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31.モヤモヤする気持ち
しおりを挟む体育祭が終わるとすぐに文化祭の準備が始まった。二学期は長いけどイベントが多い。
文化祭は各クラスで出し物をする。それとは別に展示物などをする部活もある。科学部は全員参加じゃないけど展示物を作ることになった。
僕は顧問の先生のところに何度も行って、太陽系の天体模型を作ることにしたんだ。星の大きさや距離もちゃんと再現したい。そんな小さな拘りに気づく人なんていないと思うけど、どうせならちゃんと再現したいんだ。
クラスの出し物は喫茶店になったんだけど、準備はそんなにない。料理部の人たちがマフィンのレシピを何種類か出してくれて、机を並べた上に敷くテーブルクロスは市販のものだし、揃いのエプロンは市販のものにワッペンをアイロンで貼っただけだ。
前日までにする準備は看板を作るくらいしかないけど、すぐに終わってしまった。
だから僕は放課後に残って科学室で模型を作っている。
修二はあれから吉野さんと一緒にいるところをよく見かける。やっぱり二人は付き合っているんだろうか?
とうとう修二に彼女ができたのかな?
お似合いだと思う。クラスのみんなも、美男美女だって噂してたし。いつかこんな日が来ることは分かってた。格好いい修二にしては、彼女ができるのが遅かった方じゃないかな?
分かってたのに……
「あっ……」
発泡スチロールをカッターで丸く削っていたら、指を切っていた。
ポタッと血が落ちて、もう一滴落ちると、やっと痛いことに気づいた。
花火の音みたいに、遅れてやってくる痛み。僕は痛みに鈍感なのかもしれない。
「風間、大丈夫か? 大変だ、すぐに保健室に行こう」
ボーッと傷口を見ていてた僕は、顧問の先生に言われるまで、手当が必要なことにさえ思い至らなかった。
先生が科学室にあったキッチンペーパーみたいなので傷口を押さえて保健室まで同行してくれた。
「血が出てびっくりしたでしょう。浅いから縫うほどじゃないわ」
縫うほどじゃないって言ったのに、保健の先生は薬を塗って、僕の指を包帯でぐるぐる巻きにした。大袈裟じゃない?
これ、お風呂入る時に取っていいのかな?
ダメだったら左手を挙げたままお風呂に入るの?
お風呂のことなんて今はどうでもいいのに、悲しいとか苦しいとかそんな感情が入る隙間がないように、今は頭の中をどうでもいいことで埋め尽くしておきたかった。
指を切ってしまったから、その日の僕の作業は終了となった。
「風間、先生が片付けておくからもう帰りなさい」
「はい」
部活の途中で怪我をするなんて、先生に迷惑をかけてしまった。ここは先生が言うとおり、もう帰った方がいい。
僕は一人、文化祭の準備で騒がしい廊下を通って教室に向かった。
ガラガラとドアを開けると、修二たちはまだいた。吉野さんと修二は隣同士で座っていて、仲良くスマホの画面を見せ合っている。
そんなところ見たくなかった。
仲良くしてもいいけど、僕がいないところでやってよ。
この苛立ちはなんだろう?
叶わないことなんて初めから分かってたのに、なんでこんなに苦しいんだろう?
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