身低頭謝るしかない。本当に失礼なことを言ってしまった。僕だって太ったことを気にしていた頃があったのに、なんでこんなことを言ってしまったんだろう……
 ずっと感じていた違和感の正体に気づいたって思ったら、思わず言ってしまったんだ。でも何か違う気もする。

「くくくっ」
 同席していたフェリーチェ様からは他人事のように、堪えきれていない笑いが漏れている。

「鍛えてるんです!」
「そうそう。ルカくんは真っ直ぐ伝えることが苦手だし、ハリオは意気地なしだから、やっぱり押し倒すしかないよね」
 え? そんな。理由? ルカくんハリオのこと押し倒すために鍛えてるの?
 不純なのか純粋なのか分からない理由だ。

 フェリーチェ様が説明してくれた。家を出てリヴェラーニ邸に来てから、ルカくんはずっとリヴェラーニ夫夫の元で体を鍛えていたらしい。
 ルカくんは何もせずハリオが変わって戻ってくることを待つんじゃなくて、自分を変える努力をしていた。全然知らなかった。厚着していたから冬の間は気付けなかったのかもしれない。それとも僕が鈍感ってこと?

 力こぶを見せてもらったら、僕より筋肉がついていた。なんで? 僕だってルカくんよりもっと前から鍛えてるのに……
 おかしい……

「もしかして結構ハードな訓練してる?」
「そうですね。初めの頃は筋肉痛が酷くて包丁も持てないし、階段さえ登れなくなりました」
 そんなに? リヴェラーニ夫夫って運動できない人の気持ちが分からなさそう……

「それってハリオを押し倒すため?」
「フェリーチェ様は頑張ればいけるって言うんですけど、半年では無理だと思います」
 だよね。元々鍛えていない人が半年鍛えてハリオより強い力を得たら超人だと思う。

「そっか。じゃあなんでそんなに努力できるの?」
 半年とは言っても、その力こぶができるほど努力したのはすごいと思う。僕はたまにサボってしまうから。
「変わりたかったんです。人のことを変えるのは難しいけど、自分を変えるなら自分が決意と努力をすればいいですから」
「ルカくんは偉いね」
 僕は本当にすごいと思った。太ったように見えたのは筋肉がついたからで、それは肉体的な変化だ。それとは別に、ハリオと半年離れてずっと努力してきたルカくんは、顔つきも違うように見えた。
 自分が決意と努力をすればいいと語るルカくんは、なんか格好いいなって思った。

 
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