178 / 573
二章
176.ラルフ様の加減(※)
しおりを挟む「そっか、ルカくんハリオさんのこと追いかけて行ったんだね」
ニコラは最近仕事が忙しくて、ルカくんを見送れなかったことを残念そうにしていた。
ルカくんはハリオがあと半年近く戻ってこないことが分かると、翌朝には出立しちゃったからね。
シルは夏の日差しが眩しい庭でパンと遊んでいる。シルの隣にはエルマー様がいる。
僕は今回のハリオの件で、またシルに驚かされた。誰かがシルに入れ知恵したとか、シルを使ったって可能性もあるんだけど、自ら動いてるんだとしたら末恐ろしい。
ハリオに手紙なんていつ書いてたんだろう?
そういえば僕たちが刺繍している横で紙に何か書いている時があった。もしかしてあれはハリオに手紙を書いてたの?
何書いてるか聞いておけばよかった。
「え!? ハリオを追いかけてルカくんがラビリントに行ったの?」
やっと新婚旅行から戻ってきたフェリーチェ様にルカくんたちのことを話すと、挨拶もできずに旅立ってしまったことを残念がっていた。
そしてクロッシー隊長の対応に呆れていた。
まだルカくんからもハリオからも手紙は届いていない。色々あって二人の関係を修復中なのかもしれない。
「ハリオとルカくんのことは分かったんだけど、あの子はなんでここにいるの? 見たところ侍女が一人しかついていないように見えるんだけど」
エルマー様の存在はやっぱり気になるよね……
僕もちょっと意味が分からないんだ。
ラルフ様曰く、これでも頑張った結果なんだとか。
初めエドワード王子と奥様はエルマー様がシルに懐いたから、シルをエルマー様の友人として王宮に通わせようとしたそうだ。ちなみにシルだけでなく僕も奥様たちのお茶飲み友達として一緒に招くつもりだったらしい。そんなの無理だよ。
そこでラルフ様が断ると、次の策を持ってきた。
じゃあこれでどうだ? この案はどうだ? とラルフ様が断る度に、次々提案を持ってきて、ラルフ様は断り続けた。
そして最後に残ったものがエルマー様に身の回りの世話のための侍女を一人つけて、うちに遊びに来るという案だった。
それもラルフ様は拒否したんだけど、これ以上の譲歩できない。ラルフ様が拒否するなら僕に直接許可をとりに行くとエドワード王子が言い出した。
いつもはそこで奥様が止めてくれているんだけど、今回ばかりは奥様もエドワード王子の味方だった。
それで仕方なくラルフ様は許可を出した。
──と、ここまでは僕がラルフ様から聞いた話だ。
「あの子がシルと友達になりたいと願った結果、こんな感じに落ち着きました」
「うん? 全然分からないね。まあいいや、自分で調べるし」
僕もラルフ様にザックリと聞いただけだから、どんなやりとりがあったのか詳しくは知らない。フェリーチェ様が調べた結果を僕も教えてもらうことにしよう。
「シュテルター隊長、結構頑張ってたみたい。愛だね~」
なんて言いながら、フェリーチェ様は調べた内容を書いた紙を僕に渡してくれた。
初めの頃は、シュテルター邸に使用人が少ないため毎日馬車を出すのが大変ならば、王宮から迎えの馬車を出す。ちゃんと近衛騎士を護衛としてつける。なんて提案があった。
そんなの無理。近衛騎士に囲まれている王族が乗る馬車なんかで迎えに来られたら、僕は倒れてしまう。
ラルフ様が僕に内容を伝えなかった理由が分かる。
日当や報酬を出すみたいな金で解決する内容もあったし、僕のプレートアーマーを作らせるなんてバカみたいな提案もあった。よくラルフ様は拒否してくれた。
最後の方は、うちに来ることを細かく詰めていったような感じだった。うちに来る人数を、一族と護衛や侍女複数名から、一人ずつ減らしていく提案をされていたようだ。それで最終的に残ったのがエルマー様本人と世話係の侍女だ。
やり取りの数は数えきれないくらい多くて、長期に渡ってしつこくされていたことが分かる。
もしかして僕とシルが王宮に呼ばれた頃からずっと続いてたの? ラルフ様はずっと一人で僕のことを守っていてくれた。
僕の旦那様はとても頼もしい。
ああ、ラルフ様早く帰ってきて。
いつも僕のことを守ってくれるラルフ様に、僕は一体何ができるんだろう? 僕ができることなんてたかが知れてる。
刺繍もラルフ様より下手だし、ラルフ様を喜ばせるテクニックだってない。上に乗っても上手く動けないし、いつも僕はラルフ様に啼かされるだけで……
口でしてあげるのだって、飲んだら怒るし。ラルフ様のを飲むのは僕のご褒美みたいなものだ。
……いい案が思い浮かばない。
早く帰ってきてほしいと思う日に限って、ラルフ様の帰りは遅かったりする。ラルフ様が帰ってきたのは、夕食を終えてみんなが部屋に引き上げてしばらく経ってからだった。
「ラルフ様、僕とシルのことずっと守っていてくれたんですね。ありがとうございます。僕もラルフ様に喜んでもらえることをしたいけど、いい案が浮かびません。僕にしてほしいことはありますか?」
「ずっと俺のそばにいてほしい。マティアスを独り占めできるんだから、それ以上の喜びはこの世に存在しない」
そんなに? 独り占めしていいよって言ったのそんなに嬉しかったの?
「今夜も僕を独り占めしますか?」
「する」
ラルフ様は被せ気味に即答した。
そしていつも通り、次の瞬間に僕はベッドの上で裸だった。
「ラルフ様、愛してます」
「俺もマティアスを愛している」
「今夜はラルフ様にとことん付き合います。加減しなくていいよ」
「分かった」
ふふ、またラルフ様の「分かった」が出た。半分信用できないいつもの分かったを聞くと、なぜか安心した。
加減……本当にいつもは加減してたんですね。
「すまないマティアス、もう時間切れだ」
「そう、ですね……」
加減しなくていいって言ったのは僕だけど、朝日が昇っても終わらないなんて思わなかったよ。時間切れってことは、今日ラルフ様がお休みだったら、いつまで放してもらえなかったんだろう?
僕は上半身を起こすことすらできず、ベッドの中から輝くような笑顔で出勤するラルフ様を見送った。
これはもっと本格的に体を鍛え直す必要がある。僕はラルフ様の体力、というか精力を甘く見ていた。
半年でルカくんを変えた凄腕のリヴェラーニ夫夫に弟子入りした方がいいのかもしれない。
443
あなたにおすすめの小説
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
婚約破棄された私が辺境で薬師になったら、元婚約者が後悔し始めました
たくわん
恋愛
病弱で役立たずと侮られ、婚約破棄されて辺境の寒村に追放された侯爵令嬢リディア。しかし、彼女には誰も知らない天才的な薬学の才能があった。絶望の淵から立ち上がったリディアは、持ち前の知識で村人たちの命を救い始める。やがて「辺境の奇跡の薬師」として名声を得た彼女の元に、隣国の王子レオンハルトが研究協力を求めて現れて――。
塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが
詩河とんぼ
BL
貧乏伯爵家の子息であったノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれることとなったラインドール公爵家の若気当主のレオンに嫁ぐこととなった。
塩対応で愛人がいるという噂のレオンやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。
そんな中、レオンが階段から転落し、レオンは記憶を失ってしまう。すると――
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる