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二章
343.早朝の出立
しおりを挟む「マティアス、出かけるぞ」
「うーん? 出かけるの?」
早朝にラルフ様に起こされてサッと着替えさせられ、抱えられて馬車に乗せられた。
外はまだ夜明け前で薄暗い。僕はまだ半分眠ったような状態で目も開いていられなかった。
もう季節は初夏で早朝で日が出ていなくても寒くはない。
馬車の心地よい揺れで僕はまた眠りに落ちた。
「んんー!」
ガタゴトと揺れる馬車の中で起きた僕は、一瞬ここがどこで何をしているのか分からなかった。
「マティアス、起きたか?」
「ラルフ様、おはようございます」
「もう少し進んだら休憩と訓練をして、朝食にしよう」
「ん? うん、分かりました」
馬車の中には僕とラルフ様とチェーンメイルを着込んだシルが乗っている。
「シルもおはよう」
「ママもきて」
シルに促され、ラルフ様にチェーンメイルを着せられた。寝起きにズシリと重い感触だ。
出かけると言って馬車に乗せられたことは薄っすらと記憶にあるけど、行き先は聞いた記憶がない。一体どこに行くんだろう? 出かける予定なんて僕は聞いてませんよ。
休憩だと言われ馬車を降りるとみんながいた。本当にみんなだ。いつ王都に来たのかタルクとルーベンもいるし、リヴェラーニ夫夫、ロランドとルキオもいるし、チェルソとメアリー、リーブとグラート、バルドとロッド、アマデオとニコラ、ハリオとルカくん、リーノとピグロ、マリオとマリカもいる。
二十頭近い馬と二台の馬車で結構な大所帯になっている。
僕だけ状況が分かってない。
チェルソとマリオは朝食を作っているし、メアリーとマリカは食器などの準備をしている。
他のみんなは訓練をするらしい。強くなったルカくんは分かるけどニコラも訓練するの?
誰か手の空いている人は……と見渡すとロランドがいた。
「ロランド様、これからどこに行くんですか?」
「私も詳しくは知らない。何か行事に参加すると聞いた」
もしかしてフェリーチェ様が言ってた『面白そうな行事』ってやつ? あの話は無くなったんだと思ってた。
こんなに大勢でお出かけなんて初めてだからすごく楽しみだ。だけど何人かいない。リズは仕方ないとして、ミーナがいない。ミーナは家庭があるし泊まりとかは無理なのかもしれない。ジーノがいないのも寂しい。
「ロランド様、ジーノは後で合流したりしますか?」
「いや、ジーノも誘ったんだがラビリントの仕事が忙しいから行けないと断られたと聞いている」
「そうなんだ……」
仕事なら仕方がないけど、できればみんな一緒がよかったな。
「遠くまで行くのなら、ロランド様はずっと馬に乗っているのは大変じゃないですか?」
「疲れたら馬車に乗っているマリオやマリカと代わってもらえるから大丈夫だ」
それならよかった。
ピグロもいるけどホープはどうしたのかと思ったら、ホープもちゃんと連れてきていた。ピグロが乗っているのかもしれない。みんなとお出かけできるほどに回復したんだね。リーノがピグロを見直した気持ちが分かる。ピグロってすごいんだね。
みんなの訓練が終わって、朝食が配られた。こんなに大勢で囲めるほどのテーブルと椅子を持って行くなんて無理だから、みんな地べたに座っている。
「マティアスはここだ」
ラルフ様にひょいっと抱き上げられて膝の上に乗せられた。いいんだけどちょっと恥ずかしい。
そう思っていたら、ハッとした顔のルキオがロランドを膝の上に座らせた。今は寒い時期じゃないんだから、冷えるかもしれないって心配は要らないよ。ラルフ様はただ僕を膝の上に乗せたいだけだから、真似しなくてもいいんですよ。
辺りを見渡すと、アマデオはニコラを膝の上に乗せているし、副団長もフェリーチェ様を膝の上に乗せていた。ハリオもルカくんに膝の上に乗ってほしいと言ったけど断られていた。
ハリオ、頑張れ。
シルは今日もリーノとピグロと一緒に食事をしている。そこにパンも首を突っ込んでいるのがちょっと可愛い。パンには分からない会話だと思うよ。
バルドとロッドが勝手にいなくなるんじゃないかと思って見ていたけど、二人は大人しく食事をしていた。
「マティアス、バルドとロッドが気になるか?」
「二人で森に入って出てこなかったら、出発が遅れるかもしれないので」
「勝手なことはしないよう言っているから大丈夫だ。もし出発までに行方をくらませたら置いていく」
二人なら例え置いていかれてもすぐに合流しそうですね。今回は馬車が二台だから進行はかなりゆっくりだし。そうなるとルーベンとタルクが退屈してしまいそうな気もするけど、二人は退屈しても輪を乱すような行動はしないだろう。
出発の前に、ピグロは全ての馬の状態を確認して回っていた。ピグロって仕事に対しては真面目だよね。シルとパンも一緒に回っているけど、シルのこともちゃんと見ていてくれる。
ロランドは朝早かったこともあり、次の休憩までは馬車に乗るそうだ。
そうなるとランが機嫌を損ねそうだと思ったけど、ロランドとピグロが説得してなんとか落ち着いてくれた。だけど他の人を乗せるのは嫌なようで、慣れているピグロがホープとランの手綱を引いて走ることになった。
ピグロも体力がありそうだとは思っていたけど、馬と並走するんだ……
「ピグロ、馬と並走なんて大丈夫?」
「んー? 馬車の速度に合わせてゆっくりだから平気ー」
そっか、馬車は人が駆け足するくらいの速度だから、ピグロでも平気みたいだ。さすがにピグロは馬より速くは走れないよね?
そう思っていたのに、ピグロは馬車の速度になんて全然合わせず、二頭の馬を連れてどんどん先に進んでしまった。
「あいつは……」
「ラルフ様、どうしますか?」
「リーノが追いかけたから大丈夫だろう」
それ本当に大丈夫? ピグロの勝手な行動にリーノが激怒して、二人の関係がまた悪化してしまうんじゃないかと心配だ。
気持ちは分かるけど穏便にね。
どこまで先に行ってしまったのかは分からないけど、怒鳴り声は聞こえてこない。リーノは大人になったって言っていたし、冷静に話し合えたのかな?
しばらく進むとリーノとピグロをようやく捉えた。木に馬を繋いでリーノがピグロに詰め寄っている。大声で怒鳴りつけてはいないけど、やっぱりリーノは輪を乱したピグロに怒り心頭だったんだろう。
怒鳴っていないだけ偉いと思う。リーノ、よく耐えたね。
他のみんなは怒ることなく、リーノとピグロを見守りながら体を動かしている。リーノの説教が終わったら出発かな?
ピグロが集団行動をできるとは、僕も思っていなかったよ。
「朝食の場所まで大人しくしていたのが奇跡だったんですね」
「いや、あいつは早朝から勝手な行動をしていた。勝手に馬と森に入って鳥を狩ってきた」
「え? いつの間に?」
「マティアスが寝ている時だ」
やっぱり大人しくしていることはできなかったんですね。
ちなみにピグロが狩ってきた鳥は朝食のスープになったそうだ。ご馳走様です。
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