僕の過保護な旦那様

cyan

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二章

271.増えた?

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 翌朝、庭に出てみると、準備万端のシルとそれを見守るパンの他に、気合十分という感じのリーノがいた。
 もう既にシルと仲良くなったみたいで、二人で妖精を片手に真剣な顔をして話し合っている。なぜ妖精を持っているのかは分からない。

 そしてラルフ様の前には頭を下げるジーノとルキオ。二人も訓練に参加させてほしいそうだ。

 ラルフ様が僕のことをチラッと見た。
「いいんじゃないですか? 彼らは僕が困っているところを助けてくれました。背負ってくれたし、水も買ってきてくれた」
「分かった。お前たち、マティアスに感謝しろ。ここではマティアスの意見は絶対だ!」
 へ? なんで僕? 僕はただの見学であって訓練には参加しないし、この家の中で最も弱い存在ですよ? 教えられることなんて何もないんだからね。

「「「マティアス様、ありがとうございます!」」」
 三人が僕に向かって深く頭を下げた。

 やめてよ、僕にそんなお礼なんて言わなくていいし。僕は君たちの成長を見守るだけの存在ですから。
 だいたい僕は庭に雪がある間は庭に立ち入ることも制限されてるんだからね。穴に落ちるという格好悪い理由で……
 なんだか悲しくなってきた。

「パン、一緒にみんなの成長を見守ろうね」
「ヒンッ」
 パンはいい子だ。本当に人の言葉を理解してるみたいだ。

「そうだ、ミドリちゃん貸してくれたでしょ? ありがとう。パンにも心配かけたね」
 そう声をかけてみたけど、それは無視された。今はシルが振り回す剣を目で追うのに夢中みたいだ。

 そのうちこの三人もタルクのようになるんだろうか? タルクは何を目指しているのか分からないけど、三人は騎士だから強くなるのはいいことだ。
 ジーノとリーノは兄弟なだけあって、髪型は違うけど顔立ちはよく似ている。騎士としての経験の差なのか、弟のリーノの方が少し細い。
 リーノは二年目、ジーノとルキオは四年目なのだそうだ。そのせいかラルフ様の部下の人たちに比べると体が小さい。あと数年もすれば彼らも筋肉が発達した大きな体になるんだろう。僕は何年鍛えても筋肉美とは無縁な気がする……

「賑やかになりましたね」
 リーブが穏やかに微笑みながら話しかけてきた。人が増えるのはリーブも嬉しいのかな?

 どんな訓練をするのかと見ていたら、シルの剣の素振りを見ているだけだった。ただしリーノ、ジーノ兄弟とルキオはずっとスクワットをさせられていたけど。
 そして終わると、みんなで一緒に朝食をいただいた。
 彼ら三人は幼馴染だそうだ。幼馴染と切磋琢磨しながら騎士を目指すなんてすごく楽しそう。そして三人は騎士になるという夢を叶えた。
 三人がとても格好よく見えた。

 翌日も三人はシルの素振りを見ながら延々とスクワットだ。
 そしてその次の日も。そろそろ違う訓練が始まるのかと思ったのに、スクワットばかりやらされている。

「ラルフ様、あの三人には何も教えないんですか?」
「教えた。この家の敷地内では剣を振るうことは禁止されている」
 確かに家の敷地内で剣を抜くのは禁止だと言ったけど……
 シルの剣は刃がついていないから素振りだけは許可したけど……
 もしかして彼らがスクワットばかりやらされているのは僕のせいだったりする?

 僕は迷った。剣を抜いてもいいと言ったら、ラルフ様は常に剣を持つようになると思う。庭だとしても剣の打ち合いをされるのは怖い。転んで怪我をするのは仕方ないけど、剣で斬られて誰かが流血するところなんて見たくない。

 そうだ、武器ではない武器の妖精がいるじゃないか!

「ラルフ様、剣は禁止ですがポポならいいですよ」
「ああ、アックアに錘を発注している。あれは訓練で振り回すには軽すぎる」
 なんだ、ラルフ様はちゃんと考えてたのか。それにしてもいつの間にラルフ様はアックアまで行ってきたんだろう? 今って街道は雪で閉ざされてますよね?
 フェリーチェ様ですら、雪で街道が閉ざされるからって、雪が降る前に駆け込んでたよ。

「明日、彼らも休みだと聞いているから訓練がてら走って取りに行ってくる」
「分かりました」

 ん? 走って? 僕たちがアックアに行った時は馬だった。ラルフ様の馬に相乗りさせてもらったのに、朝出発して着いたのは空が夕焼け色に染まる頃だった。今は街道が雪に閉ざされて馬は走れないし、どれくらい積もっているかは分からないけど、雪の中を自力で走っていくんだろうか?

 フェリーチェ様と副団長は王都とアックアを走って行き来していたけど、あの時は雪が無かったし、身体能力が常人でないほどに高い二人だ。
 まだ騎士として経験の浅い彼らは大丈夫だろうか?
 雪の中の行軍の訓練も兼ねているのだとしたら、僕が口を出すことじゃない。僕は絶対にアックアまで走って行くなんてできないけど、ラルフ様に教えを乞うと決めたのだから三人には頑張ってもらいたい。
 無事の帰還をお祈りしています。

 戻ってきたら彼らに幼馴染で切磋琢磨した子どもの頃の話とか聞いてみたい。
 僕には切磋琢磨するような友だちがいなかったし、ラルフ様も子どもの頃は大人しくて弱かったと言っていた。必死に剣を練習したり、体力作りをしたこともなかったと聞いた。確かに初めて会った時のラルフ様は細身で、穏やかで優しそうなお兄さんだったから、嘘ではないんだろう。
 なぜか今でもラルフ様は自分のことを弱いと思っているみたいだけど、それはない。

 
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